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修羅場
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《初めまして。あなたの噂は窺っています。Ms.ジャクソン。彼の婚約者ですってね? 私はグレース・パーカー。大学では彼の後輩に当たり、先にスキップで卒業させてもらった者です》
《グレース……》
その名前に心当たりがあったのか、スカーレットは目の前の彼女への認識を改める。
グレースは現在日本で事業を行っているものの、起業をするにあたっての資金などは、すべて投資によって稼いだ。
大学の経済学部でも非常に優秀な成績を残し、卒業後も世界に名を馳せる投資家となった。
現在、彼女の投資家としての視点を知るために、SNSをフォローした人数は数十万人にも及ぶ。
エキセントリックな発言もするため、アンチ的存在もいるが、彼女の投資論を参考にしているファンは圧倒的に多い。
暁人は予定通りの彼女の登場に、微かに笑ったまま壁際に控えていた。
《私はご存じの通り、話題の中心になるため人の目を引きます。そして、私は美しい。在学中もあらゆる誘いを受けました。……勿論、ウィル先輩にも》
グレースの言葉を聞き、ウィリアムが顔色を変え、スカーレットが朱唇を引き結ぶ。
《彼は私が卒業したあとも、諦めませんでした。御曹司としてのプライドがあったんでしょうか? 私は彼を何度もハッキリ振ったというのに、諦めてくれませんでした。自分には手には入らないものはないと、普段から豪語していたましたものね》
スカーレットは目の下をヒクつかせている。
《私はアメリカから出て、大好きな日本に転居しました。ですが私の周りにはずっとウィル先輩の手の者がうろつき回り、私の行動を逐一彼に報告してしました。私は彼……、神楽坂暁人氏と既知の仲であり、彼に偽りの夫役を頼み、ウィル先輩を誤魔化そうとしました。……ですが、彼は『妥当な線で決めた』と、SNSの裏アカウントで漏らした婚約者を連れ、はるばる日本まで来ました。本当に結婚する前に、私に一目会って最後に求婚するためです》
部屋の主に何も言われていないが、グレースはソファに座り脚を組む。
立ち尽くしたスカーレットは、〝妥当な存在〟と言われて真っ赤になって怒っている。
《お前……! グレースをこの部屋に引き入れたな!?》
ウィリアムは攻撃する矛先を変え、暁人に指を突きつける。
しかし彼は微笑んだまま動揺しない。
《お客様は本日、グレース・パーカー様という女性とお会いになるつもりだと仰っていました。そのために雰囲気のいいレストランなどをご紹介しましたが、目的の方がいらっしゃったのなら、直接お話をされた方がいいのでは……という思いでお通ししました。ご気分を害してしまったのでしたら、大変申し訳ございません》
《ウィル! 私という婚約者がいながら、結局あなたが浮気を繰り返しているんじゃない! この期に及んでMr.神楽坂のせいにしようとするだなんて、見損なったわ! 仕事絡みにしては、本来あまり必要のない視察に思えたけれど、この女に会いに来る方便だったのね!? 私があなたの予定をマーティンから聞いて、『何しに日本に行くの?』と聞いたから、誤魔化すために仕事にこじつけた……!》
スカーレットはヒステリックに叫び、身振り手振りでウィリアムを責める。
《君のそういう、感情的になるところが嫌いなんだ! 顔はいいしジャクソンホールディングスの令嬢だから、結婚相手に相応しいと思ったが、束縛が強すぎるし直情的だ!》
《婚約者の浮気を疑うのが、束縛と言うの? あなたは放っておくといつも女性と二人きりでレストランやバーに行っていたわ。友達だっていうし、私が本命だと信じていたから放っておいたけど、今まで私はずーっと我慢してきたの! それなのに……っ》
スカーレットの声が、涙で崩れる。
《マーティンから、あなたが色んな女性と寝ていて不誠実だから、結婚を考え直した方がいいと言われた時の、私の気持ちを考えられる? 好きだったのよ! あなたは女性から人気がありそうだと、最初から分かっていた。交友関係だって広いし、皆があなたを好いていた。けど、私を選んでくれたって、信じていたのよ! 日本に来てヨシノという女を見つけて、嫌な予感がしたわ。……でもそっちじゃない。あなたの本命はずっと別の女性にあった! ~~~~この女ったらし!!》
叩きつけるように言ったあと、スカーレットは足音高くリビングを歩いて行く。
《レティ、どこへ!?》
《帰国するわ! そしてパパにあなたとの婚約を解消したって言うの! あなたとはもう金輪際関わらないから、どこででも好きな女といちゃついて!》
そのあと、奥にある部屋からドタンバタンと大きな音がする。
ウィリアムは呆然としたまま立ち尽くし、絶望した顔でグレースを見る。
《あなたがしていた事は不誠実で異常よ。フラれた現実を受け入れられず、自分に服従させたいという理由から、何年も私を追いかけ回した。その片手間に女性を口説き、表向き〝ターナー&リゾーツ〟の御曹司としてうまくやろうとした。……でも、不誠実な事をしていれば、どこかでしわ寄せがくるのよ。あなたの女癖の悪さは一部で有名だったわ。日本にいる私の元にまで、友達伝いに聞こえてくるんですもの》
グレースはゆったりと座ったまま、女王のようにウィリアムに告げる。
《僕は……。ただ君を好きなだけで……》
奇しくも、ウィリアムは芳乃と同じセリフを吐く。
《グレース……》
その名前に心当たりがあったのか、スカーレットは目の前の彼女への認識を改める。
グレースは現在日本で事業を行っているものの、起業をするにあたっての資金などは、すべて投資によって稼いだ。
大学の経済学部でも非常に優秀な成績を残し、卒業後も世界に名を馳せる投資家となった。
現在、彼女の投資家としての視点を知るために、SNSをフォローした人数は数十万人にも及ぶ。
エキセントリックな発言もするため、アンチ的存在もいるが、彼女の投資論を参考にしているファンは圧倒的に多い。
暁人は予定通りの彼女の登場に、微かに笑ったまま壁際に控えていた。
《私はご存じの通り、話題の中心になるため人の目を引きます。そして、私は美しい。在学中もあらゆる誘いを受けました。……勿論、ウィル先輩にも》
グレースの言葉を聞き、ウィリアムが顔色を変え、スカーレットが朱唇を引き結ぶ。
《彼は私が卒業したあとも、諦めませんでした。御曹司としてのプライドがあったんでしょうか? 私は彼を何度もハッキリ振ったというのに、諦めてくれませんでした。自分には手には入らないものはないと、普段から豪語していたましたものね》
スカーレットは目の下をヒクつかせている。
《私はアメリカから出て、大好きな日本に転居しました。ですが私の周りにはずっとウィル先輩の手の者がうろつき回り、私の行動を逐一彼に報告してしました。私は彼……、神楽坂暁人氏と既知の仲であり、彼に偽りの夫役を頼み、ウィル先輩を誤魔化そうとしました。……ですが、彼は『妥当な線で決めた』と、SNSの裏アカウントで漏らした婚約者を連れ、はるばる日本まで来ました。本当に結婚する前に、私に一目会って最後に求婚するためです》
部屋の主に何も言われていないが、グレースはソファに座り脚を組む。
立ち尽くしたスカーレットは、〝妥当な存在〟と言われて真っ赤になって怒っている。
《お前……! グレースをこの部屋に引き入れたな!?》
ウィリアムは攻撃する矛先を変え、暁人に指を突きつける。
しかし彼は微笑んだまま動揺しない。
《お客様は本日、グレース・パーカー様という女性とお会いになるつもりだと仰っていました。そのために雰囲気のいいレストランなどをご紹介しましたが、目的の方がいらっしゃったのなら、直接お話をされた方がいいのでは……という思いでお通ししました。ご気分を害してしまったのでしたら、大変申し訳ございません》
《ウィル! 私という婚約者がいながら、結局あなたが浮気を繰り返しているんじゃない! この期に及んでMr.神楽坂のせいにしようとするだなんて、見損なったわ! 仕事絡みにしては、本来あまり必要のない視察に思えたけれど、この女に会いに来る方便だったのね!? 私があなたの予定をマーティンから聞いて、『何しに日本に行くの?』と聞いたから、誤魔化すために仕事にこじつけた……!》
スカーレットはヒステリックに叫び、身振り手振りでウィリアムを責める。
《君のそういう、感情的になるところが嫌いなんだ! 顔はいいしジャクソンホールディングスの令嬢だから、結婚相手に相応しいと思ったが、束縛が強すぎるし直情的だ!》
《婚約者の浮気を疑うのが、束縛と言うの? あなたは放っておくといつも女性と二人きりでレストランやバーに行っていたわ。友達だっていうし、私が本命だと信じていたから放っておいたけど、今まで私はずーっと我慢してきたの! それなのに……っ》
スカーレットの声が、涙で崩れる。
《マーティンから、あなたが色んな女性と寝ていて不誠実だから、結婚を考え直した方がいいと言われた時の、私の気持ちを考えられる? 好きだったのよ! あなたは女性から人気がありそうだと、最初から分かっていた。交友関係だって広いし、皆があなたを好いていた。けど、私を選んでくれたって、信じていたのよ! 日本に来てヨシノという女を見つけて、嫌な予感がしたわ。……でもそっちじゃない。あなたの本命はずっと別の女性にあった! ~~~~この女ったらし!!》
叩きつけるように言ったあと、スカーレットは足音高くリビングを歩いて行く。
《レティ、どこへ!?》
《帰国するわ! そしてパパにあなたとの婚約を解消したって言うの! あなたとはもう金輪際関わらないから、どこででも好きな女といちゃついて!》
そのあと、奥にある部屋からドタンバタンと大きな音がする。
ウィリアムは呆然としたまま立ち尽くし、絶望した顔でグレースを見る。
《あなたがしていた事は不誠実で異常よ。フラれた現実を受け入れられず、自分に服従させたいという理由から、何年も私を追いかけ回した。その片手間に女性を口説き、表向き〝ターナー&リゾーツ〟の御曹司としてうまくやろうとした。……でも、不誠実な事をしていれば、どこかでしわ寄せがくるのよ。あなたの女癖の悪さは一部で有名だったわ。日本にいる私の元にまで、友達伝いに聞こえてくるんですもの》
グレースはゆったりと座ったまま、女王のようにウィリアムに告げる。
《僕は……。ただ君を好きなだけで……》
奇しくも、ウィリアムは芳乃と同じセリフを吐く。
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