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運命を変えるために
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洋子が入院している間に何を考えていたのか、医師とどういう話をしていたのかという事も勿論分からない。
なので今それをしる事ができたら、何かしらの解決策が出るのでは、と期待する。
「洋子さんは今まで軽い検査で済んでいたそうなのですが、血液検査の結果、肝機能に関する数値が悪化していて、先生が心筋梗塞の疑いがあると仰ったらしいんです。このままでは狭心症を起こしかねないと言われて、カテーテル検査ののち、必要なら手術を提案されているのですが、洋子さんは恐怖心ゆえに拒否感を示されていたんです」
「…………!」
それでようやく、納得がいった。
元の世界の祖母は、その検査を拒んだ挙げ句、狭心症を起こして助からなかったのではないだろうか。
祖母が亡くなってしまう世界でも、母は「病院にいたのに、目を離した隙のあっという間の出来事だったみたい」と、悔やみきれない表情で言っていた。
「じゃあ……! 検査を受けさせないと!」
花音は弾かれたように言い、一瞬歯噛みしたあと、秀真に頭を下げた。
「すみません! 病院に戻って祖母を説得したいです! 戻ってもらってもいいですか? タクシー代は私が支払いますから!」
急に焦って声を出した花音を見て、秀真は少し驚いて瞠目する。
そのあと、すぐに気持ちを切り替えたようで秀真も運転手に声を掛けた。
「すみません、さっきの病院まで戻って頂けますか?」
「はい、分かりました」
タクシーの運転手は返事をし、途中から道を曲がって病院に戻る道を走ってゆく。
(これでお祖母ちゃんが死ぬ運命を変えられるかもしれない)
先ほどまで和気藹々と会話が続いていたが、花音はその空気を忘れて思い詰めた顔をし、膝の上にある自分の手を見つめている。
その横顔をそっと見た秀真は、スマホを取り出すと祖父母にメッセージで連絡をした。
病院前にタクシーが着いたあと、花音が用意していた財布から金を出す前に、秀真が「カードでお願いします」と言ってさっさと清算してしまった。
「すみません。私の我が儘だから、私が払わないといけないのに……」
「いえ、いいんです。それより洋子さんに話があるんでしょう?」
「はい」
言われて花音は院内に向かって歩き始め、洋子の病室に向かった。
「あら、花音さんどうしたんですか?」
病室にはまだ安野がいて、帰ったと思ったのに姿を現した花音と秀真を見て不思議そうな顔をする。
「お祖母ちゃんに話があって……」
ベッドに座っていた洋子は、「どうしたの?」と花音と後ろにいる秀真を見比べて目を瞬かせた。
秀真は自分が洋子の事を花音に話した事を気まずく思っているのか、洋子に一礼した。
彼をチラッと見やってから、花音は洋子に近付き、その手を両手で握った。
「お祖母ちゃん、手術を躊躇ってるの?」
祖母の目を見つめて確認すると、洋子はハッとした表情になり、秀真を見て苦笑いする。
秀真はその視線を受け、「すみません」と頭を下げた。
「……いいのよ、秀真くん。……そうね、私もこの歳まで健康に気を付けて、病気という病気をしてこなかったから、正直『怖い』と思ってしまっているの」
洋子は孫に向かって「怖い」という感情を出すのを、少し照れくさがっている。
「うん、気持ちは分かるよ。手術って聞いたら怖いよね。……でもね、お願い! お祖母ちゃんの健康のためにも、私たち家族のためにも、今後お祖母ちゃんが大好きなピアノを弾き続けるためにも、ちゃんと検査を受けて、必要なら手術をして」
花音は祖母の手を握ったまま、真摯に訴える。
「もし……、縁起が悪いけど、万が一、ここで検査や手術を受けなかった事で、もしもの事があったら、悔やんでも悔やみきれないの。……だから、お願い! 一生のお願いです! 何でも言う事聞くから!」
花音はその場にしゃがみ込み、洋子の手を両手で握ったまま、祈るように頭を下げた。
孫の姿を見て胸にくるものがあったのか、やがて洋子は「分かったわ」と返事をした。
顔を上げると、洋子はどこか吹っ切れた表情で笑っている。
「可愛い花音がここまで心配してくれているのに、〝大先生〟の私が『検査や手術が怖い』なんて言っていられないものね」
「大奥様……!」
洋子の状態は安野も聞いていたのか、その決断を聞いて思わず声を上げる。
「良かった……! ありがとう!」
安堵した花音はクシャッと笑い、洋子に軽く抱きついて背中をトントンと叩いた。
その後、洋子は「お医者様に相談するわね」と告げたあと、「春枝さんたちを待たせたらいけないから」と言って、花音と秀真に二人を追いかけるよう促した。
なので今それをしる事ができたら、何かしらの解決策が出るのでは、と期待する。
「洋子さんは今まで軽い検査で済んでいたそうなのですが、血液検査の結果、肝機能に関する数値が悪化していて、先生が心筋梗塞の疑いがあると仰ったらしいんです。このままでは狭心症を起こしかねないと言われて、カテーテル検査ののち、必要なら手術を提案されているのですが、洋子さんは恐怖心ゆえに拒否感を示されていたんです」
「…………!」
それでようやく、納得がいった。
元の世界の祖母は、その検査を拒んだ挙げ句、狭心症を起こして助からなかったのではないだろうか。
祖母が亡くなってしまう世界でも、母は「病院にいたのに、目を離した隙のあっという間の出来事だったみたい」と、悔やみきれない表情で言っていた。
「じゃあ……! 検査を受けさせないと!」
花音は弾かれたように言い、一瞬歯噛みしたあと、秀真に頭を下げた。
「すみません! 病院に戻って祖母を説得したいです! 戻ってもらってもいいですか? タクシー代は私が支払いますから!」
急に焦って声を出した花音を見て、秀真は少し驚いて瞠目する。
そのあと、すぐに気持ちを切り替えたようで秀真も運転手に声を掛けた。
「すみません、さっきの病院まで戻って頂けますか?」
「はい、分かりました」
タクシーの運転手は返事をし、途中から道を曲がって病院に戻る道を走ってゆく。
(これでお祖母ちゃんが死ぬ運命を変えられるかもしれない)
先ほどまで和気藹々と会話が続いていたが、花音はその空気を忘れて思い詰めた顔をし、膝の上にある自分の手を見つめている。
その横顔をそっと見た秀真は、スマホを取り出すと祖父母にメッセージで連絡をした。
病院前にタクシーが着いたあと、花音が用意していた財布から金を出す前に、秀真が「カードでお願いします」と言ってさっさと清算してしまった。
「すみません。私の我が儘だから、私が払わないといけないのに……」
「いえ、いいんです。それより洋子さんに話があるんでしょう?」
「はい」
言われて花音は院内に向かって歩き始め、洋子の病室に向かった。
「あら、花音さんどうしたんですか?」
病室にはまだ安野がいて、帰ったと思ったのに姿を現した花音と秀真を見て不思議そうな顔をする。
「お祖母ちゃんに話があって……」
ベッドに座っていた洋子は、「どうしたの?」と花音と後ろにいる秀真を見比べて目を瞬かせた。
秀真は自分が洋子の事を花音に話した事を気まずく思っているのか、洋子に一礼した。
彼をチラッと見やってから、花音は洋子に近付き、その手を両手で握った。
「お祖母ちゃん、手術を躊躇ってるの?」
祖母の目を見つめて確認すると、洋子はハッとした表情になり、秀真を見て苦笑いする。
秀真はその視線を受け、「すみません」と頭を下げた。
「……いいのよ、秀真くん。……そうね、私もこの歳まで健康に気を付けて、病気という病気をしてこなかったから、正直『怖い』と思ってしまっているの」
洋子は孫に向かって「怖い」という感情を出すのを、少し照れくさがっている。
「うん、気持ちは分かるよ。手術って聞いたら怖いよね。……でもね、お願い! お祖母ちゃんの健康のためにも、私たち家族のためにも、今後お祖母ちゃんが大好きなピアノを弾き続けるためにも、ちゃんと検査を受けて、必要なら手術をして」
花音は祖母の手を握ったまま、真摯に訴える。
「もし……、縁起が悪いけど、万が一、ここで検査や手術を受けなかった事で、もしもの事があったら、悔やんでも悔やみきれないの。……だから、お願い! 一生のお願いです! 何でも言う事聞くから!」
花音はその場にしゃがみ込み、洋子の手を両手で握ったまま、祈るように頭を下げた。
孫の姿を見て胸にくるものがあったのか、やがて洋子は「分かったわ」と返事をした。
顔を上げると、洋子はどこか吹っ切れた表情で笑っている。
「可愛い花音がここまで心配してくれているのに、〝大先生〟の私が『検査や手術が怖い』なんて言っていられないものね」
「大奥様……!」
洋子の状態は安野も聞いていたのか、その決断を聞いて思わず声を上げる。
「良かった……! ありがとう!」
安堵した花音はクシャッと笑い、洋子に軽く抱きついて背中をトントンと叩いた。
その後、洋子は「お医者様に相談するわね」と告げたあと、「春枝さんたちを待たせたらいけないから」と言って、花音と秀真に二人を追いかけるよう促した。
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