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嫌いにもならせてくれない
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その言葉を聞き、暁人の手が緩んだ。
表情も虚を突かれたものになり、あれだけ険しかった目もまん丸になっている。
(よし、この手でいこう)
暁人の事が好きなのは本当なのだが、本音を交えれば真実味のある理由になる。
「じゃあ、好きになって」
「えっ?」
まさかそう言われると思わず、芳乃は声を上げ彼を見た。
(……なんて顔をしてるの……)
暁人は微かに顔を紅潮させ、心底嬉しそうに笑っていた。
まるで、長年思っていた人に思い返されたという顔だ。
呆気にとられる芳乃に、暁人は顔を傾けキスをしてくる。
「ん……っ、ん、だ、だから……っ」
ハッとして彼の肩を押し返すが、再びギューッと抱きしめられてしまった。
「嬉しい……」
心の底から……という声で言われ、訳が分からない。
(だって、奥さんがいるんでしょう?)
言いたいのに言えないこの状況がもどかしい。
「芳乃、俺を好きになってくれ。後悔させないから」
彼の言葉を聞き、泣きたくなってしまう。
「……どうして……」
代わりに彼に聞かせても差し支えのない言葉が漏れたが、暁人はそれすらも自分の都合のいいように解釈したようだった。
「俺も、君の事が好きだから。それ以外の答えはない」
決して言ってはいけない言葉を口にし、暁人が笑う。
芳乃はもう、彼が何を考えているのか分からなかった。
「……お願いですから、……もう、そういうのはやめたいんです」
懇願しても、彼女がそう言っている理由は〝自分の事を好きだから〟と思っている暁人は、引く気配を見せない。
「俺の事を好きになって構わない。この家を出て行く必要もない」
熱っぽい目で訴えるように言い、暁人は床に座り込んでいる芳乃の背中と膝の裏に手を回すと、グイッと抱き上げてきた。
「あ……っ、暁人さん!?」
狼狽した芳乃に構わず、彼は廊下を進み自分のベッドルームに向かう。
落ち着いた色調で統一された部屋に入り、芳乃は大きなベッドに横たえられた。
「あの……」
彼に「駄目だ」と訴えようとするが、暁人はTシャツを脱ぎ鍛えられた体を惜しげもなく晒してくる。
そして無造作にTシャツを放り投げ、ベッドに片膝を乗り上げてきた。
「君を抱きたい」
あまりにストレートな言葉で告げ、暁人は芳乃の体の両側に手をついた。
「……君が好きなんだ」
心の奥底まで射貫くような目で見つめられ、呼吸すら止まったかのような心地に陥る。
「……芳乃」
彼はベッドの上に広がった芳乃の髪を手に取り、その毛先に口づけた。
「君だけを見てる。……だから、抱かせて」
囁く声は、真摯な思いに溢れている。
目の前の暁人を見て、嘘をついているとは到底思えなかった。
――ずるい。
彼の事を好きで堪らない想いが、次から次に溢れて止まらなくなる。
――嫌いにもならせてくれない。
自分の愛をひたすらに乞う彼を見て、心の奥底からこみ上げたのは諦念だ。
あれだけ相手のいる男性を愛してはいけないと自分に言い聞かせ、過去には大きく傷ついたのに、彼の愛を受け入れたいと思ってしまう。
(最後にもう一度だけ思い出を作って……。それでこの家を出よう)
意志の弱い自分に苦笑いをし、芳乃は腕を伸ばすと彼を抱きしめた。
「……一回だけですよ」
最後に一回だけ。
「大切に抱く」
その〝一回〟を、暁人は別の意味で捉えているだろう。
それでもいい。
あとから彼に怒られようが、なるようになる。
単身渡米してここまでやってこられた。今は帰国して言葉が通じ、日本人の気質もよく分かっている。
職はあるし、仮に解雇されてしまったとしても、何とか働いて金を返していくつもりだ。
タンクトップの裾から暁人の手が入り、彼女の素肌を滑った。
下着をつけていない上半身がすぐに晒され、ホットパンツもスルリと脱がされる。
「芳乃……、好きだ」
愛しげに呟き、暁人が唇を重ねてきた。
表情も虚を突かれたものになり、あれだけ険しかった目もまん丸になっている。
(よし、この手でいこう)
暁人の事が好きなのは本当なのだが、本音を交えれば真実味のある理由になる。
「じゃあ、好きになって」
「えっ?」
まさかそう言われると思わず、芳乃は声を上げ彼を見た。
(……なんて顔をしてるの……)
暁人は微かに顔を紅潮させ、心底嬉しそうに笑っていた。
まるで、長年思っていた人に思い返されたという顔だ。
呆気にとられる芳乃に、暁人は顔を傾けキスをしてくる。
「ん……っ、ん、だ、だから……っ」
ハッとして彼の肩を押し返すが、再びギューッと抱きしめられてしまった。
「嬉しい……」
心の底から……という声で言われ、訳が分からない。
(だって、奥さんがいるんでしょう?)
言いたいのに言えないこの状況がもどかしい。
「芳乃、俺を好きになってくれ。後悔させないから」
彼の言葉を聞き、泣きたくなってしまう。
「……どうして……」
代わりに彼に聞かせても差し支えのない言葉が漏れたが、暁人はそれすらも自分の都合のいいように解釈したようだった。
「俺も、君の事が好きだから。それ以外の答えはない」
決して言ってはいけない言葉を口にし、暁人が笑う。
芳乃はもう、彼が何を考えているのか分からなかった。
「……お願いですから、……もう、そういうのはやめたいんです」
懇願しても、彼女がそう言っている理由は〝自分の事を好きだから〟と思っている暁人は、引く気配を見せない。
「俺の事を好きになって構わない。この家を出て行く必要もない」
熱っぽい目で訴えるように言い、暁人は床に座り込んでいる芳乃の背中と膝の裏に手を回すと、グイッと抱き上げてきた。
「あ……っ、暁人さん!?」
狼狽した芳乃に構わず、彼は廊下を進み自分のベッドルームに向かう。
落ち着いた色調で統一された部屋に入り、芳乃は大きなベッドに横たえられた。
「あの……」
彼に「駄目だ」と訴えようとするが、暁人はTシャツを脱ぎ鍛えられた体を惜しげもなく晒してくる。
そして無造作にTシャツを放り投げ、ベッドに片膝を乗り上げてきた。
「君を抱きたい」
あまりにストレートな言葉で告げ、暁人は芳乃の体の両側に手をついた。
「……君が好きなんだ」
心の奥底まで射貫くような目で見つめられ、呼吸すら止まったかのような心地に陥る。
「……芳乃」
彼はベッドの上に広がった芳乃の髪を手に取り、その毛先に口づけた。
「君だけを見てる。……だから、抱かせて」
囁く声は、真摯な思いに溢れている。
目の前の暁人を見て、嘘をついているとは到底思えなかった。
――ずるい。
彼の事を好きで堪らない想いが、次から次に溢れて止まらなくなる。
――嫌いにもならせてくれない。
自分の愛をひたすらに乞う彼を見て、心の奥底からこみ上げたのは諦念だ。
あれだけ相手のいる男性を愛してはいけないと自分に言い聞かせ、過去には大きく傷ついたのに、彼の愛を受け入れたいと思ってしまう。
(最後にもう一度だけ思い出を作って……。それでこの家を出よう)
意志の弱い自分に苦笑いをし、芳乃は腕を伸ばすと彼を抱きしめた。
「……一回だけですよ」
最後に一回だけ。
「大切に抱く」
その〝一回〟を、暁人は別の意味で捉えているだろう。
それでもいい。
あとから彼に怒られようが、なるようになる。
単身渡米してここまでやってこられた。今は帰国して言葉が通じ、日本人の気質もよく分かっている。
職はあるし、仮に解雇されてしまったとしても、何とか働いて金を返していくつもりだ。
タンクトップの裾から暁人の手が入り、彼女の素肌を滑った。
下着をつけていない上半身がすぐに晒され、ホットパンツもスルリと脱がされる。
「芳乃……、好きだ」
愛しげに呟き、暁人が唇を重ねてきた。
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