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夢の中へ

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「あ……、あの……」

 とまどうシャーロットに頬を寄せ、エリーゼはクスクスと笑いながら彼女に囁き込む。

「英雄閣下は、シャーロットさまをどのように愛してくださるのです? 大丈夫、女同士ですから」

 シャーロットを抱きしめるように背中に手をまわし、エリーゼは囁く。

「え……と。とても……、愛してくださいます」

 ワインで火照った体に、エリーゼの声が耳にくすぐったい。指もギルバートの剣で硬くなった手とは違い、柔らかで気持ちがいい。

「ギルバートさまは、やはりお休みになる時はあの眼帯を外されるのかしら?」

「そう……ですね。お顔を紐が通っていますから、お休みの時ぐらいは解放されたいのだと思います」

 特に女性同士の怪しい雰囲気になるでもない様子に、シャーロットはホッとして質問に答えていた。

 酒が入って多少ウトウトとしているが、まだ起きていられる。エリーゼに抱きしめられているため、シャーロットは自然と窓のほうを向いていた。

 だから――、気付かなかった。

 エリーゼが深い胸元から小瓶を出し、音をたてずに口で栓を開け、その中身をシャーロットのグラスに注いだことを――。

 何事もなかったかのように小瓶は再びエリーゼの胸の奥にしまわれ、密やかな会話は続く。

「元帥閣下は恐れられているとの噂を聞きますが、シャーロットさまの自慢の旦那さまなのですね。いまも陛下や殿下たちに必要とされて……。本当にすてきな方です」

 クスッと耳元でエリーゼは笑い、シャーロットの頬にキスをした。

「エリーゼさまも……。ギルバートさまに憧れていますか?」

 そっと身を起こしたシャーロットは、少し心配そうに問う。

「ふふ。男性として魅力を感じているかという質問なら、『いいえ』です。わたくし、想っている方がいますもの」

 シャーロットの目の前でニコッと微笑むと、エリーゼは「飲みましょう」と二人のグラスに新たにワインをつぎ足した。

「両国の未来に乾杯」
「ふふ、乾杯」

 グラスが合わさる透明な音がし、二人はグラスを呷った。

 


「セドリック……さまでしたっけ?」
「はい」

 ドアが細く開き、中から呼びかけられてセドリックがすぐに反応する。

「すみません。シャーロットさまが、どうやらお酒に酔われて眠くなってしまったようです。部屋のベッドで寝ていらっしゃいますので、元帥閣下がいらっしゃるまでこのまま寝かせて差し上げようと思います」

「はい。……あぁー……。寝てしまわれていますね」

 ヒョイと部屋の中を覗けば、確かにベッドの上にシャーロットが横たわってスゥスゥと眠っている。

「わたくしにも責任がありますし、付き添っておりますね。その前に……少しだけ外してもいいですか? ちょっと……お化粧直しに」

「はい、どうぞ。レディ」

 化粧直しと言われて断れる訳がない。セドリックはもう一度ベッドで寝ているシャーロットを確認してから、ドアを閉じた。

 バルコニーへの窓が開いていたが、シャーロットの火照りを冷ますためだろう。それにこの階は一階ではないので、賊が入る心配はない。

 廊下を歩いて行くエリーゼの後ろ姿を見送り、セドリックはまた周囲に気を配りながらドアの前に立った。



 が、そのままエリーゼが戻ってくることはなかった。



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