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告白
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自分の方が年上なのに、という思いもあるのだろう。
けれど暁人からすれば、いずれ成長して二人とも大人になれば三歳の年齢差など気にならなくなると思っている。
今はまだ自分が高校生だから、余計に子供っぽく見られているだけだ。
加えて暁人自身も投資などそこそこの資金力があり、金持ちの家の子供だからと言って、親の金を使っている訳ではない。
どこまで本当の事を言うべきか考えながら、暁人は芳乃と一緒に東京駅から直結しているホテル内にある、カフェに向かった。
芳乃はおっかなびっくりという様子で、窓際の席に座る。
窓の外には美しい夜景が広がっていて、フレンチレストランやバーも兼ねている店内は大人っぽく洗練されている。
夕食はテーマパークで取っていたので、デザートとコーヒーのみを頼んだ。
「……どうしたの? ここまでしなくても……。そもそも、今日は健人くんの合格発表なんだよ? 私が何かするならともかく、こんなお店まで……」
芳乃は困った顔をして、やや声を潜めて言う。
「金銭的に無理はしてないよ」
暁人はいつものようにパーカーは被っていないが、いまだ髪の毛は長めのままだ。
細身のパンツにグレーのシャツ、ジャケットを着てデートに臨んだが、ガラスに映った自分はヒョロッとしていて頼りなく、子供っぽさが目立つ。
それが余計に暁人に焦りを生ませた。
周りにいる社会人のカップルの男性は、きちんとスーツを着て体の肉付きもしっかりしている。
鍛えていると言うほどでもない、普通体型の男性でも、暁人ほど痩せていなかった。
じりじりとこみ上げる羞恥と悔しさを感じながら、暁人はその時を待った。
「お待たせ致しました、仁科様」
ギャルソンがやってきて、芳乃に赤いバラの花束を渡した。
「え……っ」
芳乃は心底驚いて、あたふたとしている。
さらに、暁人はバッグから取り出したジュエリーの箱をテーブルの上に置いた。
ミントグリーンの箱は、世界的に有名なハイジュエリーブランドの物だ。
「プレゼント」
「えっ!? えぇっ!?」
今度こそ本当に芳乃は狼狽しきり、震える手でジュエリーボックスを開いた。
そしてローズゴールドのチェーンについた、妖精の羽のようなデザインの、ダイヤモンドのペンダントを目を丸くして見る。
「これ……」
彼女は困り果てた顔をして、暁人を見てくる。
「俺と付き合ってください」
混乱したところで畳みかけるのは卑怯だと分かっていても、暁人は告白するのをためらわなかった。
六十万円近くするペンダントを、突然高校生が贈るのはやり過ぎだと自覚している。
しかし、それだけ彼は本気だった。
学校で人付き合いがうまくいっていない分、不器用な彼は家族と友達以外への愛情を、すべて芳乃に叩きつけていた。
「…………っ、本気、なんだ。芳乃さんが好きだ」
声を震わせて再度告白する暁人を見て、芳乃は泣きそうな顔で眉を寄せる。
しばらく彼女は沈黙し、出されたデザートにも手をつけず、黙ってペンダントを見ていた。
そしてゆっくり息を吸って吐き、素直な返事をした。
「私、悠人くんをそう見ていなかった」
――だろうな。
心の中で、冷静な自分が頷く。
けれど、まだ希望を持てるのならそこに食らいつきたかった。
「これから三年後、五年後も恋愛対象に見られない? 俺は今高校生だけど、数年経てば社会人になってる。そうなれば、今ほど年齢の差は気にならないと思うんだ」
暁人は必死に食い下がり、少しでも芳乃をその気にさせようとする。
「確かに、今は生徒だし高校生だし、余計に年下に感じているんだと思う。悠人くんが二十五歳にもなれば、もっと素敵な男性になっていると思う」
そこはきちんと理解してくれていて、暁人は安堵した。
「今、家庭教師をしている私は、〝私〟という人間の一部に過ぎないの。生徒さんだし、悠人くんの前では物分かりのいいお姉さんみたいに振る舞ってる。でも本当の私を知れば、幻滅する事だってあるかもしれない」
「そんな事はない」
暁人はきっぱりと否定する。
けれど暁人からすれば、いずれ成長して二人とも大人になれば三歳の年齢差など気にならなくなると思っている。
今はまだ自分が高校生だから、余計に子供っぽく見られているだけだ。
加えて暁人自身も投資などそこそこの資金力があり、金持ちの家の子供だからと言って、親の金を使っている訳ではない。
どこまで本当の事を言うべきか考えながら、暁人は芳乃と一緒に東京駅から直結しているホテル内にある、カフェに向かった。
芳乃はおっかなびっくりという様子で、窓際の席に座る。
窓の外には美しい夜景が広がっていて、フレンチレストランやバーも兼ねている店内は大人っぽく洗練されている。
夕食はテーマパークで取っていたので、デザートとコーヒーのみを頼んだ。
「……どうしたの? ここまでしなくても……。そもそも、今日は健人くんの合格発表なんだよ? 私が何かするならともかく、こんなお店まで……」
芳乃は困った顔をして、やや声を潜めて言う。
「金銭的に無理はしてないよ」
暁人はいつものようにパーカーは被っていないが、いまだ髪の毛は長めのままだ。
細身のパンツにグレーのシャツ、ジャケットを着てデートに臨んだが、ガラスに映った自分はヒョロッとしていて頼りなく、子供っぽさが目立つ。
それが余計に暁人に焦りを生ませた。
周りにいる社会人のカップルの男性は、きちんとスーツを着て体の肉付きもしっかりしている。
鍛えていると言うほどでもない、普通体型の男性でも、暁人ほど痩せていなかった。
じりじりとこみ上げる羞恥と悔しさを感じながら、暁人はその時を待った。
「お待たせ致しました、仁科様」
ギャルソンがやってきて、芳乃に赤いバラの花束を渡した。
「え……っ」
芳乃は心底驚いて、あたふたとしている。
さらに、暁人はバッグから取り出したジュエリーの箱をテーブルの上に置いた。
ミントグリーンの箱は、世界的に有名なハイジュエリーブランドの物だ。
「プレゼント」
「えっ!? えぇっ!?」
今度こそ本当に芳乃は狼狽しきり、震える手でジュエリーボックスを開いた。
そしてローズゴールドのチェーンについた、妖精の羽のようなデザインの、ダイヤモンドのペンダントを目を丸くして見る。
「これ……」
彼女は困り果てた顔をして、暁人を見てくる。
「俺と付き合ってください」
混乱したところで畳みかけるのは卑怯だと分かっていても、暁人は告白するのをためらわなかった。
六十万円近くするペンダントを、突然高校生が贈るのはやり過ぎだと自覚している。
しかし、それだけ彼は本気だった。
学校で人付き合いがうまくいっていない分、不器用な彼は家族と友達以外への愛情を、すべて芳乃に叩きつけていた。
「…………っ、本気、なんだ。芳乃さんが好きだ」
声を震わせて再度告白する暁人を見て、芳乃は泣きそうな顔で眉を寄せる。
しばらく彼女は沈黙し、出されたデザートにも手をつけず、黙ってペンダントを見ていた。
そしてゆっくり息を吸って吐き、素直な返事をした。
「私、悠人くんをそう見ていなかった」
――だろうな。
心の中で、冷静な自分が頷く。
けれど、まだ希望を持てるのならそこに食らいつきたかった。
「これから三年後、五年後も恋愛対象に見られない? 俺は今高校生だけど、数年経てば社会人になってる。そうなれば、今ほど年齢の差は気にならないと思うんだ」
暁人は必死に食い下がり、少しでも芳乃をその気にさせようとする。
「確かに、今は生徒だし高校生だし、余計に年下に感じているんだと思う。悠人くんが二十五歳にもなれば、もっと素敵な男性になっていると思う」
そこはきちんと理解してくれていて、暁人は安堵した。
「今、家庭教師をしている私は、〝私〟という人間の一部に過ぎないの。生徒さんだし、悠人くんの前では物分かりのいいお姉さんみたいに振る舞ってる。でも本当の私を知れば、幻滅する事だってあるかもしれない」
「そんな事はない」
暁人はきっぱりと否定する。
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