【R-18】八年執着されましたが、幸せです

臣桜

文字の大きさ
上 下
27 / 63

バカみたい

しおりを挟む
「…………」

 呆然とした芳乃は、どうしたらいいか分からず立ち尽くす。

 やがて二人がバーに入ったあと、芳乃は必死になってスマホでそのバーの名前を検索する。
 有名な口コミサイトの写真を見て、内装を確認するとカウンター席ばかりのようだ。

(私がお店に入ったら高確率でバレちゃう……)

 そこまでする自分をみっともないと思う気持ちすら、今は自覚できていなかった。

 ただ暁人の事が気になって仕方なく、彼と女性がどういう関係なのか、あの指輪は本当に二人の結婚指輪なのか確認したかった。

 十分ほど店の前で迷ったあと、芳乃は最近日差しが強くなってきたので、移動時に掛けていたサングラスをつける。

(怪しい……けど……)

 服装を確認すると、キャップスリーブの黒いトップスにスキニー。靴はスニーカーだが、それはご愛敬だ。
 纏めていた髪を下ろし、多少癖がついているそれを手で整える。

(大丈夫……かな)

 隣のビルのガラスで自分の格好を確認したあと、芳乃は思い切ってバーの中に足を踏み入れた。





「いらっっしゃいませ」

 落ち着いた様子の店内に入ると、女性スタッフが迎えてくれた。

「お一人様ですか?」

「はい」

 なるべく小さな声で返事をし、チラッと店内を見ると、二人はカウンターの一番広い辺に並んで座っていた。

 二人は特にこちらに気づいた様子はなく、静かに話をしている。

 芳乃も同じ並びのスツールに腰掛け、目に入ったおすすめの、旬のフルーツを使ったメロンのカクテルを頼んだ。
 勢いで入ったので、単価が高くて驚いたというのはあとの問題にする。

 芳乃のあとに外国人の男性が入店し、スタッフが案内するまもなく、自分で芳乃の隣に座った。

(強引な人だな)

 そう思うものの、いま注目しているのは関係ない彼ではない。

 暁人たちには、同じ方向を向いている上、間に人を一人挟んでいるので顔を見られる心配はなく安心した。

(ある程度話を聞いて二人の関係性を確認したあと、先にこっそりお店を出よう)

 カウンターの中にいるバーテンダーは、夜だというのにサングラスを掛けたままの芳乃に何も言わず、さすがだ。

 芳乃はチャージとして出された、フレンチの前菜のようなおしゃれなゼリー寄せを口にする。

 耳をそばだてていると、聞こえてくるのは確かに暁人の声だ。
 二人は英語で話をしていたが、芳乃はNYでホテルのフロントをしていたので、リスニングは問題ない。

《その後、変わりはなかったか?》

 それまでの会話に一区切りついたあと、暁人が女性に尋ねる。

《相変わらずね。仕事ばかりで、あなたに会えなくて寂しかったわ》

 二人の関係を表すには十分すぎる言葉を聞き、芳乃は唇を引き結ぶ。

 目の前に優しいグリーン色のカクテルを置かれたが、「ありがとうございます」も言えずに、おざなりに会釈をしただけだ。

 一口飲むと、メロンの香りと甘さ、そして割と強めのアルコールが口腔に広がる。

 美味しい。――のに、素直に味わえない。

《本当に、会いたくて堪らなかった。今は忙しいけれど、いつか同じ家に住みましょうね》

《ああ。待ち遠しい》

 目が潤んでしまい、人生でこれほど英語が分からなければ良かったのに、と思ったのは初めてだ。

 泣きそうになっている芳乃の隣で、外国人の男性がカウンターをトントンと指で打っている。

 店内BGMのムードのある曲に合わせているにしては、リズムが早いなと、ショックを受けている頭の隅で感じた。
 やがて芳乃は自分がしでかした行動の愚かさに気づき、溜め息をつく。

(……もう、これ以上聞く必要はない。二人の関係は分かった。二人とも仕事が忙しくて別居していて、こうしてたまに会っている。二人の関係は良好で、暁人さんに恋人はいない。何もかも、そのままじゃない)

 理解したとたん、自分が如何に彼に期待していたかを知り、苦笑した。

(……バカみたい)
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

処理中です...