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元カノさんとかいたんでしょう?
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秀真は穏やかに笑う。
「洋子さんお孫さんだからって、会った事もないのに肩入れするのは変だって自分でも思っていた。それでも、今は間違いなかったって思うよ」
秀真は指の背で花音の頬を撫で、近い距離で微笑んでくる。
ドキッと胸を高鳴らせた花音は、急に自分が彼とこの家に二人きりなのだと思いだした。
「さっきの話だけど、洋子さんの孫の中で、花音が一番ピアノに向き合っていた。それに、君は挫折も知っている。そして事故に遭ったというところも同じ。……それらをひっくるめて、梨理さんに気に入られたんじゃないかって思うよ」
けれどそう言われ、納得した気もする。
「……そう、ですね……。ピアノ教室でも梨理さんの気配を感じていました。そして他の子ほど私は彼女を怖いと思っていなかったんです」
「だろう? だから花音は特別なんだよ」
「そう……ですね……」
(私の願いを叶えるから、自分の望みを叶えてほしいっていう事なんだろうか……)
因果関係がいまだハッキリせず、花音は何となくコーヒーカップに手を伸ばし、温くなったそれを飲み干す。
「ここからはごく私的な話題になるけど、花音に彼氏がいないって本当?」
「! っげほっ……っ」
急にそんな話題になり、花音は咳き込む。
しばらく涙目になってコーヒーに噎せる花音を、秀真が笑いながら「ごめん」と背中をさする。
「つい気になってしまって」
「『つい』って……。前に祖母が言った通り……誰もいませんけど」
「好きな人も?」
「はい」
花音の返事を聞き、秀真の焦げ茶色の目が生き生きと輝く。
「じゃあ、俺と付き合おうか」
「へっ!?」
突然の提案に、花音は素っ頓狂な声を上げた。
そうなれたらいいな、とは心のどこかで思っていたが、彼と自分では住む世界が違いすぎるので、結ばれるなど思っていなかったからだ。
「俺の祖父母が言っていた、『独り身で寂しくしている』って本当なんだ」
「で、でも……。秀真さんって格好いいですし、性格も良くて女性が放っておかなそうな印象があります」
「ありがとう」
花音の言葉を聞き、秀真は照れくさそうに笑う。
「今はいなくても、元カノさんとかいたんでしょう?」
探るつもりはないが、秀真のような人が完全な意味で〝独り身で寂しく〟しているなど、信じられなかった。
「いたにはいたけど……。最後に付き合ったのは二十半ばくらいかな。そこからはずっと完全フリーだったよ」
そう言う秀真は、嘘はついていなさそうだった。
「あの、付き合っていた女性が大勢いても、私は特に大丈夫ですからね?」
思わず念を押したが、「あのねぇ」と苦笑いされた。
「俺も人の子だから、付き合っていた女性と別れる時は相応に傷つくんだ。一度酷い別れ方をすると『当分付き合いはいいかな』と思うし、男同士で飲んだりドライブしたり、BBQやキャンプ……。そういう方が楽だったりするんだ」
「あ……。確かに。私は恋愛経験はほぼないのですが、告白されるのも、断るのも気力が要りますよね」
中学生までは共学で、何度か男子に告白された事があった。
高校生は女子校だったので縁はなかったが、登下校の交通機関で男性に告白された事があり、それは気持ち悪く思っていた。
大学でまた共学になったが、全員が音楽のライバルという感じで恋愛をする間もなかった。
自分から人を好きになる事は滅多になかったが、相手が精一杯の気持ちと勇気を振り絞っているのに、断らなければいけないのはとてもつらかった。
「……他人が俺をどう見ているかは分かっているつもりだ。それでも、見た目ほど遊んでないのが事実だったりする」
「すみません。勝手な想像を働かせてしまいました」
素直に謝ると、秀真は爽やかに笑って「いいよ」と許してくれる。
「初対面の人にもよく言われるから、慣れてる。『草食ぶって本当は遊んでるんだろ?』って。……多分俺は、周囲から求められるカリスマ性とか、ガツガツした部分があまりないのだと思う。昔付き合った女性には、『思っていたよりつまらない』って言われたな」
「こうやって話していたら、秀真さんが穏やかな人だって分かるのに、『つまらない』? 意味が分からないんですが……」
目を丸くする花音に、秀真は苦笑いする。
「洋子さんお孫さんだからって、会った事もないのに肩入れするのは変だって自分でも思っていた。それでも、今は間違いなかったって思うよ」
秀真は指の背で花音の頬を撫で、近い距離で微笑んでくる。
ドキッと胸を高鳴らせた花音は、急に自分が彼とこの家に二人きりなのだと思いだした。
「さっきの話だけど、洋子さんの孫の中で、花音が一番ピアノに向き合っていた。それに、君は挫折も知っている。そして事故に遭ったというところも同じ。……それらをひっくるめて、梨理さんに気に入られたんじゃないかって思うよ」
けれどそう言われ、納得した気もする。
「……そう、ですね……。ピアノ教室でも梨理さんの気配を感じていました。そして他の子ほど私は彼女を怖いと思っていなかったんです」
「だろう? だから花音は特別なんだよ」
「そう……ですね……」
(私の願いを叶えるから、自分の望みを叶えてほしいっていう事なんだろうか……)
因果関係がいまだハッキリせず、花音は何となくコーヒーカップに手を伸ばし、温くなったそれを飲み干す。
「ここからはごく私的な話題になるけど、花音に彼氏がいないって本当?」
「! っげほっ……っ」
急にそんな話題になり、花音は咳き込む。
しばらく涙目になってコーヒーに噎せる花音を、秀真が笑いながら「ごめん」と背中をさする。
「つい気になってしまって」
「『つい』って……。前に祖母が言った通り……誰もいませんけど」
「好きな人も?」
「はい」
花音の返事を聞き、秀真の焦げ茶色の目が生き生きと輝く。
「じゃあ、俺と付き合おうか」
「へっ!?」
突然の提案に、花音は素っ頓狂な声を上げた。
そうなれたらいいな、とは心のどこかで思っていたが、彼と自分では住む世界が違いすぎるので、結ばれるなど思っていなかったからだ。
「俺の祖父母が言っていた、『独り身で寂しくしている』って本当なんだ」
「で、でも……。秀真さんって格好いいですし、性格も良くて女性が放っておかなそうな印象があります」
「ありがとう」
花音の言葉を聞き、秀真は照れくさそうに笑う。
「今はいなくても、元カノさんとかいたんでしょう?」
探るつもりはないが、秀真のような人が完全な意味で〝独り身で寂しく〟しているなど、信じられなかった。
「いたにはいたけど……。最後に付き合ったのは二十半ばくらいかな。そこからはずっと完全フリーだったよ」
そう言う秀真は、嘘はついていなさそうだった。
「あの、付き合っていた女性が大勢いても、私は特に大丈夫ですからね?」
思わず念を押したが、「あのねぇ」と苦笑いされた。
「俺も人の子だから、付き合っていた女性と別れる時は相応に傷つくんだ。一度酷い別れ方をすると『当分付き合いはいいかな』と思うし、男同士で飲んだりドライブしたり、BBQやキャンプ……。そういう方が楽だったりするんだ」
「あ……。確かに。私は恋愛経験はほぼないのですが、告白されるのも、断るのも気力が要りますよね」
中学生までは共学で、何度か男子に告白された事があった。
高校生は女子校だったので縁はなかったが、登下校の交通機関で男性に告白された事があり、それは気持ち悪く思っていた。
大学でまた共学になったが、全員が音楽のライバルという感じで恋愛をする間もなかった。
自分から人を好きになる事は滅多になかったが、相手が精一杯の気持ちと勇気を振り絞っているのに、断らなければいけないのはとてもつらかった。
「……他人が俺をどう見ているかは分かっているつもりだ。それでも、見た目ほど遊んでないのが事実だったりする」
「すみません。勝手な想像を働かせてしまいました」
素直に謝ると、秀真は爽やかに笑って「いいよ」と許してくれる。
「初対面の人にもよく言われるから、慣れてる。『草食ぶって本当は遊んでるんだろ?』って。……多分俺は、周囲から求められるカリスマ性とか、ガツガツした部分があまりないのだと思う。昔付き合った女性には、『思っていたよりつまらない』って言われたな」
「こうやって話していたら、秀真さんが穏やかな人だって分かるのに、『つまらない』? 意味が分からないんですが……」
目を丸くする花音に、秀真は苦笑いする。
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