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終結へ1

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「君たちには協力をしてほしい。……これは取引だ」

 場所は二月宮。

 シャーロットがいない執務室で、護衛が立ち会うなかギルバートはエリーゼとゴットフリートを前に座っていた。

「……何をすればいい」

 二人は拘束されていないものの、部屋には軍人が数人立っていて凄まじい圧を感じる。

 おまけに目の前のギルバートも軍服姿のままで、二人はこれから何を言われるかで緊張していた。

「簡単なことだ。私は平和を望んでいる」

「は?」
「え?」

 悪魔やら死神やらと呼ばれているギルバートの言うことだから、てっきり血なまぐさいことを言われるのかと思っていた。

 間抜けな声を出す二人に、ギルバートは呆れ顔で紅茶を一口飲む。

「愛する妻と結婚したばかりだというのに、なにが悲しくて仕事を増やす頼みをすると思っている。私は休みがほしいし、妻と一緒にいたい」

 後半、まるで子供のような素直な言い方に、エリーゼが思わず噴き出しかけた。

 それは部屋にいた護衛達も同じで、視線を交わしては自分たちの上官が「変わった」と確認しあっていた。

「……これからスローンたちのことが明るみになり、多少ゴタつくだろう。せっかく和平を結んだばかりだというのに、両国はギスギスするかもしれない」

 ギルバートの言い分を聞いて、二人は十分あり得ることだと頷く。

「そこで君たちには、アルトドルファーの内部から働きかけてほしい。悪いのはスローン、カールソン、ダフネル殿だ。カールソンが己の富に慢心し、一人の妻に満足せず、色を求めたというのも原因の一つにある。また奴は私の両親の殺害をスローンに命じた。戦争を続けようと陛下の意志に反したことをしていた両者は、失脚するだろう。だが隣国のダフネル殿が失脚したとしても、アルトドルファーには彼に代わる人材がいると思っている」

 それに二人は頷いた。

 ダフネルが一人我が儘のように戦争をすべきだと言っていたのは、アルトドルファーの貴族たちの間でも印象が悪い。

 国は続く戦争で疲れ切っているというのに、なぜかダフネルだけが羽振りがよく、彼に関する噂は真っ黒だった。

 比較的歳の若い貴族が、声を上げてそんなダフネルを辞任させるべきだと言っているが、今のところ金持ちのダフネルの権力は強い。

 だが戦争が終わったいま、ダフネルを辞めさせて別の人間を財務大臣にしようと言う声があるのも事実だ。

「君たちはツテというツテ、噂という噂を駆使し、ダフネルを失脚させろ。今回のように剣をとる必要はない。こちら側でスローンが断罪されれば、自然とダフネルやカールソンとの繋がりも明るみに出る。地盤を緩くするだけ緩くしておいて、あとは一気に崩せばいい。ついでにダフネルに与する一派も、一掃しておけ」

 いとも簡単に人を陥れろと言うギルバートに、二人は彼が一国の元帥である理由を見たような気がした。

 守るもののためなら、なんだってする。

 残された片目に、そんな覚悟があるような気がする。

「あとは、アルトドルファーの国王が責任を感じるだろう。だがそこは『英雄』である私が上手く立ち回る。君たちはついでに、アルトドルファー側から『英雄』のいい噂でも流してくれればいい」

 そしてギルバートは、自分の名前の価値を知っている。

「まぁ……、そんなところか」

 カップに残った紅茶を飲み干し、ギルバートは静かにソーサーをテーブルに置いた。

「……それだけでいいの?」

 自分たちが動くのは、暗躍でも剣を握るでもなく、口を動かすことだけ。

 エリーゼが半ばポカンとしているのも、仕方がない。

「軍人が剣を振り回すよりも、人の噂や民の声というもののほうが、圧倒的に力がある。それは私の方が身に染みて分かっているさ」

 てっきりダフネルを暗殺しろとでも言われると思っていたのか、特にゴットフリートは呆気にとられた顔をしている。

「あんたは……、死神なんだろう? 人の命を奪うのもためらわず、憎まれようが恨まれようが動じない……。あんたが剣を持って『英雄』の名の下に断罪したほうが、なにかと手っ取り早いんじゃないのか?」

 ゴットフリートの言葉に、ギルバートは眉を上げ一言だけいう。

「面倒臭い」
「はぁ?」

 それにはさすがにゴットフリートも困惑し、エリーゼも腑に落ちない顔をしている。

 が、次の言葉ですべてを理解した。
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