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蜜月の中の登城

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 蜜月は一か月与えられたが、ギルバートは元帥という立場上、ブラッドワース城に毎日部下が通っていた。

 最初の一週間ほどは、シャーロットはブラッドワース城を探検したり、ギルバートと話してゆったりとした時間を過ごしていた。

 もちろん、昼も夜も時間が空けばギルバートに求められ、たっぷりとその体に精を受ける。

 時間を厭わない行為にやや動物めいたものを感じ、シャーロットはさすがに恥ずかしい。

「……昼間はあまり、……その。愛し合わなくてもいいのではないですか? 夜にベッドで愛し合っているのですし……」

 庭園のガゼボでドレスを直し、シャーロットは真っ赤になった顔で呟く。

「君の気持ちは尊びたいが、私に与えられた休暇も短いものだ。その間にたっぷり君を愛して、子を孕んでほしい」

「……はい」

 貴族の女性にとって、一番大事なことは位の高い家に嫁いで子をなすことだ。

 それを厳粛に受け止めたシャーロットは、これも妻の役目と思ってまじめに頷いた。

「君が疲れて、起きていられないというのなら多少は控えるが……。まだ体力はありそうだな」

 こちらもトラウザーズを整え終えて、最後にクラバットも整え直したギルバートは薄く笑う。

「大丈夫です」

 股の間から二人分の欲がはみ出て、シャーロットの下着を濡らす。

 情欲の残滓を感じたシャーロットは、微かに腰を震わせながら上品に笑ってみせた。




 それから数日した頃、ギルバートは一度王宮に来るようにと命じられた。

 国王の命を救った英雄でもある彼は、十月堂事件より国王やその周囲のお気に入りとなっている。

 王都の軍の様子を見るようにという書面だったが、その中身は「新妻と一緒に顔を見せて、新婚生活の様子などを報告してほしい」という内容なのだろう。

 シャーロットに声をかけたならば、喜んで同行するとのことだ。

 そうして二人は数日王都に滞在するため、片道四日ほどの小旅行に出た。

 ギルバート一人ならば愛馬を走らせるのみなのだが、シャーロットが一緒となると二人で馬車に揺られることになる。

 六頭引きの馬車に、護衛が馬車を囲むように随行する。

 実際ギルバートの城にも彼を警護する兵士が数人寝泊まりしていたが、シャーロットと顔を合わせるほど城の深いところに来る訳でもない。

 合わせて王都より迎えの護衛がきて、シャーロットは緊張で背筋を伸ばしていた。

「……別に誰も見ていないのだから、そんなに姿勢をよくする必要もないと思うが」

 軍服を着てゆったりと脚を組んだギルバートは、おかしそうにシャーロットを見る。

「何事も、気持ちからですから。国王陛下に間近にお会いすることも、いまから緊張の種になっていますし」

 移動のために骨組みのあるファウンデーションはつけておらず、シャーロットはゆったりとしたドレスを着ていた。

 それがまた彼女の肉体を密かに浮き上がらせ、ギルバートは自然に盛り上がったシャーロットの胸元を凝視している。

「緊張を解くまじないをかけようか?」
「え?」

 ギルバートのような男が「まじない」と言うのに驚き、シャーロットは不思議そうに夫を見た。

 すると彼は窓側に背を預け、両手を広げている。

「……ふふ」

 彼の意図を汲んだシャーロットは、思わず微笑んでギルバートの腕の中に身を任せた。

 軍服の革の匂いがし、胸元にある略綬は硬くヒヤリとしている。

 それらを感じると彼が軍人なのだと再確認させられるが、夫の大きな体に包まれていると思うと、余計な感情が霧散して安堵する。

 ちゅ、と額にキスが落とされ、髪がなでられた。

「……旦那さま」

 甘えた声を出すと、ちゅ、ちゅ、と額に押しつけられる唇が応える。

「国民の誰も、『隻眼の悪魔』が妻に骨抜きにされているとは思うまい」

「あら、ギルさまはとてもお優しい方だと、わたしは大勢に知ってもらいたいです」

「そんなこと、シャルだけが知っていればいい」

 それは一見、シャーロットだけを思う甘い言葉のように思えた。

 けれど事実シャーロット意外の者に、「エルフィンストーン王国の元帥は優しい」という噂が広がれば困ったことになる。

 彼の父であるグローヴが数多くの勲功をたて、ギルバートが元帥という座を引き継いだ。最初はお飾りだと思われていたその肩書きも、実を伴うものとなった。

 グローヴが元帥として国を守っていた頃、ギルバートは軍の中でメキメキと頭角を現し、異例の早さで位を上げていた。

 軍のことなど知らない貴族たちから見れば、ギルバートはただの若造に見えたかもしれない。だが軍の中で彼は実力者として一目置かれ、ゆくゆくはグローヴすらをも凌駕する器と言われていたのだ。

 アルトドルファー王国との小競り合いでは、表情ひとつ変えずに大勢の騎士を屠った。

 やがて敵国からあだ名がつけられ、それは仲間内にも広がっていった。

 畏怖は尊敬も交えて広まり、やがてギルバート・ラッセル・ブラッドワースという名前そのものが、武勇の名となる。

 それが「優しい」となってしまえば、アルトドルファー王国以外の周辺国にも示しがつかない。

「……王都までの道中、こうして甘えていていいですか?」

 馬車のカーテンが閉められており、大きな物音や声を出さなければ、外の護衛に気付かれない。多少イチャイチャしていても大丈夫だろう。

「もちろんだ。私は抱きしめる以上のことをしても……、いいんだがな?」

 ふ……、と耳に息を吹きかけられ、シャーロットは肩を跳ねさせる。

「そ、それはいけません」
「それは残念だ」

 小さく笑ってシャーロットの頬にキスをし、冗談めかす。

 が、こういうときギルバートはいつも本音しか言わない。それをシャーロットが知ることはないのだった。
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