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初めましての挨拶
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だが彼と芳乃とでは、状況がまったく違う。
《あなたのそれは、恋ではないわ。自分の思うままにいかないから手に入れようとする、ただの所有欲よ。子供の我が儘ね。いい加減おしゃぶりを手放したら?》
辛辣な言葉を吐き、グレースが立ち上がる。
《彼は私の弁護士。これからあなたと〝話し合い〟があるから、きちんと聞いてね?》
一緒に入ってきた男性を紹介したあと、グレースはドアに向かう。
《今までのストーカー行為を、あなたの家族にも会社にも知らせるわ。NYでどれだけのゴシップになるか分からないけれど、自業自得ね。これでもまだ私に関わるというのなら、相応の覚悟をするべきよ。そして今回の事で、協力者である暁人に逆恨みをしたら許さない。彼の恋人である芳乃さんに手を出しても許さない。その辺りはしっかりと契約書を書かせるわ》
言い切ったあと、グレースは部屋を出る。
《今はお一人になられて、冷静に考えられた方が宜しいかと思います。何かありましたら、どうぞお申し付けください》
暁人も一礼をし、スイートルームをあとにした。
廊下を歩きながら、暁人は日本語でグレースに話しかける。
「お疲れ様、グレース」
「なんて事はないわ。私もストーカーを潰せるいい機会だったもの。今までそれとなく周囲を嗅ぎ回られているだけだったけれど、日本に来てあなたと接触するようになってから、あからさまに尾行されるようになった。私は暁人が協力してくれるのをいい事に、決着をつけようと思った。お互いに利害が一致しただけよ」
「確かに。俺も長年邪魔だと思っていた男を排除できて、スッキリしたよ。芳乃の敵討ちもできた」
そう言うと、グレースはクスクス笑う。
「あなたが一途を通り越して、ちょっと病的なまでに彼女を想っているのは知っていたけれど、相当よね。NYにまで人をやって彼女の身の回りを調べて、虫がついたかどうか見張らせていただなんて。……私から見れば、ウィリアムとやっている事は似ているけど……。まー……、あなたは純愛なだけ、まだマシなのかしらね?」
笑い続ける幼馴染みを、暁人はジロリと睨む。
「まぁ、あの根暗な少年が一目惚れをして、一気に行動的になった事を思えば、祝うべき事よね。その執念深い恋を成就させて、幸せになって」
エレベーターで一緒に一階まで下りると、フロントにいた芳乃とばっちり目が合った。
「丁度いいから、彼女に挨拶をさせて。私、ラウンジのカフェにいるわね」
「分かった」
頷いた暁人は、フロントに向かった。
**
(あ。暁人だ。……隣にいる女性は、グレースさん……)
普通ならフロントに立ち寄って宿泊客への用事を取り次ぐものだが、先ほど見かけた彼女は、スタッフと共にまっすぐエレベーターに向かった。
遠目で見てグレースだとすぐに分かったが、事前に暁人から事の全容を教えられていたので、動揺する事はなかった。
暁人は「すべて片付けるよ」と言っていたので、彼に任せると決めた。
(終わったのかな)
考えている間に、暁人がフロントにやって来た。
「三峯さん。少しいいかな?」
「はい」
その場にいる同僚に視線をやると、「大丈夫」というように頷いてくれた。
会釈をして暁人についていくと、ラウンジのカフェでグレースが待っていた。
「……は、初めまして」
彼女と言葉を交わすのは初めてなので緊張する。
「初めまして。私はグレース・パーカー。暁人の幼馴染みよ」
彼の言葉の通りなら、グレースは三十歳のはずだ。
しかし年齢を感じさせないぐらい、若々しく美しい。
握手を求められて手を握り返し、軽くハグをされる。
「芳乃さんには迷惑を掛けてしまったわね。それほどの頻度で暁人と会っている訳じゃないから、あまり心配しなくてもいいかしら? って思っていたけど、恋する女性は恋人の変化に敏感よね」
「い、いえ……」
ズバリと言い当てられ、芳乃は赤面する。
隣に座った暁人が、テーブルの上に置かれていた芳乃の手に、自分の手を重ねた。
「芳乃、すべて終わったよ。ウィリアム・ターナーは破滅した。少なくともスカーレット・ジャクソンとの婚約は破棄され、彼は今後グレースへのストーカー行為で、本国ではゴシップの対象となるだろう」
「ん……」
暁人の言葉に、芳乃は曖昧に頷く。
《あなたのそれは、恋ではないわ。自分の思うままにいかないから手に入れようとする、ただの所有欲よ。子供の我が儘ね。いい加減おしゃぶりを手放したら?》
辛辣な言葉を吐き、グレースが立ち上がる。
《彼は私の弁護士。これからあなたと〝話し合い〟があるから、きちんと聞いてね?》
一緒に入ってきた男性を紹介したあと、グレースはドアに向かう。
《今までのストーカー行為を、あなたの家族にも会社にも知らせるわ。NYでどれだけのゴシップになるか分からないけれど、自業自得ね。これでもまだ私に関わるというのなら、相応の覚悟をするべきよ。そして今回の事で、協力者である暁人に逆恨みをしたら許さない。彼の恋人である芳乃さんに手を出しても許さない。その辺りはしっかりと契約書を書かせるわ》
言い切ったあと、グレースは部屋を出る。
《今はお一人になられて、冷静に考えられた方が宜しいかと思います。何かありましたら、どうぞお申し付けください》
暁人も一礼をし、スイートルームをあとにした。
廊下を歩きながら、暁人は日本語でグレースに話しかける。
「お疲れ様、グレース」
「なんて事はないわ。私もストーカーを潰せるいい機会だったもの。今までそれとなく周囲を嗅ぎ回られているだけだったけれど、日本に来てあなたと接触するようになってから、あからさまに尾行されるようになった。私は暁人が協力してくれるのをいい事に、決着をつけようと思った。お互いに利害が一致しただけよ」
「確かに。俺も長年邪魔だと思っていた男を排除できて、スッキリしたよ。芳乃の敵討ちもできた」
そう言うと、グレースはクスクス笑う。
「あなたが一途を通り越して、ちょっと病的なまでに彼女を想っているのは知っていたけれど、相当よね。NYにまで人をやって彼女の身の回りを調べて、虫がついたかどうか見張らせていただなんて。……私から見れば、ウィリアムとやっている事は似ているけど……。まー……、あなたは純愛なだけ、まだマシなのかしらね?」
笑い続ける幼馴染みを、暁人はジロリと睨む。
「まぁ、あの根暗な少年が一目惚れをして、一気に行動的になった事を思えば、祝うべき事よね。その執念深い恋を成就させて、幸せになって」
エレベーターで一緒に一階まで下りると、フロントにいた芳乃とばっちり目が合った。
「丁度いいから、彼女に挨拶をさせて。私、ラウンジのカフェにいるわね」
「分かった」
頷いた暁人は、フロントに向かった。
**
(あ。暁人だ。……隣にいる女性は、グレースさん……)
普通ならフロントに立ち寄って宿泊客への用事を取り次ぐものだが、先ほど見かけた彼女は、スタッフと共にまっすぐエレベーターに向かった。
遠目で見てグレースだとすぐに分かったが、事前に暁人から事の全容を教えられていたので、動揺する事はなかった。
暁人は「すべて片付けるよ」と言っていたので、彼に任せると決めた。
(終わったのかな)
考えている間に、暁人がフロントにやって来た。
「三峯さん。少しいいかな?」
「はい」
その場にいる同僚に視線をやると、「大丈夫」というように頷いてくれた。
会釈をして暁人についていくと、ラウンジのカフェでグレースが待っていた。
「……は、初めまして」
彼女と言葉を交わすのは初めてなので緊張する。
「初めまして。私はグレース・パーカー。暁人の幼馴染みよ」
彼の言葉の通りなら、グレースは三十歳のはずだ。
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握手を求められて手を握り返し、軽くハグをされる。
「芳乃さんには迷惑を掛けてしまったわね。それほどの頻度で暁人と会っている訳じゃないから、あまり心配しなくてもいいかしら? って思っていたけど、恋する女性は恋人の変化に敏感よね」
「い、いえ……」
ズバリと言い当てられ、芳乃は赤面する。
隣に座った暁人が、テーブルの上に置かれていた芳乃の手に、自分の手を重ねた。
「芳乃、すべて終わったよ。ウィリアム・ターナーは破滅した。少なくともスカーレット・ジャクソンとの婚約は破棄され、彼は今後グレースへのストーカー行為で、本国ではゴシップの対象となるだろう」
「ん……」
暁人の言葉に、芳乃は曖昧に頷く。
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