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特別じゃない ☆

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 こんな快楽を経験した事のない芳乃は、身も心も満たされ暁人の事しか考えられないでいた。

 そして肉体の気持ちよさと同時に、トプリと心の奥から別の欲望が沸き起こる。

 ――愛してほしい。

 そう思ってしまったのを自覚した途端、あり得ないのだと現実を理解して、ポロッと涙が零れてしまった。

「ん……っ、んーっ、あぁああっ」

 柔らかくぐずついた膣肉を擦られ、下りてきた子宮口を突き上げられ、芳乃は汗を浮かべ乱れながら、暁人の愛を欲して涙を流す。
 けれど彼はそれを快楽によるものだと思い、彼女の腰を両手で掴み最後の仕上げと言わんばかりに激しく腰を叩きつけてきた。

「あぁあっ、――も、……っ、駄目ぇ……っ」

 何度も軽い絶頂を繰り返し、芳乃の体は限界を迎えつつあった。

「っんぁああ……っ!」

 せり上がった法悦は、まるで白い炎のように彼女を包み込む。

 暁人は変わらず腰を叩きつけ、お腹の奥に何度も硬い亀頭が当たる。

 その力強い律動を肉体に刻まれているのは分かるのに、二人の荒い呼吸や腰がぶつかる音などが聞こえない。
 現実ではないどこかに放り出されたように感じられ、心地よい甘さに満ちたそこでたゆたったあと、不意に芳乃の魂は現実に戻った。

 肌という肌にびっしり汗をかき、低くうなりながら荒い呼吸を繰り返す暁人に貪られる自分を自覚する。

「――――出る……っ、……っ、芳乃……っ」

 最後に暁人は彼女の名前を呼び、胴震いしたあと、ぐぅっと最奥まで突き上げて切なげな息をついた。

 ――達ってくれてる。

 彼の肉棒が自分の体内で大きく膨らみ、ビクビクと震えているのが分かる。
 暁人は最後の一滴まで出すつもりで、そのあと二度、三度と腰を叩きつけてから、芳乃の体の上に倒れ込んできた。

「ん……っ」

 触れ合った肌が温かい。
 彼の体の重みが愛しく、それでいて切ない。

 暁人の背中に両腕を回し、芳乃は彼に気づかれないようにこっそりと泣いた。

 ――自分は特別じゃない。

 心の奥底にいる、期待した自分に言い聞かせる。

 彼が自分に手を差し伸べてくれたのは、たまたま〝エデンズ・ホテル東京〟の面接を受けた芳乃を、なんらかの理由で気に入った。
 そして経済的に余裕があるから、助けようと思った気まぐれに決まっている。

 副社長をしているのなら大勢の人に会っているだろうし、その中で初対面で人となりを見抜く観察眼を持っていてもおかしくない。

 多くの女性は彼を見て目をハートにするだろう。

 しかし芳乃は面接の時に、彼を見て美形とは思ったが、それ以上の気持ちを抱かなかった。
 恐らく暁人はそれを鋭敏に感じ、「自分に本気にならないのなら助けてやるか」という気持ちになったのかもしれない。

(だから、彼の恩に報いるためにも、今後の彼のためにならない事は絶対にしない)

 こんなに素敵で優しい男性に抱かれ、好きになるなという方がおかしい。
 彼の過去もプライベートもよく知らないままだが、ほぼ初対面のまま抱かれてすっかり心を独占されてしまった。

 サラリ……と暁人の髪を撫で、芳乃は白い天井を見上げて息をつく。

(あなたが求めるのなら、抱かれますし、美味しいご飯も作りますし、何でもします。家族を救ってくれた恩人ですから)

 心の中で呟き、また一粒涙を零す。

(でも、いずれあなたが素敵な女性を出会って結婚する時のために、絶対にこの気持ちは口にしないようにしますね)

 図らずもその決意を心の中で呟き、思い出したのはウィリアムとレティの姿だ。
 御曹司には、似合いの女性がいるのがセオリーだ。

(私は、夢をみてはいけない)

 自分のような一般人は、メインディッシュに添えられる飾り物のような存在だ。

「……芳乃」

 顔をもたげた暁人が、熱の残る目で見つめ、顔を傾けるとキスをしてきた。

 唇をしゃぶられたあとに甘噛みされ、ヌルリと舌が侵入してくる。
 彼女に負担を掛けないよう、いまだ繋がったまま暁人はゴロリと横臥し、脚を絡めて熱烈なキスをしてきた。

 最後にチュ……と芳乃の舌を吸ったあと、暁人は彼女を見つめ愛しげに微笑む。

(ウィルも、こんな風に笑ったっけ)

 暁人に微笑み返し、芳乃は彼の胸板に額をつけた。
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