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秀真の家
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やがて三十分ほど経って、車は元麻布にある秀真のマンションに着いた。
花音は脳内で勝手に彼は高層マンションに住んでいると思っていたが、意外と低層マンションだった。
だが中に入ると、コンシェルジュのいるレセプションがあり、内装はまるでホテルだ。
秀真の話では、パブリックスペースにはジムやプールもあるそうだ。
物凄い豪邸に気圧されたまま、花音は最上階にある秀真の家に入った。
「お邪魔します……」
「どうぞ入って。まず花音の部屋を整えたから、荷物を置こうか」
入ってまずびっくりしたのは、何十畳あるか分からない広々としたリビングダイニングだ。
柔らかなアイボリーを基調としていて、ソファに引き締め色として置かれたブラウンのクッションがお洒落だ。
カウチのあるソファセットはゆったり寛げそうで、正方形のテーブルの上は綺麗に片付いている。
「あれって暖炉ですか?」
お洒落な事に、リビングには暖炉とおぼしきものがあった。
「ああ。薪を使わない、バイオエタノール暖炉なんだ。暖かいよ」
呆けながら室内を見回していたが、シャンデリアのような大きな照明はなく、あちこちにある間接照明で部屋を明るくする仕組みらしかった。
アイランドキッチンにはお洒落なペンダントライトが幾つかある他、左右にスポットライトもある。
「凄い……。キッチンも立派ですね。お料理するんですか?」
「たまに時間のある時は、凝った物を作るのが好きだよ」
「いつもは外食ですか?」
「いや、料理人に作ってもらってる」
「料理人!」
その響きに思わず言葉を反芻してしまった。
花音の反応に、秀真は苦笑いする。
「いや、総合的に見ると安くつくんだ。外食にしてしまうと、費用がかさむし、お気に入りの店だって飽きてしまう時が来るかもしれない。外食なら美味しく食べたいし。新しい店に行くのもいいけど、探して行って……というのも、疲れていると億劫に感じる時もある」
「確かに」
どれだけの高級レストランで、毎月出す物が変わるとしても、頻繁に行けば飽きてしまうかもしれない。
東京は札幌より遙かに飲食店があり、少し歩けば色んな店があるだろう。
グルメな人は食べ歩いて自分のお気に入り店を見つけるのが、楽しみかもしれない。
けれど秀真のような人は、一日の労働のあとにさらに出掛けて……となると、腰が重たくなってしまうのだろう。
「外食は接待でも行っているし、どちらかというと自宅でのんびりできる方が嬉しいんだ。料理人とは別途雇っているお手伝いさんに、掃除と食材の買い物を頼んでいて、プロに料理を作ってもらう。俺の舌に合うよう味を調整してもらって、あとはお任せ」
「なるほど……」
「確かに人件費は掛かるけど、偏食して体調を崩す事を考えると、管理栄養士の資格も持った料理人に任せる方がいいと思ったんだ」
「長期的な目線で見ると、確かにそうかもしれません」
「という事で、作り置きしてもらっているおかずとかもあるから、もし小腹が空いてたら遠慮しないで」
「あっ、ありがとうございます」
秀真が結局、自分の空腹具合を心配してくれていたのだと知り、ありがたくなる。
そのあとこの連休中に泊まる部屋に案内してもらったが、ホテルの客室のような部屋だった。
室内にあるのはベッドと書き物机、一人掛けのソファセットなどで、勿論クローゼットもある。カーテンやベッドカバーなどのリネン類は、シンプルながらも一目で質のいい物だと分かった。
「同じ屋根の下だけど、許可がなかったら襲ったりしないから、安心して」
冗談めかして言われ、花音は「もうっ」と赤くなる。
「とはいえ、もう時間が遅いから、今日は風呂に入って寝る事を勧めるよ」
「はい、ありがとうございます」
そのあと、洗面所に連れて行かれ、使っていいタオルやうがいのコップなどを教えられた。
プロが作ったおかずは魅力的だが、遅い時間なので遠慮し、お風呂を使わせてもらったあと、大人しく寝る事にした。
花音は脳内で勝手に彼は高層マンションに住んでいると思っていたが、意外と低層マンションだった。
だが中に入ると、コンシェルジュのいるレセプションがあり、内装はまるでホテルだ。
秀真の話では、パブリックスペースにはジムやプールもあるそうだ。
物凄い豪邸に気圧されたまま、花音は最上階にある秀真の家に入った。
「お邪魔します……」
「どうぞ入って。まず花音の部屋を整えたから、荷物を置こうか」
入ってまずびっくりしたのは、何十畳あるか分からない広々としたリビングダイニングだ。
柔らかなアイボリーを基調としていて、ソファに引き締め色として置かれたブラウンのクッションがお洒落だ。
カウチのあるソファセットはゆったり寛げそうで、正方形のテーブルの上は綺麗に片付いている。
「あれって暖炉ですか?」
お洒落な事に、リビングには暖炉とおぼしきものがあった。
「ああ。薪を使わない、バイオエタノール暖炉なんだ。暖かいよ」
呆けながら室内を見回していたが、シャンデリアのような大きな照明はなく、あちこちにある間接照明で部屋を明るくする仕組みらしかった。
アイランドキッチンにはお洒落なペンダントライトが幾つかある他、左右にスポットライトもある。
「凄い……。キッチンも立派ですね。お料理するんですか?」
「たまに時間のある時は、凝った物を作るのが好きだよ」
「いつもは外食ですか?」
「いや、料理人に作ってもらってる」
「料理人!」
その響きに思わず言葉を反芻してしまった。
花音の反応に、秀真は苦笑いする。
「いや、総合的に見ると安くつくんだ。外食にしてしまうと、費用がかさむし、お気に入りの店だって飽きてしまう時が来るかもしれない。外食なら美味しく食べたいし。新しい店に行くのもいいけど、探して行って……というのも、疲れていると億劫に感じる時もある」
「確かに」
どれだけの高級レストランで、毎月出す物が変わるとしても、頻繁に行けば飽きてしまうかもしれない。
東京は札幌より遙かに飲食店があり、少し歩けば色んな店があるだろう。
グルメな人は食べ歩いて自分のお気に入り店を見つけるのが、楽しみかもしれない。
けれど秀真のような人は、一日の労働のあとにさらに出掛けて……となると、腰が重たくなってしまうのだろう。
「外食は接待でも行っているし、どちらかというと自宅でのんびりできる方が嬉しいんだ。料理人とは別途雇っているお手伝いさんに、掃除と食材の買い物を頼んでいて、プロに料理を作ってもらう。俺の舌に合うよう味を調整してもらって、あとはお任せ」
「なるほど……」
「確かに人件費は掛かるけど、偏食して体調を崩す事を考えると、管理栄養士の資格も持った料理人に任せる方がいいと思ったんだ」
「長期的な目線で見ると、確かにそうかもしれません」
「という事で、作り置きしてもらっているおかずとかもあるから、もし小腹が空いてたら遠慮しないで」
「あっ、ありがとうございます」
秀真が結局、自分の空腹具合を心配してくれていたのだと知り、ありがたくなる。
そのあとこの連休中に泊まる部屋に案内してもらったが、ホテルの客室のような部屋だった。
室内にあるのはベッドと書き物机、一人掛けのソファセットなどで、勿論クローゼットもある。カーテンやベッドカバーなどのリネン類は、シンプルながらも一目で質のいい物だと分かった。
「同じ屋根の下だけど、許可がなかったら襲ったりしないから、安心して」
冗談めかして言われ、花音は「もうっ」と赤くなる。
「とはいえ、もう時間が遅いから、今日は風呂に入って寝る事を勧めるよ」
「はい、ありがとうございます」
そのあと、洗面所に連れて行かれ、使っていいタオルやうがいのコップなどを教えられた。
プロが作ったおかずは魅力的だが、遅い時間なので遠慮し、お風呂を使わせてもらったあと、大人しく寝る事にした。
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