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こんなの、好きに決まってるじゃないか!
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「その分幸せにするから」と言っても、彼女は遠くにある夢を見続けているだろう。
心が離れているのなら、無理矢理恋人にしてもうまくいかないに決まっている。
「思い出をありがとう」
まっすぐ、綺麗な笑みを向けられ、暁人は敗北を感じた。
自分の若く焦った恋心は、芳乃の夢を追う気持ちに完全に負けたのだ。
(それでも、拒絶はされていない)
心の奥底には、いまだ希望が光っている。
暁人はそれを胸の奥に大切にしまい、その日のデートを終えた。
**
暁人がT大の一年生になった年、芳乃とは同じキャンパスだからどこかで会えるかもしれないと思っていた期待は、見事に打ち砕かれた。
きちんと大学に通って四年時にはほぼ授業がない芳乃は、早々に内々定をもらい、あとはいずれ海外に向かうためにアルバイトに明け暮れていたようだ。
だから、暁人が期待していたようなキャンパスライフとはならなかった。
彼女が卒業したあとは、恐らく都内のホテルに勤めるのだろうなと思ったが、それを突き止めて彼女に迷惑を掛けるのはやめておいた。
やがて暁人自身も神楽坂グループに就職し、父と祖父に期待されて役員業に身を入れた。
そして今年、履歴書で彼女の名前と写真を見た時は、思わず三分ぐらい固まってしまったほどだ。
三峯芳乃という名前。
そしてナチュラルメイクをしているものの、その飾らない美しさは健在だった。
髪は纏めてあったが、黒いロングヘアは記憶よりも長くなっているのだろうか。
胸を高鳴らせて面接をし、八年ぶりに聞く彼女の声に気もそぞろだった。
以前にNYの高級ホテルで勤務していたと知り、彼女が夢を叶えた事に内心で拍手を送った。
しかし、せっかく栄誉あるホテルでフロントを務めていたのに、中途半端な勤務年数で帰国してきたのが気になった。
――と思えば、面接が終わったあとに苦しそうにしていて。
つい、スイートルームに連れ帰ってしまった。
事情を聞けば、随分と大変な目に遭っていたらしく、側にいる事ができたら……と悔しく思った。
彼女が抱えている借金ぐらい、暁人は簡単に返済できる。
だがそれに色をつけて彼女が自分を頼るようにし、見返りに〝大人の恋人ごっこ〟を求めてしまったのは、八年前の意趣返しでもある。
――もう、今ならあなたに本気でアプローチしてもいいでしょう?
――だって、あなたはいまだに俺が送ったペンダントをしている。
自分のマンションまで迎え入れた時、八年前に贈ったペンダントを彼女の首に見つけ、暁人は歓喜した。
――こんなの、好きに決まってるじゃないか!
思わず口走りかけたのをグッと堪え、きっとこれなら自分がヒョロヒョロで髪の長かった〝仁科悠人〟だと伝えても、彼女が受け入れてくれると信じた。
今の暁人は髪を清潔感のある長さに切り、食事も運動もきちんとして、同性からも羨まれるほどの体つきになった。
高校生当時とは生まれ変わったようで、フルネームも違うし芳乃は恐らく同一人物だと気付いていないだろう。
それでもいい。
〝今〟の自分として全力でアプローチし、芳乃に振り向いてもらえれば何の問題もないと思った。
だが――。
「結婚したい人がいる?」
眼鏡の奥で目を細めたのは、会長職にいる祖父だ。
「今まで見合いを断り続けていたのは仕事のためと思っていたが、好きな女性がいるだと?」
事実、暁人は社会人となってから祖父に何回もお見合いを勧められた。
いつか芳乃と必ず……と思っていた彼は、それに頷く訳にいかなかったのだ。
「高校生の時からずっと片思いをしていた女性です。今は〝エデンズ・ホテル東京〟でフロントをしてくれています。彼女は俺の事を覚えていませんが、今の俺に好意を寄せてくれていると信じています」
多少、借金など彼女が自分に気を遣う状況を作ってしまったのは事実だが、暁人は金を盾にして芳乃にどうこうしてもらうつもりは毛頭なかった。
心が離れているのなら、無理矢理恋人にしてもうまくいかないに決まっている。
「思い出をありがとう」
まっすぐ、綺麗な笑みを向けられ、暁人は敗北を感じた。
自分の若く焦った恋心は、芳乃の夢を追う気持ちに完全に負けたのだ。
(それでも、拒絶はされていない)
心の奥底には、いまだ希望が光っている。
暁人はそれを胸の奥に大切にしまい、その日のデートを終えた。
**
暁人がT大の一年生になった年、芳乃とは同じキャンパスだからどこかで会えるかもしれないと思っていた期待は、見事に打ち砕かれた。
きちんと大学に通って四年時にはほぼ授業がない芳乃は、早々に内々定をもらい、あとはいずれ海外に向かうためにアルバイトに明け暮れていたようだ。
だから、暁人が期待していたようなキャンパスライフとはならなかった。
彼女が卒業したあとは、恐らく都内のホテルに勤めるのだろうなと思ったが、それを突き止めて彼女に迷惑を掛けるのはやめておいた。
やがて暁人自身も神楽坂グループに就職し、父と祖父に期待されて役員業に身を入れた。
そして今年、履歴書で彼女の名前と写真を見た時は、思わず三分ぐらい固まってしまったほどだ。
三峯芳乃という名前。
そしてナチュラルメイクをしているものの、その飾らない美しさは健在だった。
髪は纏めてあったが、黒いロングヘアは記憶よりも長くなっているのだろうか。
胸を高鳴らせて面接をし、八年ぶりに聞く彼女の声に気もそぞろだった。
以前にNYの高級ホテルで勤務していたと知り、彼女が夢を叶えた事に内心で拍手を送った。
しかし、せっかく栄誉あるホテルでフロントを務めていたのに、中途半端な勤務年数で帰国してきたのが気になった。
――と思えば、面接が終わったあとに苦しそうにしていて。
つい、スイートルームに連れ帰ってしまった。
事情を聞けば、随分と大変な目に遭っていたらしく、側にいる事ができたら……と悔しく思った。
彼女が抱えている借金ぐらい、暁人は簡単に返済できる。
だがそれに色をつけて彼女が自分を頼るようにし、見返りに〝大人の恋人ごっこ〟を求めてしまったのは、八年前の意趣返しでもある。
――もう、今ならあなたに本気でアプローチしてもいいでしょう?
――だって、あなたはいまだに俺が送ったペンダントをしている。
自分のマンションまで迎え入れた時、八年前に贈ったペンダントを彼女の首に見つけ、暁人は歓喜した。
――こんなの、好きに決まってるじゃないか!
思わず口走りかけたのをグッと堪え、きっとこれなら自分がヒョロヒョロで髪の長かった〝仁科悠人〟だと伝えても、彼女が受け入れてくれると信じた。
今の暁人は髪を清潔感のある長さに切り、食事も運動もきちんとして、同性からも羨まれるほどの体つきになった。
高校生当時とは生まれ変わったようで、フルネームも違うし芳乃は恐らく同一人物だと気付いていないだろう。
それでもいい。
〝今〟の自分として全力でアプローチし、芳乃に振り向いてもらえれば何の問題もないと思った。
だが――。
「結婚したい人がいる?」
眼鏡の奥で目を細めたのは、会長職にいる祖父だ。
「今まで見合いを断り続けていたのは仕事のためと思っていたが、好きな女性がいるだと?」
事実、暁人は社会人となってから祖父に何回もお見合いを勧められた。
いつか芳乃と必ず……と思っていた彼は、それに頷く訳にいかなかったのだ。
「高校生の時からずっと片思いをしていた女性です。今は〝エデンズ・ホテル東京〟でフロントをしてくれています。彼女は俺の事を覚えていませんが、今の俺に好意を寄せてくれていると信じています」
多少、借金など彼女が自分に気を遣う状況を作ってしまったのは事実だが、暁人は金を盾にして芳乃にどうこうしてもらうつもりは毛頭なかった。
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