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もう一度告白しても大丈夫?
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人はとっさの時に一番素が出やすいというのが、暁人の持論だ。
とても大人びた言動、振る舞いをしている生徒だって、暁人の話題が一気に広まった時、彼を避けた。
少なくとも、芳乃は神楽坂グループの失態について否定的に捕らえていない。
どんなものに対しても、「被害を受けた人だけに怒る権利がある」という態度を貫いている。
それを暁人は「信用できる」と思ったのだ。
だから芳乃の事を一生信頼し、パートナーになり得る人と捉え、結婚したいとすら思っていた。
自分の恋は間違えていない。
そう思うからこそ、暁人は必死になって彼女を口説き落とそうとしていた。
「……私ね、いずれ日本の外に出たいの」
だがそう言われ、暁人は静かに瞠目した。
「自分が目指す、最高のホテリエになりたい。日本流のおもてなしも学びたいし、世界レベルの人が止まるようなホテルでも勤務してみたい。……今は自分の夢を追いかけるので精一杯で、正直、恋愛とか結婚とか考えられていないんだ」
彼女の言葉は本音だとすぐに分かった。
ここ半年近く芳乃と毎日のように顔をつきあわせていて、彼女の人となりをある程度知ったつもりだ。
彼氏について質問した事は何度もあるが、特に何かを隠す素振りも見せなかったし、誰かを思い出すような様子もない。
本当に今は、夢を叶えるために下準備を進めているのだと分かった。
だから、男として見られない、自分に魅力がないという理由でふられたのではなく、安心した。
「じゃあ、いつか芳乃さんが自分の満足いくキャリアを歩んで落ち着いた頃、もう一度告白しても大丈夫?」
まだ諦めない暁人に、芳乃は笑顔を見せた。
「いつになるか分からないよ? その頃には、悠人くんなら他に素敵な彼女を作っていそう」
「それは、あり得ない」
暁人はハッキリと否定する。
「あなたじゃないと嫌だ。だから、いつまでも待つ」
若い情熱を前に、芳乃はまた困ったように笑ってから、「ありがとう」と礼を言った。
少なくとも、好きでい続ける事は拒絶されなかった。
それだけで、暁人は天にも昇る気持ちになる。
「俺はふられた訳じゃないし、今贈った物を突っ返されない……、と考えていいね?」
そう言うと、芳乃は苦笑いして「確かに」と同意する。
「でもこんな、高価な物……」
プレゼントを二つ用意したのは、やり過ぎだと自覚していても、後悔はしていない。
花だけなら、いずれ枯れて芳乃的には気が楽だろう。
けれど暁人としては、残る物、それも身につける物を贈りたかった。
そして自分は嫌われてもいないという自覚もあった。
それなら、うまく事を運べばペンダントを受け取ってもらえると読んでいたのだ。
「買ってしまった以上、返品するのも格好悪いし、受け取ってほしい。俺が持っていてもつけないし、他の女性にプレゼントするのは失礼だ」
「確かに……」
頷いた芳乃は少し迷ってから、顔を上げ微笑んだ。
「じゃあ、受け取らせてもらいます。ありがとう」
潔く決めた彼女の事も、好きで堪らない。
高価な物を前に「悪いから」と引き下がられるよりも、にっこり笑い、「ありがとう」と受け取ってくれる女性の方が好感度が高い。
芳乃は水を一口飲んだあと、ようやくスプーンを手に取って溶けかかったアイスクリームをすくった。
「ん、おいし」
微笑んで、彼女はまるごとの桃を使ったコンポートも食べていく。
「私ね、今まであんまりお付き合いしたって言える人がいなかったの」
急に彼女が自分の事を話し出し、暁人は新鮮な気持ちになって頷く。
「高校生までに手を繋ぐ程度の関係の彼氏はいたし、合コンしてデートしてみた人もいる。けどやっぱり、浮ついた時間を過ごしているより、自分はやりたい事があるって思って色恋に専念できなかった」
飾りのパイで溶けたアイスをすくい、ペロッとデザートを食べ終えた彼女は、コーヒーを飲んで笑う。
「でも、何にもないのはやっぱり寂しいな、なんて自分勝手な事も考えてた。『夢があるから恋人はいい』なんて言い切ったら、強がりになっちゃう。本当は私も、楽しくデートしたり、本当に愛し愛されて……っていう関係になるのに憧れていた」
なら……、と言いかけたが、彼女の答えはもう聞いたあとだ。
「だから、こうやって悠人くんが想いを伝えてくれて、本当に嬉しい。私は二つの事を一気にできるほど、器用じゃない。あなたと付き合って夢も追いかけて……ってしたら、絶対どちらかがおろそかになって後悔する」
「分かります」
彼女の人生は、彼女のものだ。
自分のせいで芳乃が後悔する姿を見たくない。
とても大人びた言動、振る舞いをしている生徒だって、暁人の話題が一気に広まった時、彼を避けた。
少なくとも、芳乃は神楽坂グループの失態について否定的に捕らえていない。
どんなものに対しても、「被害を受けた人だけに怒る権利がある」という態度を貫いている。
それを暁人は「信用できる」と思ったのだ。
だから芳乃の事を一生信頼し、パートナーになり得る人と捉え、結婚したいとすら思っていた。
自分の恋は間違えていない。
そう思うからこそ、暁人は必死になって彼女を口説き落とそうとしていた。
「……私ね、いずれ日本の外に出たいの」
だがそう言われ、暁人は静かに瞠目した。
「自分が目指す、最高のホテリエになりたい。日本流のおもてなしも学びたいし、世界レベルの人が止まるようなホテルでも勤務してみたい。……今は自分の夢を追いかけるので精一杯で、正直、恋愛とか結婚とか考えられていないんだ」
彼女の言葉は本音だとすぐに分かった。
ここ半年近く芳乃と毎日のように顔をつきあわせていて、彼女の人となりをある程度知ったつもりだ。
彼氏について質問した事は何度もあるが、特に何かを隠す素振りも見せなかったし、誰かを思い出すような様子もない。
本当に今は、夢を叶えるために下準備を進めているのだと分かった。
だから、男として見られない、自分に魅力がないという理由でふられたのではなく、安心した。
「じゃあ、いつか芳乃さんが自分の満足いくキャリアを歩んで落ち着いた頃、もう一度告白しても大丈夫?」
まだ諦めない暁人に、芳乃は笑顔を見せた。
「いつになるか分からないよ? その頃には、悠人くんなら他に素敵な彼女を作っていそう」
「それは、あり得ない」
暁人はハッキリと否定する。
「あなたじゃないと嫌だ。だから、いつまでも待つ」
若い情熱を前に、芳乃はまた困ったように笑ってから、「ありがとう」と礼を言った。
少なくとも、好きでい続ける事は拒絶されなかった。
それだけで、暁人は天にも昇る気持ちになる。
「俺はふられた訳じゃないし、今贈った物を突っ返されない……、と考えていいね?」
そう言うと、芳乃は苦笑いして「確かに」と同意する。
「でもこんな、高価な物……」
プレゼントを二つ用意したのは、やり過ぎだと自覚していても、後悔はしていない。
花だけなら、いずれ枯れて芳乃的には気が楽だろう。
けれど暁人としては、残る物、それも身につける物を贈りたかった。
そして自分は嫌われてもいないという自覚もあった。
それなら、うまく事を運べばペンダントを受け取ってもらえると読んでいたのだ。
「買ってしまった以上、返品するのも格好悪いし、受け取ってほしい。俺が持っていてもつけないし、他の女性にプレゼントするのは失礼だ」
「確かに……」
頷いた芳乃は少し迷ってから、顔を上げ微笑んだ。
「じゃあ、受け取らせてもらいます。ありがとう」
潔く決めた彼女の事も、好きで堪らない。
高価な物を前に「悪いから」と引き下がられるよりも、にっこり笑い、「ありがとう」と受け取ってくれる女性の方が好感度が高い。
芳乃は水を一口飲んだあと、ようやくスプーンを手に取って溶けかかったアイスクリームをすくった。
「ん、おいし」
微笑んで、彼女はまるごとの桃を使ったコンポートも食べていく。
「私ね、今まであんまりお付き合いしたって言える人がいなかったの」
急に彼女が自分の事を話し出し、暁人は新鮮な気持ちになって頷く。
「高校生までに手を繋ぐ程度の関係の彼氏はいたし、合コンしてデートしてみた人もいる。けどやっぱり、浮ついた時間を過ごしているより、自分はやりたい事があるって思って色恋に専念できなかった」
飾りのパイで溶けたアイスをすくい、ペロッとデザートを食べ終えた彼女は、コーヒーを飲んで笑う。
「でも、何にもないのはやっぱり寂しいな、なんて自分勝手な事も考えてた。『夢があるから恋人はいい』なんて言い切ったら、強がりになっちゃう。本当は私も、楽しくデートしたり、本当に愛し愛されて……っていう関係になるのに憧れていた」
なら……、と言いかけたが、彼女の答えはもう聞いたあとだ。
「だから、こうやって悠人くんが想いを伝えてくれて、本当に嬉しい。私は二つの事を一気にできるほど、器用じゃない。あなたと付き合って夢も追いかけて……ってしたら、絶対どちらかがおろそかになって後悔する」
「分かります」
彼女の人生は、彼女のものだ。
自分のせいで芳乃が後悔する姿を見たくない。
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