31 / 71
元カノ関係、聞いてもいいですか?
しおりを挟む
秀真は花音の頬を撫で、愛しそうな目で見つめてくる。
長い指で頬や唇の輪郭を辿ったあと、顔を傾けて優しいキスをしてきた。
何度か唇をついばまれ、下唇を軽く噛まれるなどして意識がとろけてしまった頃、花音は秀真の胸板に額をつけて「……ギブ」と限界を訴えた。
そのあと、秀真は花音を抱き締めたままソファに寝転がっていた。
仰向けになった彼に身を預ける形なので、最初は「重いから」と遠慮していたものの、秀真に「いいからおいで」と言われて押し負けてしまった。
「……秀真さんの元カノ関係、聞いてもいいですか?」
やがて花音がぽつっと呟き、尋ねる。
「ん……。そうだな、俺も大した付き合いはしていないけど」
胸板から反響する声が心地よく、花音は目を閉じる。
「こう言うと自惚れているように聞こえるかもしれないけど、割とモテていたんだ」
「いえ、客観的に見て秀真さんは凄くモテる人だと思います」
花音の返事に秀真は笑った気配だけ見せ、ポンポンと頭を撫でてくる。
「モテるって言うと『いいな』って思われがちなんだけど、それほどいいものでもない」
秀真の声は、遠い昔を思い出しているようだった。
「学生時代は、いわゆる『秀真くんの取り合い』みたいなものがあって、うんざりしていた。おまけに同性からは嫌われるし、踏んだり蹴ったりだった。俺はあまり男子グループに属さず、朝は早く登校して音楽室のピアノを弾かせてもらっていた。昼休みは図書室にいたかな」
花音も学生時代、目立ってモテる女子を見ては少なからず「いいな」と思っていたが、裏でそういう苦労があったとは思わなかった。
「大学生になってからは少しそういうものから抜け出せたけど、今度は『どうやらあの瀬ノ尾秀真というのは、いい所のボンボンらしい』という情報が流れていたみたいで、玉の輿を狙う女性に付け狙われた。合コンしたいと何度も声を掛けられて、誘い自体は嬉しかったけど、目的が分かっていたから避けていた。だから皆が想像するような、入れ食い状態でモテていた訳じゃないんだ」
花音は抱き締められたまま、小さく頷く。
多少なりともその〝入れ食い〟を想像していたので、彼の苦労も知らず勝手な想像をして申し訳なく思った。
「大学生の時は、同じ学科で最初は友人だった人と付き合った。物静かな人で一緒にいて心地よかったけど、やっぱり大学生だったからかな。彼女はもっと刺激を欲していたようで、他の男から誘いがあって二股されていた。それで俺から別れを告げたよ」
何とも言えなくなって、花音は黙る。
「当時は悲しくて憎たらしかったけど、あとから思えば『分かるな』とも思ったんだ。大学生って、高校生までの抑圧された生活から解放されて、いわゆる大学デビューとかもする時期だろう? バイトをして自分の金もできたり、制限なく自由を謳歌できる時期だ。俺は色々あって『合コンとかそういうものはいいや』って思って、隠居生活を望んでいた。でも、彼女は違った。ただそれだけなんだ」
「……秀真さんは大人ですね」
「そんな事ないよ。付き合ったらつまらない事ですぐ嫉妬するし、普通の男だ」
秀真は軽く笑い、花音の額にキスをする。
「社会人になってからも、何人かとは付き合った。……でも会社の重役だから、最初から色眼鏡で見られている。『こいつと結婚できたら人生勝ち組』とか、そういうのが透けて見えてしまう。社内で見かけた時は別の顔をしていた女性社員が、俺の前でだけ猫なで声を出す。……そういうのには、もううんざりしてしまって」
「……大変なんですね」
秀真は溜め息交じりに微笑む。
「自分から積極的に恋愛するのをやめてから、今度は縁談という形で女性を紹介されるようになってきた。写真や釣書を見る限り、どの人も立派なお嬢さんだ。会ってみて話をして、『いいな』と思った人も何人かいる。……でも結局、それはお見合いという場でだ。実際付き合って結婚したら、どんな素を見せてくるか分からない。そもそも、セッティングされないと女性と接する事のできない自分が情けない」
花音はまた何も言えず、黙って秀真の胸板に頬をつけている。
「花音の事は、さっきも言ったように前から君の音を知っていた。それで『どんな子かな』と気にしていた。祖母に洋子さんと一緒に写った写真を見せてもらった時、素直に『可愛いな』って思ったよ」
照れくさく、今度は違う意味で花音は言葉を返せない。
「そのうち『会ってみたいな』と思って、祖父母が札幌に行く時に同行するようになった。毎回じゃないけど、『会えたらいいな』という下心もあった」
「それで……こないだ?」
病室で会った時の事を言うと、秀真が「そう」と笑う。
「一目惚れとか、運命とかはあまり信じないけど、一目見て『いいな』と思った」
「……私も、秀真さんを見て『格好いいな』って思っちゃった。……最初に外見ありきでごめんなさい」
白状したが、秀真は怒らない。
長い指で頬や唇の輪郭を辿ったあと、顔を傾けて優しいキスをしてきた。
何度か唇をついばまれ、下唇を軽く噛まれるなどして意識がとろけてしまった頃、花音は秀真の胸板に額をつけて「……ギブ」と限界を訴えた。
そのあと、秀真は花音を抱き締めたままソファに寝転がっていた。
仰向けになった彼に身を預ける形なので、最初は「重いから」と遠慮していたものの、秀真に「いいからおいで」と言われて押し負けてしまった。
「……秀真さんの元カノ関係、聞いてもいいですか?」
やがて花音がぽつっと呟き、尋ねる。
「ん……。そうだな、俺も大した付き合いはしていないけど」
胸板から反響する声が心地よく、花音は目を閉じる。
「こう言うと自惚れているように聞こえるかもしれないけど、割とモテていたんだ」
「いえ、客観的に見て秀真さんは凄くモテる人だと思います」
花音の返事に秀真は笑った気配だけ見せ、ポンポンと頭を撫でてくる。
「モテるって言うと『いいな』って思われがちなんだけど、それほどいいものでもない」
秀真の声は、遠い昔を思い出しているようだった。
「学生時代は、いわゆる『秀真くんの取り合い』みたいなものがあって、うんざりしていた。おまけに同性からは嫌われるし、踏んだり蹴ったりだった。俺はあまり男子グループに属さず、朝は早く登校して音楽室のピアノを弾かせてもらっていた。昼休みは図書室にいたかな」
花音も学生時代、目立ってモテる女子を見ては少なからず「いいな」と思っていたが、裏でそういう苦労があったとは思わなかった。
「大学生になってからは少しそういうものから抜け出せたけど、今度は『どうやらあの瀬ノ尾秀真というのは、いい所のボンボンらしい』という情報が流れていたみたいで、玉の輿を狙う女性に付け狙われた。合コンしたいと何度も声を掛けられて、誘い自体は嬉しかったけど、目的が分かっていたから避けていた。だから皆が想像するような、入れ食い状態でモテていた訳じゃないんだ」
花音は抱き締められたまま、小さく頷く。
多少なりともその〝入れ食い〟を想像していたので、彼の苦労も知らず勝手な想像をして申し訳なく思った。
「大学生の時は、同じ学科で最初は友人だった人と付き合った。物静かな人で一緒にいて心地よかったけど、やっぱり大学生だったからかな。彼女はもっと刺激を欲していたようで、他の男から誘いがあって二股されていた。それで俺から別れを告げたよ」
何とも言えなくなって、花音は黙る。
「当時は悲しくて憎たらしかったけど、あとから思えば『分かるな』とも思ったんだ。大学生って、高校生までの抑圧された生活から解放されて、いわゆる大学デビューとかもする時期だろう? バイトをして自分の金もできたり、制限なく自由を謳歌できる時期だ。俺は色々あって『合コンとかそういうものはいいや』って思って、隠居生活を望んでいた。でも、彼女は違った。ただそれだけなんだ」
「……秀真さんは大人ですね」
「そんな事ないよ。付き合ったらつまらない事ですぐ嫉妬するし、普通の男だ」
秀真は軽く笑い、花音の額にキスをする。
「社会人になってからも、何人かとは付き合った。……でも会社の重役だから、最初から色眼鏡で見られている。『こいつと結婚できたら人生勝ち組』とか、そういうのが透けて見えてしまう。社内で見かけた時は別の顔をしていた女性社員が、俺の前でだけ猫なで声を出す。……そういうのには、もううんざりしてしまって」
「……大変なんですね」
秀真は溜め息交じりに微笑む。
「自分から積極的に恋愛するのをやめてから、今度は縁談という形で女性を紹介されるようになってきた。写真や釣書を見る限り、どの人も立派なお嬢さんだ。会ってみて話をして、『いいな』と思った人も何人かいる。……でも結局、それはお見合いという場でだ。実際付き合って結婚したら、どんな素を見せてくるか分からない。そもそも、セッティングされないと女性と接する事のできない自分が情けない」
花音はまた何も言えず、黙って秀真の胸板に頬をつけている。
「花音の事は、さっきも言ったように前から君の音を知っていた。それで『どんな子かな』と気にしていた。祖母に洋子さんと一緒に写った写真を見せてもらった時、素直に『可愛いな』って思ったよ」
照れくさく、今度は違う意味で花音は言葉を返せない。
「そのうち『会ってみたいな』と思って、祖父母が札幌に行く時に同行するようになった。毎回じゃないけど、『会えたらいいな』という下心もあった」
「それで……こないだ?」
病室で会った時の事を言うと、秀真が「そう」と笑う。
「一目惚れとか、運命とかはあまり信じないけど、一目見て『いいな』と思った」
「……私も、秀真さんを見て『格好いいな』って思っちゃった。……最初に外見ありきでごめんなさい」
白状したが、秀真は怒らない。
0
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~
けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。
ただ…
トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。
誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。
いや…もう女子と言える年齢ではない。
キラキラドキドキした恋愛はしたい…
結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。
最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。
彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して…
そんな人が、
『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』
だなんて、私を指名してくれて…
そして…
スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、
『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』
って、誘われた…
いったい私に何が起こっているの?
パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子…
たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。
誰かを思いっきり好きになって…
甘えてみても…いいですか?
※after story別作品で公開中(同じタイトル)
自信家CEOは花嫁を略奪する
朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」
そのはずだったのに、
そう言ったはずなのに――
私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。
それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ?
だったら、なぜ?
お願いだからもうかまわないで――
松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。
だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。
璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。
そしてその期間が来てしまった。
半年後、親が決めた相手と結婚する。
退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――
助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる?
「年下上司なんてありえない!」
「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」
思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった!
人材業界へと転職した高井綾香。
そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。
綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。
ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……?
「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」
「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」
「はあ!?誘惑!?」
「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる