時戻りのカノン

臣桜

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〝女王様〟

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 一方で外ではクラブ通いをして、法的に怪しい物にも手を出して男たちと乱痴気騒ぎを起こしていたらしい。

 親には友達と泊まりがけで勉強会をすると言って、男を使って承認欲求を満たしていた。

 大学生までそんな生活は続き、社会人になってからは「子供の遊びは終わり」と言わんばかりに一切手を切り、親の会社で働いてより良い男と理想の家庭を築く事に執着しだした。

 友人の事は伏せておき、秀真は自分が耳にした情報を彼女に教える。

「凄いですね。あなたのような品のあるお嬢様に、そんな過去があったとは思っていませんでした」

「……何かの思い違いではありませんか? 秀真さんは私の事をそんな女だと思っているのですか?」

 愛那はいつも通り微笑んでいるが、その顔も唇も小さく震えていた。

「嘘だと仰るんですか?」

 秀真は優しく尋ねる。

「勿論です! 私は胡桃沢家の娘として、人様に恥じない生き方を送ってきました」

「じゃあ、あの人にもそう言えるんですね?」

「え?」

〝あの人〟と言われ、愛那は秀真が示した方を見る。

 そのタイミングで、バーの別のボックス席から、四人の男性が近づいてきた。

「あ……」

 彼らに愛那はがあるようだった。

 それもそうだ。彼らは愛那と体の関係があった男たちで、この日のために秀真が興信所を使って探し回り、謝礼を出して〝協力〟を求めた者だ。

「あなた達……」

 彼らを見た愛那は、顔色を悪くして体を緊張させる。

「久しぶり、胡桃沢さん。……いや、〝女王様〟?」

 一人の言葉に他の三人が笑う。

「ちょ……っ」

 その単語が他の客に聞かれないか、愛那は焦りを見せる。

「〝女王様〟は凄かったよなぁ。俺らは美人な女とお近づきになれて良かったけど、他の女たちが『男を盗られた』って喚こうが、金で解決しちゃうから無敵だったよな」

「ち……っ、違うんです! 秀真さん!」

 顔を引きつらせ焦りを見せる愛那に、秀真は穏やかに微笑んでみせた。

「もとから愛那さんには恋愛感情を持っていませんでしたが、正直、引いてしまいました。今後、もしどこかで偶然お会いしたら、友達としてお話はさせて頂きますのでご心配なく」

 秀真のその言葉を聞き、愛那は自分が彼に持っていた期待がプツリと絶たれたのを悟ったようだ。

 呆然としている彼女に、男たちが話しかけてくる。

「せっかく会えたんだから、前みたいに楽しまない?」

「そうそう。俺、いま離婚して独身なんだ。丁度良くない?」

 顔色を悪くした愛那に、秀真はとどめをさす。

「愛那さんがだったなんて、ちょっと親近感が湧きますね」

「……え?」

 彼女は顔を引きつらせたまま、救いを求めてこちらを見てくる。

「お恥ずかしい話、俺は風俗通いをしているんです。気に入りの店に気に入りの女性がいるんですが、最近出禁になってしまって」

 ニッコリと爽やかに、秀真は嘘をつく。

「…………そう……なんですね」

 愛那は頬を引きつらせ、かろうじて相槌を打った。

 この状況で自分を助けてくれると思っていた唯一の人が、それも憧れていた王子様のような人が、風俗通いをして余程の事をして出禁になったとは思っていなかったのだろう。

 秀真は手応えを感じて笑みを深める。

「愛那さんみたいな女性なら、他の男も交えてのプレイとかも慣れているんですよね? 俺、そういうのも興味があるなぁ。慣れてらっしゃるなら、今度目の前で見せてくれませんか?」

「ご……っ、ご自分が何を言っているか分かってらっしゃるんですか!?」

 とうとうヒステリックな声を上げた愛那に、秀真は変わらず温厚に微笑む。

「だって、俺たち似たもの同士でしょう? 愛那さんの方が経験豊富なぐらいですし」

「一緒にしないで!」

「えぇ~? そう言っちゃうの? 〝女王様〟」

 男性に揶揄され、愛那は羞恥に赤面し、屈辱で身を震わせる。

「学生時代はえげつないいじめもしてたよなぁ? 自分は手を汚さずに、手下の女子たちに色んな事をさせてたっけ。やっぱり今でも『私は何もしていない綺麗な女なんです』っていうの貫いてるの?」

「ちが……っ」

 混乱しきった愛那は、手をワナワナと震わせていた。

「まぁ、愛那さんも俺もそうであるように、人間は汚い部分もあるっていう事ですよ」

 そう言って秀真は笑い、「彼とか、彼も……」と、今後愛那のターゲットになりそうな独身男性や、若い既婚男性を例に挙げて架空の性癖があると語る。
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