時戻りのカノン

臣桜

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これから宜しく、花音

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「多分彼女たちは、もっと〝俺様〟的に自分をリードしてくれて、好きな物をプレゼントしてくれる……。そういう、〝理想のセレブ彼氏〟を想像していたんじゃないかな」

「えっ? 秀真さん、セレブなんですか?」

 うっすらとそういう気配は察していたが、本人の口から聞くまでは……と思っていたので、改めて尋ねる。

「うーん、実家の会社の役員をしている。だから色々期待されるんじゃないかな」

 内容はぼかされたが、ようやく秀真や康夫、春枝たちの正体が分かった気がした。

 洋子の実家も大企業らしいし、どこかで繋がりがあったのかもしれない。

「……凄い人だったんですね。何となく、雰囲気から普通の人とは違うなって思っていましたが」

 ポツンと呟くと、秀真が顔を覗き込んできた。

「敬遠した?」

「い、いえ。秀真さんが祖母を大切にしてくれる、優しい方なのは変わりません。私だって、……格好良くて素敵な人だなと思うのは、変わっていません」

 照れながら答えた花音の手を、秀真がそっと握ってきた。

 大きく温かな手に包まれ、花音は胸を高鳴らせる。

「じゃあ、付き合ってくれる? 遠距離になってしまうけど、連絡は欠かさずする。こうして週末になら、ちょくちょく会えると思うし」

「でも、飛行機代が大変じゃないですか?」

「それは気にしなくていいよ」

 花音の心配に秀真は明るく笑い、そのまま彼女の手の甲に唇を押しつけた。

(わ……っ)

 お姫様のように手の甲にキスをされるなど、生まれて初めてだ。

「初めて見た時、『あのピアノの音の主だ』って運命を感じた。それに可愛くて一目惚れもした。もっと君を知ると、洋子さんを大切にする優しい孫で、一緒にいると自然体でとても心地よかった」

「あ、ありがとうございます……」

 異性にこんなに褒められた事がないので、花音は恐縮しきりだ。

 ここまで熱烈に好意を表されたのも初めてで、花音はただただ照れるしかできない。

「俺と付き合ってくれる?」

 もう一度念を押すように尋ねられ、花音は小さく頷いた。

「秀真さんさえいいなら」

「勿論!」

 花音の承諾を聞き、秀真は破顔すると、ギュッと抱き締めてきた。

 衣服ごしに秀真の逞しい体を感じ、花音はどぎまぎする。

「これから宜しく、花音」

 少し体を離した秀真は愛しそうに花音を見つめ、顔を傾けてチュッとキスをしてきた。

「!」

 柔らかな唇を感じ、キスをされたと理解する前に彼の顔が離れる。

 送れて赤面した花音を見て、秀真は快活に笑い、嬉しそうにまた抱き締めてきた。



**



 その後、秀真とは良い関係を築けた。

 スマホのメッセージアプリで頻繁にやり取りをし、彼は東京の景色や食事などを写真で撮って送ってくれた。

 花音も写真の返事をしようとし、あまりフォトジェニックな場所は見つけられなかったので、できるだけ自分が目をつけたものを写真に撮る。

 青空を背景に木の葉が青々と茂っている様子や、ムクムクと沸き起こる入道雲。

 恥ずかしいけれど、お手製弁当なども送った。

 花音と秀真が付き合っている事は、自然とそれぞれの祖父母、両親にも広まっていった。

 遠距離恋愛なので特に口うるさい事は言われなかったが、「せっかくいい人に見初められたんだから、離さないようにね」と母には言われてしまった。

 そして意外にも、東京にいる者同士という事で秀真と空斗が時々会っているようだ。

(……余計な事を言っていなきゃいいけど……)

 秀真と空斗から『今一緒に焼き肉してます』というメッセージと写真が送られてきた時には、花音は頭を抱えたものだ。




 そして七月の最初の週末にも、秀真ははるばる札幌まで来てくれた。

「花音!」

 札幌駅の西改札口の目立つオブジェ前に立っていた花音は、声を掛けこちらにやって来る秀真を見て顔をほころばせた。

「秀真さん!」

 メッセージアプリや電話で何気ない話をし、「好きだよ」と言ってもらえているからか、ずっと会いたいという気持ちが高まっていた。

 だからなのか、今日の彼は一際格好良く見える。

 夏場なので白いTシャツとジーンズという姿だが、それもまた秀真の素材の良さを生かしていてとても格好いい。
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