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バカみたい
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「…………」
呆然とした芳乃は、どうしたらいいか分からず立ち尽くす。
やがて二人がバーに入ったあと、芳乃は必死になってスマホでそのバーの名前を検索する。
有名な口コミサイトの写真を見て、内装を確認するとカウンター席ばかりのようだ。
(私がお店に入ったら高確率でバレちゃう……)
そこまでする自分をみっともないと思う気持ちすら、今は自覚できていなかった。
ただ暁人の事が気になって仕方なく、彼と女性がどういう関係なのか、あの指輪は本当に二人の結婚指輪なのか確認したかった。
十分ほど店の前で迷ったあと、芳乃は最近日差しが強くなってきたので、移動時に掛けていたサングラスをつける。
(怪しい……けど……)
服装を確認すると、キャップスリーブの黒いトップスにスキニー。靴はスニーカーだが、それはご愛敬だ。
纏めていた髪を下ろし、多少癖がついているそれを手で整える。
(大丈夫……かな)
隣のビルのガラスで自分の格好を確認したあと、芳乃は思い切ってバーの中に足を踏み入れた。
「いらっっしゃいませ」
落ち着いた様子の店内に入ると、女性スタッフが迎えてくれた。
「お一人様ですか?」
「はい」
なるべく小さな声で返事をし、チラッと店内を見ると、二人はカウンターの一番広い辺に並んで座っていた。
二人は特にこちらに気づいた様子はなく、静かに話をしている。
芳乃も同じ並びのスツールに腰掛け、目に入ったおすすめの、旬のフルーツを使ったメロンのカクテルを頼んだ。
勢いで入ったので、単価が高くて驚いたというのはあとの問題にする。
芳乃のあとに外国人の男性が入店し、スタッフが案内するまもなく、自分で芳乃の隣に座った。
(強引な人だな)
そう思うものの、いま注目しているのは関係ない彼ではない。
暁人たちには、同じ方向を向いている上、間に人を一人挟んでいるので顔を見られる心配はなく安心した。
(ある程度話を聞いて二人の関係性を確認したあと、先にこっそりお店を出よう)
カウンターの中にいるバーテンダーは、夜だというのにサングラスを掛けたままの芳乃に何も言わず、さすがだ。
芳乃はチャージとして出された、フレンチの前菜のようなおしゃれなゼリー寄せを口にする。
耳をそばだてていると、聞こえてくるのは確かに暁人の声だ。
二人は英語で話をしていたが、芳乃はNYでホテルのフロントをしていたので、リスニングは問題ない。
《その後、変わりはなかったか?》
それまでの会話に一区切りついたあと、暁人が女性に尋ねる。
《相変わらずね。仕事ばかりで、あなたに会えなくて寂しかったわ》
二人の関係を表すには十分すぎる言葉を聞き、芳乃は唇を引き結ぶ。
目の前に優しいグリーン色のカクテルを置かれたが、「ありがとうございます」も言えずに、おざなりに会釈をしただけだ。
一口飲むと、メロンの香りと甘さ、そして割と強めのアルコールが口腔に広がる。
美味しい。――のに、素直に味わえない。
《本当に、会いたくて堪らなかった。今は忙しいけれど、いつか同じ家に住みましょうね》
《ああ。待ち遠しい》
目が潤んでしまい、人生でこれほど英語が分からなければ良かったのに、と思ったのは初めてだ。
泣きそうになっている芳乃の隣で、外国人の男性がカウンターをトントンと指で打っている。
店内BGMのムードのある曲に合わせているにしては、リズムが早いなと、ショックを受けている頭の隅で感じた。
やがて芳乃は自分がしでかした行動の愚かさに気づき、溜め息をつく。
(……もう、これ以上聞く必要はない。二人の関係は分かった。二人とも仕事が忙しくて別居していて、こうしてたまに会っている。二人の関係は良好で、暁人さんに恋人はいない。何もかも、そのままじゃない)
理解したとたん、自分が如何に彼に期待していたかを知り、苦笑した。
(……バカみたい)
呆然とした芳乃は、どうしたらいいか分からず立ち尽くす。
やがて二人がバーに入ったあと、芳乃は必死になってスマホでそのバーの名前を検索する。
有名な口コミサイトの写真を見て、内装を確認するとカウンター席ばかりのようだ。
(私がお店に入ったら高確率でバレちゃう……)
そこまでする自分をみっともないと思う気持ちすら、今は自覚できていなかった。
ただ暁人の事が気になって仕方なく、彼と女性がどういう関係なのか、あの指輪は本当に二人の結婚指輪なのか確認したかった。
十分ほど店の前で迷ったあと、芳乃は最近日差しが強くなってきたので、移動時に掛けていたサングラスをつける。
(怪しい……けど……)
服装を確認すると、キャップスリーブの黒いトップスにスキニー。靴はスニーカーだが、それはご愛敬だ。
纏めていた髪を下ろし、多少癖がついているそれを手で整える。
(大丈夫……かな)
隣のビルのガラスで自分の格好を確認したあと、芳乃は思い切ってバーの中に足を踏み入れた。
「いらっっしゃいませ」
落ち着いた様子の店内に入ると、女性スタッフが迎えてくれた。
「お一人様ですか?」
「はい」
なるべく小さな声で返事をし、チラッと店内を見ると、二人はカウンターの一番広い辺に並んで座っていた。
二人は特にこちらに気づいた様子はなく、静かに話をしている。
芳乃も同じ並びのスツールに腰掛け、目に入ったおすすめの、旬のフルーツを使ったメロンのカクテルを頼んだ。
勢いで入ったので、単価が高くて驚いたというのはあとの問題にする。
芳乃のあとに外国人の男性が入店し、スタッフが案内するまもなく、自分で芳乃の隣に座った。
(強引な人だな)
そう思うものの、いま注目しているのは関係ない彼ではない。
暁人たちには、同じ方向を向いている上、間に人を一人挟んでいるので顔を見られる心配はなく安心した。
(ある程度話を聞いて二人の関係性を確認したあと、先にこっそりお店を出よう)
カウンターの中にいるバーテンダーは、夜だというのにサングラスを掛けたままの芳乃に何も言わず、さすがだ。
芳乃はチャージとして出された、フレンチの前菜のようなおしゃれなゼリー寄せを口にする。
耳をそばだてていると、聞こえてくるのは確かに暁人の声だ。
二人は英語で話をしていたが、芳乃はNYでホテルのフロントをしていたので、リスニングは問題ない。
《その後、変わりはなかったか?》
それまでの会話に一区切りついたあと、暁人が女性に尋ねる。
《相変わらずね。仕事ばかりで、あなたに会えなくて寂しかったわ》
二人の関係を表すには十分すぎる言葉を聞き、芳乃は唇を引き結ぶ。
目の前に優しいグリーン色のカクテルを置かれたが、「ありがとうございます」も言えずに、おざなりに会釈をしただけだ。
一口飲むと、メロンの香りと甘さ、そして割と強めのアルコールが口腔に広がる。
美味しい。――のに、素直に味わえない。
《本当に、会いたくて堪らなかった。今は忙しいけれど、いつか同じ家に住みましょうね》
《ああ。待ち遠しい》
目が潤んでしまい、人生でこれほど英語が分からなければ良かったのに、と思ったのは初めてだ。
泣きそうになっている芳乃の隣で、外国人の男性がカウンターをトントンと指で打っている。
店内BGMのムードのある曲に合わせているにしては、リズムが早いなと、ショックを受けている頭の隅で感じた。
やがて芳乃は自分がしでかした行動の愚かさに気づき、溜め息をつく。
(……もう、これ以上聞く必要はない。二人の関係は分かった。二人とも仕事が忙しくて別居していて、こうしてたまに会っている。二人の関係は良好で、暁人さんに恋人はいない。何もかも、そのままじゃない)
理解したとたん、自分が如何に彼に期待していたかを知り、苦笑した。
(……バカみたい)
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