【R-18】八年執着されましたが、幸せです

臣桜

文字の大きさ
上 下
60 / 63

初めましての挨拶

しおりを挟む
 だが彼と芳乃とでは、状況がまったく違う。

《あなたのそれは、恋ではないわ。自分の思うままにいかないから手に入れようとする、ただの所有欲よ。子供の我が儘ね。いい加減おしゃぶりを手放したら?》

 辛辣な言葉を吐き、グレースが立ち上がる。

《彼は私の弁護士。これからあなたと〝話し合い〟があるから、きちんと聞いてね?》

 一緒に入ってきた男性を紹介したあと、グレースはドアに向かう。

《今までのストーカー行為を、あなたの家族にも会社にも知らせるわ。NYでどれだけのゴシップになるか分からないけれど、自業自得ね。これでもまだ私に関わるというのなら、相応の覚悟をするべきよ。そして今回の事で、協力者である暁人に逆恨みをしたら許さない。彼の恋人である芳乃さんに手を出しても許さない。その辺りはしっかりと契約書を書かせるわ》

 言い切ったあと、グレースは部屋を出る。

《今はお一人になられて、冷静に考えられた方が宜しいかと思います。何かありましたら、どうぞお申し付けください》

 暁人も一礼をし、スイートルームをあとにした。





 廊下を歩きながら、暁人は日本語でグレースに話しかける。

「お疲れ様、グレース」

「なんて事はないわ。私もストーカーを潰せるいい機会だったもの。今までそれとなく周囲を嗅ぎ回られているだけだったけれど、日本に来てあなたと接触するようになってから、あからさまに尾行されるようになった。私は暁人が協力してくれるのをいい事に、決着をつけようと思った。お互いに利害が一致しただけよ」

「確かに。俺も長年邪魔だと思っていた男を排除できて、スッキリしたよ。芳乃の敵討ちもできた」

 そう言うと、グレースはクスクス笑う。

「あなたが一途を通り越して、ちょっと病的なまでに彼女を想っているのは知っていたけれど、相当よね。NYにまで人をやって彼女の身の回りを調べて、虫がついたかどうか見張らせていただなんて。……私から見れば、ウィリアムとやっている事は似ているけど……。まー……、あなたは純愛なだけ、まだマシなのかしらね?」

 笑い続ける幼馴染みを、暁人はジロリと睨む。

「まぁ、あの根暗な少年が一目惚れをして、一気に行動的になった事を思えば、祝うべき事よね。その執念深い恋を成就させて、幸せになって」

 エレベーターで一緒に一階まで下りると、フロントにいた芳乃とばっちり目が合った。

「丁度いいから、彼女に挨拶をさせて。私、ラウンジのカフェにいるわね」

「分かった」

 頷いた暁人は、フロントに向かった。



**



(あ。暁人だ。……隣にいる女性は、グレースさん……)

 普通ならフロントに立ち寄って宿泊客への用事を取り次ぐものだが、先ほど見かけた彼女は、スタッフと共にまっすぐエレベーターに向かった。

 遠目で見てグレースだとすぐに分かったが、事前に暁人から事の全容を教えられていたので、動揺する事はなかった。

 暁人は「すべて片付けるよ」と言っていたので、彼に任せると決めた。

(終わったのかな)

 考えている間に、暁人がフロントにやって来た。

「三峯さん。少しいいかな?」

「はい」

 その場にいる同僚に視線をやると、「大丈夫」というように頷いてくれた。
 会釈をして暁人についていくと、ラウンジのカフェでグレースが待っていた。

「……は、初めまして」

 彼女と言葉を交わすのは初めてなので緊張する。

「初めまして。私はグレース・パーカー。暁人の幼馴染みよ」

 彼の言葉の通りなら、グレースは三十歳のはずだ。
 しかし年齢を感じさせないぐらい、若々しく美しい。
 握手を求められて手を握り返し、軽くハグをされる。

「芳乃さんには迷惑を掛けてしまったわね。それほどの頻度で暁人と会っている訳じゃないから、あまり心配しなくてもいいかしら? って思っていたけど、恋する女性は恋人の変化に敏感よね」

「い、いえ……」

 ズバリと言い当てられ、芳乃は赤面する。
 隣に座った暁人が、テーブルの上に置かれていた芳乃の手に、自分の手を重ねた。

「芳乃、すべて終わったよ。ウィリアム・ターナーは破滅した。少なくともスカーレット・ジャクソンとの婚約は破棄され、彼は今後グレースへのストーカー行為で、本国ではゴシップの対象となるだろう」

「ん……」

 暁人の言葉に、芳乃は曖昧に頷く。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...