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タクシーで
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「この通り、ピンピンしているわ。安心して、札幌の美味しい物でも食べて観光して、東京でまた忙しい日々を送ってくださいな」
洋子の言葉に、三人ともが微笑む。
(この人達、本当にお祖母ちゃんの事が好きなんだな……。こんな人がいて良かった)
最愛の祖父を喪って、祖母は一時消沈していた。
今ではいつも通りに振る舞っているものの、ピアノ教室も一か月休みにして、奏恵に任せたほどだ。
洋子には全国、全世界に友人がいるけれど、この札幌の地まで訪れる人はそうそういなかった。
遠方だというのもあるし、洋子と似た年齢の人は歳と共に多忙になったり、体の不調や、あまり遠出ができなくなったなどの理由があるのだろう。
だからこそ、瀬ノ尾家の三人がこうして病院まで来てくれた事に、花音は孫として安堵と感謝を覚えていた。
さらにその時、「まぁまぁ」と家政婦の安野の声がした。
「お客様が一杯ですね、大先生。瀬ノ尾様、お久しぶりです」
安野は瀬ノ尾の事も知っているようだった。
もしかしたらこの三人は昔から洋子を訪ねていたのかもしれないが、近場とは言え花音の実家は別の家なので、会う事がなかったと思われる。
引きこもっていた時期ならなおさらだ。
「お邪魔になってしまうわね。そろそろ私たちはお暇します」
春枝が言い、三人が立ち上がる。
(どうしよう。送って行った方がいいのかな?)
そう思っていた時、洋子が提案した。
「花音。もし良かったら、瀬ノ尾さんたちに札幌を案内して差し上げたら?」
「えっ? あっ、はい!」
言われて、気が利かなかったと一瞬反省する。
「いえ、いいんですよ。花音さんも今来たばかりですし」
康夫が申し訳なさそうに笑うが、遠慮をしなかったのは秀真だった。
「私はぜひ案内してほしいです」
積極的に声を出した秀真を、洋子、康夫と春枝、安野が「おや?」という顔で見やる。
「私は祖父母ほど札幌に来ていないので、それほど観光できていないんです。北海道は居酒屋のホッケとかも美味いんでしょう? もし良ければ、ご馳走しますから夕食もご一緒しませんか?」
格好いい男性に食事に誘われ、花音はドギマギして言葉を迷わせる。
「え……えと……」
「いいじゃない、花音。秀真さんを案内して差し上げなさい? 秀真さん。この子ずっと彼氏がいないんです」
「おっ、お祖母ちゃん! だから! も~!」
ボッと真っ赤になった花音を見て、全員が笑う。
結局その後、四人で病院を出て札幌駅に向かう事になった。
病室を出る時に、春枝が洋子に向けて告げる。
「洋子さん、可愛いお孫さんのためにも勇気を出してね。もしかしたら、ひ孫の顔が見られるかもしれないわよ」
誰の事とは言っていないが、自分の事を言われた気がして花音は赤面する。
が、「勇気を出してね」という言葉が気に掛かった。
一度は廊下に出たものの、花音は病室の方を振り向く。
春枝は出入り口の所に立っていて、洋子に微笑みかけている。
洋子はいまだベッドに座ったままだったが、何か迷ったあとに春枝に向けて「考えておくわ」と頷いていた。
花音が病室に着いたのは十五時半ほどで、秀真たちと三十分ほど話していた。
花音はいつものように列車で移動するつもりだったのだが、春枝が「タクシーに乗って行きましょう?」と言うので、その移動手段に付き合う事にした。
病院前のタクシー乗り場で、春枝は、「秀真は花音さんと乗りなさい」と言って自分は康夫とタクシーに乗り込んでしまった。
「じゃあ、花音さん。私と二人で……ですが、乗りましょうか」
「は、はい」
二人でと強調されると、恥ずかしくて緊張してしまう。
秀真は車の上座である、運転席の後ろに花音を乗せた。そのあと自分も隣に乗り込み、「札幌駅北口までお願いします」と告げる。
タクシーが発進し、花音は緊張しつつも秀真に話し掛けた。
「秀真さんは、札幌は何度目なんですか?」
会話を振られ、秀真は嬉しそうに微笑み返事をする。
「子供の頃は祖父母に連れられて何度か来ましたね。でも如何せん昔なのでそれほど覚えていないんです。それに札幌も近年グッと変わってきたでしょう? そうなってから来たのは、一、二回じゃないかと思います。それも、祖父母と一緒に洋子さんを訪れるのが目的でした。週末に来て洋子さんとお話して夕食を取り、すぐ帰る……みたいな感じでしたね。日曜日は出勤前なのでゆっくりしたくて」
洋子の言葉に、三人ともが微笑む。
(この人達、本当にお祖母ちゃんの事が好きなんだな……。こんな人がいて良かった)
最愛の祖父を喪って、祖母は一時消沈していた。
今ではいつも通りに振る舞っているものの、ピアノ教室も一か月休みにして、奏恵に任せたほどだ。
洋子には全国、全世界に友人がいるけれど、この札幌の地まで訪れる人はそうそういなかった。
遠方だというのもあるし、洋子と似た年齢の人は歳と共に多忙になったり、体の不調や、あまり遠出ができなくなったなどの理由があるのだろう。
だからこそ、瀬ノ尾家の三人がこうして病院まで来てくれた事に、花音は孫として安堵と感謝を覚えていた。
さらにその時、「まぁまぁ」と家政婦の安野の声がした。
「お客様が一杯ですね、大先生。瀬ノ尾様、お久しぶりです」
安野は瀬ノ尾の事も知っているようだった。
もしかしたらこの三人は昔から洋子を訪ねていたのかもしれないが、近場とは言え花音の実家は別の家なので、会う事がなかったと思われる。
引きこもっていた時期ならなおさらだ。
「お邪魔になってしまうわね。そろそろ私たちはお暇します」
春枝が言い、三人が立ち上がる。
(どうしよう。送って行った方がいいのかな?)
そう思っていた時、洋子が提案した。
「花音。もし良かったら、瀬ノ尾さんたちに札幌を案内して差し上げたら?」
「えっ? あっ、はい!」
言われて、気が利かなかったと一瞬反省する。
「いえ、いいんですよ。花音さんも今来たばかりですし」
康夫が申し訳なさそうに笑うが、遠慮をしなかったのは秀真だった。
「私はぜひ案内してほしいです」
積極的に声を出した秀真を、洋子、康夫と春枝、安野が「おや?」という顔で見やる。
「私は祖父母ほど札幌に来ていないので、それほど観光できていないんです。北海道は居酒屋のホッケとかも美味いんでしょう? もし良ければ、ご馳走しますから夕食もご一緒しませんか?」
格好いい男性に食事に誘われ、花音はドギマギして言葉を迷わせる。
「え……えと……」
「いいじゃない、花音。秀真さんを案内して差し上げなさい? 秀真さん。この子ずっと彼氏がいないんです」
「おっ、お祖母ちゃん! だから! も~!」
ボッと真っ赤になった花音を見て、全員が笑う。
結局その後、四人で病院を出て札幌駅に向かう事になった。
病室を出る時に、春枝が洋子に向けて告げる。
「洋子さん、可愛いお孫さんのためにも勇気を出してね。もしかしたら、ひ孫の顔が見られるかもしれないわよ」
誰の事とは言っていないが、自分の事を言われた気がして花音は赤面する。
が、「勇気を出してね」という言葉が気に掛かった。
一度は廊下に出たものの、花音は病室の方を振り向く。
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洋子はいまだベッドに座ったままだったが、何か迷ったあとに春枝に向けて「考えておくわ」と頷いていた。
花音が病室に着いたのは十五時半ほどで、秀真たちと三十分ほど話していた。
花音はいつものように列車で移動するつもりだったのだが、春枝が「タクシーに乗って行きましょう?」と言うので、その移動手段に付き合う事にした。
病院前のタクシー乗り場で、春枝は、「秀真は花音さんと乗りなさい」と言って自分は康夫とタクシーに乗り込んでしまった。
「じゃあ、花音さん。私と二人で……ですが、乗りましょうか」
「は、はい」
二人でと強調されると、恥ずかしくて緊張してしまう。
秀真は車の上座である、運転席の後ろに花音を乗せた。そのあと自分も隣に乗り込み、「札幌駅北口までお願いします」と告げる。
タクシーが発進し、花音は緊張しつつも秀真に話し掛けた。
「秀真さんは、札幌は何度目なんですか?」
会話を振られ、秀真は嬉しそうに微笑み返事をする。
「子供の頃は祖父母に連れられて何度か来ましたね。でも如何せん昔なのでそれほど覚えていないんです。それに札幌も近年グッと変わってきたでしょう? そうなってから来たのは、一、二回じゃないかと思います。それも、祖父母と一緒に洋子さんを訪れるのが目的でした。週末に来て洋子さんとお話して夕食を取り、すぐ帰る……みたいな感じでしたね。日曜日は出勤前なのでゆっくりしたくて」
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