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番外編

ある日の死神元帥と新妻5 ☆

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「はぁっ、ぁ、んっ、んぅっ、……あっ、ギル、さまっ」

 白い胸を揺らし、シャーロットは涙ぐんだ目で夫を見下ろす。両手で精悍な顔を包むと唇を重ね、自ら情熱的に舌を絡ませた。

 結婚当初から比べると、シャーロットも積極的になった。その分ギルバートが教え込んだから、当然と言えば当然なのだが。

 静かな執務室にぐちゃぐちゃという音が響き、堪えきれない嬌声がくぐもって聞こえる。

「んーっ、……ん、ぅ、あ、はぁ、ん」

 キスをしたまま妖艶にうなり、息継ぎをし顔の角度を変えてまたギルバートにキスをする。

 その間も下肢はガツガツと突き上げられ、目の前で火花が散っているのかと思った。

 二人とも貪欲に欲望を貪っていたのだが――。

「……おい、馬鹿。今は駄目だって」

 扉の向こうでセドリックの声がし、他の誰かが「急いでる」とごねるのまで聞こえた。

 ドキンッと胸が跳ね上がり、シャーロットはバッと顔を上げた。

 オロオロと困ってその場から逃げようとするも、ギルバートが腰をしっかり掴んでいて離さない。

「……っ、ギルさま、お願いです、やめてください……っ」

 顔は熱いのに、今の自分は顔面蒼白だと思う。

 小声で必死に懇願した時、執務室の扉が大きめの音でノックされた。

「閣下! 先ほどの客人の使いから、急の伝言のようです」

 張り上げられた声はセドリックだ。

(いやああああぁああぁっ!!)

 恐慌状態になったシャーロットは内心絶叫し、ただギルバートにしがみつく。

「……十秒後に通せ」

 よく通る声でギルバートが応えるが、その中に剣呑な色があるのを隠していない。

「はっ」

 ドアの向こうで当惑した声が応え、たっぷり二十秒ほど経ってから「失礼致します」と扉が控えめに開かれた。

「かっ……、……か……」

 先ほどの侯爵夫人の使いは、執務机のギルバートを見て目を丸くした。

 彼の膝の上には幼妻が座っていて、こちらに背を向けている。眠っているのか肩にはギルバートのジャケットが掛けられていた。

「あの……奥方様……ですか?」

 困惑した使いの声に、ギルバートはしれっと答える。

「妻だ。今は眠っている。話があるのなら手短に」

 耳元でギルバートの落ち着き払った声を聞きつつ、シャーロットは信じられない思いで夫にしがみついていた。

 はだけたドレスもそのままなのだが、ギルバートの機転ですっぽりとジャケットを掛けられ、自分の顔も体も隠してもらえている。

 けれど肝心の下半身は繋がったままで、緊張のあまり膣に力が入って仕方がない。

 シャーロットがギルバートの腰を跨いでいる格好なのも、多分デスクに隠れて分からない……と思う。けれど膝の上に乗っているというのは隠しきれないだろう。

「な……、仲が宜しいのですね」

「当然だ」

 ギルバートが喋る度、互いの胸を通じて低い声が反響してくる。

 シャーロットはその度に感じてしまい、ナカできゅんきゅんとギルバートを締め付けた。

「それで急ぎの要件とは?」

 不機嫌を隠さない隻眼が、ジロリと使いを睥睨する。

「え……と、ですね」

 ギルバートに要件を訊かれているというのに、使いは歯切れのいい言葉が出せない。チラチラとシャーロットの背中を見ては、何か気にしているようだ。

「要件は手短にと言ったはずだ。私は忙しい」

(ギルさま、どうぞわたしを解放してお仕事されてください!)

 寝たふりをしたまま、シャーロットは内心また絶叫する。

「わ……我が主が、今度二人で食事でも如何ですか? ……と」

 非常に言いにくそうに使いが言い、シャーロットは驚きのあまり目を見開き息を止めた。

 あの色気溢れる侯爵夫人が、ギルバートを誘っているというのだ。

 グッと心臓を素手で掴まれたように苦しくなり、じわっと目に涙が浮かぶ。

 それを知ってか知らずか、ギルバートはシャーロットの後ろ頭をポンポンと撫でた。

「嫌われ者の死神元帥に食事の誘いはありがたいが、何分自他共に認める愛妻家なので丁重にお断りする。夫人の依頼については調査しておくが、それに付随する余計な礼は要らない。私は金は受け取らないし、得るものは情報のみでいいと思っている。もし食事に誘ってくれるというのなら、妻も一緒になら考えてもいい」

 淡々と答えるギルバートはいつも通り冷静なのに、シャーロットの蜜壷を穿っている肉杭は隆々と昂ぶったままだ。

 夫の決然とした答えに歓喜しつつ、シャーロットはギルバートの器用さに舌を巻いている。

 使いは気付いていないが、ギルバートは体が動かない程度に下半身の筋肉を動かし、シャーロットに刺激を与えている。

 深い場所まで穿たれたまま、目の前には人がいる。そんな極限の状態でじわじわと刺激され、シャーロットは泣き出しそうになっていた。

「ですが……」

 このままでは主が望む答えを持ち帰れない使いは、何とかしてギルバートから了承の返事を得ようとしている。

「くどい!」

 が、空気をビリッと震わせる声を聞き、ヒッと息を吸い込んだ。

 シャーロットも自分の側で夫がそんな声を出すのは滅多になく、驚いて背筋を伸ばした。一緒にナカもキュッと締まってしまい、ギルバートは「くっ」と密かに息を漏らす。

「私は愛妻家だ、と言ったはずだ。他に用がないのならお帰り頂こう。ブレア、セドリック。お客人がお帰りだ」

 開け放たれた扉の側で控えていた二人は、靴底の音をたて使いに近寄ってくる。

「で……ですが、あのう……」

 その場に跪き何とか色よい答えを……と粘る使いだったが、屈強な軍人二人に引きずられるようにして執務室から姿を消した。

 扉が閉まり、また執務室には二人きりになる。

「……シャル」

 今までと打って変わって優しい声が、妻の愛称を呼ぶ。

 やっと顔を上げられたシャーロットは、様々な意味で目に涙を浮かべていた。
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