26 / 71
これから宜しく、花音
しおりを挟む
「多分彼女たちは、もっと〝俺様〟的に自分をリードしてくれて、好きな物をプレゼントしてくれる……。そういう、〝理想のセレブ彼氏〟を想像していたんじゃないかな」
「えっ? 秀真さん、セレブなんですか?」
うっすらとそういう気配は察していたが、本人の口から聞くまでは……と思っていたので、改めて尋ねる。
「うーん、実家の会社の役員をしている。だから色々期待されるんじゃないかな」
内容はぼかされたが、ようやく秀真や康夫、春枝たちの正体が分かった気がした。
洋子の実家も大企業らしいし、どこかで繋がりがあったのかもしれない。
「……凄い人だったんですね。何となく、雰囲気から普通の人とは違うなって思っていましたが」
ポツンと呟くと、秀真が顔を覗き込んできた。
「敬遠した?」
「い、いえ。秀真さんが祖母を大切にしてくれる、優しい方なのは変わりません。私だって、……格好良くて素敵な人だなと思うのは、変わっていません」
照れながら答えた花音の手を、秀真がそっと握ってきた。
大きく温かな手に包まれ、花音は胸を高鳴らせる。
「じゃあ、付き合ってくれる? 遠距離になってしまうけど、連絡は欠かさずする。こうして週末になら、ちょくちょく会えると思うし」
「でも、飛行機代が大変じゃないですか?」
「それは気にしなくていいよ」
花音の心配に秀真は明るく笑い、そのまま彼女の手の甲に唇を押しつけた。
(わ……っ)
お姫様のように手の甲にキスをされるなど、生まれて初めてだ。
「初めて見た時、『あのピアノの音の主だ』って運命を感じた。それに可愛くて一目惚れもした。もっと君を知ると、洋子さんを大切にする優しい孫で、一緒にいると自然体でとても心地よかった」
「あ、ありがとうございます……」
異性にこんなに褒められた事がないので、花音は恐縮しきりだ。
ここまで熱烈に好意を表されたのも初めてで、花音はただただ照れるしかできない。
「俺と付き合ってくれる?」
もう一度念を押すように尋ねられ、花音は小さく頷いた。
「秀真さんさえいいなら」
「勿論!」
花音の承諾を聞き、秀真は破顔すると、ギュッと抱き締めてきた。
衣服ごしに秀真の逞しい体を感じ、花音はどぎまぎする。
「これから宜しく、花音」
少し体を離した秀真は愛しそうに花音を見つめ、顔を傾けてチュッとキスをしてきた。
「!」
柔らかな唇を感じ、キスをされたと理解する前に彼の顔が離れる。
送れて赤面した花音を見て、秀真は快活に笑い、嬉しそうにまた抱き締めてきた。
**
その後、秀真とは良い関係を築けた。
スマホのメッセージアプリで頻繁にやり取りをし、彼は東京の景色や食事などを写真で撮って送ってくれた。
花音も写真の返事をしようとし、あまりフォトジェニックな場所は見つけられなかったので、できるだけ自分が目をつけたものを写真に撮る。
青空を背景に木の葉が青々と茂っている様子や、ムクムクと沸き起こる入道雲。
恥ずかしいけれど、お手製弁当なども送った。
花音と秀真が付き合っている事は、自然とそれぞれの祖父母、両親にも広まっていった。
遠距離恋愛なので特に口うるさい事は言われなかったが、「せっかくいい人に見初められたんだから、離さないようにね」と母には言われてしまった。
そして意外にも、東京にいる者同士という事で秀真と空斗が時々会っているようだ。
(……余計な事を言っていなきゃいいけど……)
秀真と空斗から『今一緒に焼き肉してます』というメッセージと写真が送られてきた時には、花音は頭を抱えたものだ。
そして七月の最初の週末にも、秀真ははるばる札幌まで来てくれた。
「花音!」
札幌駅の西改札口の目立つオブジェ前に立っていた花音は、声を掛けこちらにやって来る秀真を見て顔をほころばせた。
「秀真さん!」
メッセージアプリや電話で何気ない話をし、「好きだよ」と言ってもらえているからか、ずっと会いたいという気持ちが高まっていた。
だからなのか、今日の彼は一際格好良く見える。
夏場なので白いTシャツとジーンズという姿だが、それもまた秀真の素材の良さを生かしていてとても格好いい。
「えっ? 秀真さん、セレブなんですか?」
うっすらとそういう気配は察していたが、本人の口から聞くまでは……と思っていたので、改めて尋ねる。
「うーん、実家の会社の役員をしている。だから色々期待されるんじゃないかな」
内容はぼかされたが、ようやく秀真や康夫、春枝たちの正体が分かった気がした。
洋子の実家も大企業らしいし、どこかで繋がりがあったのかもしれない。
「……凄い人だったんですね。何となく、雰囲気から普通の人とは違うなって思っていましたが」
ポツンと呟くと、秀真が顔を覗き込んできた。
「敬遠した?」
「い、いえ。秀真さんが祖母を大切にしてくれる、優しい方なのは変わりません。私だって、……格好良くて素敵な人だなと思うのは、変わっていません」
照れながら答えた花音の手を、秀真がそっと握ってきた。
大きく温かな手に包まれ、花音は胸を高鳴らせる。
「じゃあ、付き合ってくれる? 遠距離になってしまうけど、連絡は欠かさずする。こうして週末になら、ちょくちょく会えると思うし」
「でも、飛行機代が大変じゃないですか?」
「それは気にしなくていいよ」
花音の心配に秀真は明るく笑い、そのまま彼女の手の甲に唇を押しつけた。
(わ……っ)
お姫様のように手の甲にキスをされるなど、生まれて初めてだ。
「初めて見た時、『あのピアノの音の主だ』って運命を感じた。それに可愛くて一目惚れもした。もっと君を知ると、洋子さんを大切にする優しい孫で、一緒にいると自然体でとても心地よかった」
「あ、ありがとうございます……」
異性にこんなに褒められた事がないので、花音は恐縮しきりだ。
ここまで熱烈に好意を表されたのも初めてで、花音はただただ照れるしかできない。
「俺と付き合ってくれる?」
もう一度念を押すように尋ねられ、花音は小さく頷いた。
「秀真さんさえいいなら」
「勿論!」
花音の承諾を聞き、秀真は破顔すると、ギュッと抱き締めてきた。
衣服ごしに秀真の逞しい体を感じ、花音はどぎまぎする。
「これから宜しく、花音」
少し体を離した秀真は愛しそうに花音を見つめ、顔を傾けてチュッとキスをしてきた。
「!」
柔らかな唇を感じ、キスをされたと理解する前に彼の顔が離れる。
送れて赤面した花音を見て、秀真は快活に笑い、嬉しそうにまた抱き締めてきた。
**
その後、秀真とは良い関係を築けた。
スマホのメッセージアプリで頻繁にやり取りをし、彼は東京の景色や食事などを写真で撮って送ってくれた。
花音も写真の返事をしようとし、あまりフォトジェニックな場所は見つけられなかったので、できるだけ自分が目をつけたものを写真に撮る。
青空を背景に木の葉が青々と茂っている様子や、ムクムクと沸き起こる入道雲。
恥ずかしいけれど、お手製弁当なども送った。
花音と秀真が付き合っている事は、自然とそれぞれの祖父母、両親にも広まっていった。
遠距離恋愛なので特に口うるさい事は言われなかったが、「せっかくいい人に見初められたんだから、離さないようにね」と母には言われてしまった。
そして意外にも、東京にいる者同士という事で秀真と空斗が時々会っているようだ。
(……余計な事を言っていなきゃいいけど……)
秀真と空斗から『今一緒に焼き肉してます』というメッセージと写真が送られてきた時には、花音は頭を抱えたものだ。
そして七月の最初の週末にも、秀真ははるばる札幌まで来てくれた。
「花音!」
札幌駅の西改札口の目立つオブジェ前に立っていた花音は、声を掛けこちらにやって来る秀真を見て顔をほころばせた。
「秀真さん!」
メッセージアプリや電話で何気ない話をし、「好きだよ」と言ってもらえているからか、ずっと会いたいという気持ちが高まっていた。
だからなのか、今日の彼は一際格好良く見える。
夏場なので白いTシャツとジーンズという姿だが、それもまた秀真の素材の良さを生かしていてとても格好いい。
0
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クリスマスに咲くバラ
篠原怜
恋愛
亜美は29歳。クリスマスを目前にしてファッションモデルの仕事を引退した。亜美には貴大という婚約者がいるのだが今のところ結婚はの予定はない。彼は実業家の御曹司で、年下だけど頼りになる人。だけど亜美には結婚に踏み切れない複雑な事情があって……。■2012年に著者のサイトで公開したものの再掲です。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる