【R-18】八年執着されましたが、幸せです

臣桜

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ずっと、あなただけを想い続けてきた

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「暁人」

 一瞬迷ってから呼び捨てにすると、彼は嬉しそうに微笑んで抱き締めてきた。

「芳乃」

 今までの雇用主と従業員という立場、そして昔の家庭教師と生徒という過去を経て、今名前を呼び捨てにし合って初めて、二人は互いが大人の男女になったのだと思い知った。

 彼が顔を傾け、目を伏せる。

 ――キスをされる。

 予感を感じても、もう芳乃は抵抗しなかった。

 ホテルで酷く失態したところを見られての絶望も、年下の教え子に向けて「いけない」と思う気持ちも、今はまったく感じなかったからだ。

 フワリと柔らかく唇が重なり、ちゅむ、とついばまれる。
 何度か優しいキスをしたあと、暁人は顔を離し愛しげに微笑んできた。

「ずっと、あなただけを想い続けてきた」

 その言葉も、今なら信じられる。

 あまりに嬉しくて――、また新しい涙がこぼれ落ちた。

「俺だと言いたくて、言えなくて。雇用主になって好き放題した挙げ句、半ば強引にあなたを自分のものにした。……それは反省してる」

 最初から感じていた強引さを思い出し、芳乃は思わず笑う。

「紳士的なのに押しが強いところ、昔から変わってないね」

 そう言うと彼は恥ずかしそうに笑い、思い出したようにトンと彼女の鎖骨の下辺りを指で打つ。

「芳乃だって、俺がプレゼントしたペンダントを今も着けていてくれた。……あれは、受け入れてくれていたと自惚れてもいい?」

「あっ……」

 言われて、芳乃は自分が〝悠人〟からもらったペンダントを大切に着けていたのを思い出した。

 勤務時にハイブランドジュエリーなど着けられないが、それ以外の時は肌身離さず着けていた。

 恥ずかしくて彼の顔を直視できず、けれど真実なのでコクンと頷く。

「……告白してもらえたの、本当に嬉しかったの。ペンダントは身の丈に合わない、立派すぎる物だなって思っていたけど、せっかくもらったなら大切に着け続けたいって思った。マンションに越してきた時に言われた通り、つらい時もあのペンダントに触れると勇気をもらえた気がしたの。……だから、こちらこそありがとう」

 涙を零したままいぎこちなく笑うと、暁人が嬉しそうに目を細める。

「今なら、俺の事を受け入れてくれる? 『愛してる、結婚してほしい』って言ったら、頷いてくれる?」

 熱い眼差しを受けてすぐに「はい」と頷きかけたが、ハッと思い出したのはグレースの存在だった。

 芳乃の表情が喜色に彩られたかと思うと、スッ……と悲しみに沈む。
 その変化を鋭敏に感じ、暁人は困ったように笑う。

「まだ何か問題がある? 何でも言って」

 悠然と告げる彼に、後ろめたいものがあると思えない。
 秘書の柊壱には、暁人から打ち明けるまで黙っていろと言われたが、思い切って話してみる事にした。

「グレースさんと結婚しているんじゃないの?」

「えっ?」

 今までの色っぽい、切ない表情から一転して、暁人は目をまん丸にした。

「何であいつと……。……あ、……あー……!」

 素の表情で呟いたあと、暁人は何かに思い当たったあと、嘆息混じりに声を上げた。
 思いきり顔をしかめたあと、彼は弱り切ったように尋ねてくる。

「もしかしてどこかで彼女に会った?」

「そ、その……」

 気になって尾行したと言えず、芳乃は口ごもる。

「まぁ、いいや。結婚してるか疑ってたっていう事は、多分一緒にいて指輪をしていたところとか、見たんだろ?」

 深く言及せず言われたので、それについては頷く。

「まず、誤解させてすまない。謝罪する」

 その一言で、不安に満たされていた胸がスッと軽くなった。

「グレースは昔からの知り合いで、五つ上だ。芳乃に家庭教師を受け持ってもらうまで、彼女に勉強を教えてもらっていたんだ。子供の頃から家同士付き合いがあって、あの時はグレースがアメリカの有名大学をスキップで卒業したあと、大好きな日本に来て事業を始めようとしていた時だった。準備期間だった事もあって、その合間に勉強を見てもらっていたんだ」

「そう……、なんですね」

 芳乃は驚きと安堵が混じった溜め息をつく。

「彼女は天才肌で、美人で魅力的だ。どこに行っても人を惹きつける女性だ。それゆえに、本人が望まないトラブルを起こす事もあった」

 段々、話が見えてきた。
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