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求められるだけ、与えられる度量はあるつもりだ ☆

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 不思議と、彼の行為に対する嫌悪感や抵抗はまったくなかった。

 初対面同然の彼と、これからセックスをする。

 職場も同じになるだろうし、借金もあるし、問題は山積みだ。

 それなのに、〝訳あり〟とデカデカと書かれた芳乃を、彼は誠実に受け入れ、一人の人間として敬意を示してくれた。

 抵抗しない理由は、それだけで十分だった。

 やがて舌を絡め合う深いキスになり、寝室にリップ音が何度も響く。

 一本縛りにしていた髪を暁人が解き、芳乃の長い髪がサラリと背中に流れる。
 Tシャツの裾に彼の手が侵入し、お腹や腰に触れてくる。
 素肌を撫でられてゾクゾクと身を震わせても、やはり嫌悪感はこみ上げない。

 むしろもっと触ってほしいと、芳乃の奥にある雌の本能が訴えていた。

 自然と腰が揺れ、芳乃もおずおずと暁人の体に触れる。滑らかな皮膚が気持ち良く、彼女はつい何度も暁人の背中を撫でた。

 芳乃のTシャツが脱がされ、パサリと床に落ちる。
 背中に暁人の手が回ったかと思うと、プツンとブラジャーのホックが外された。

「……怖い?」

 頭を撫でられ、尋ねられる。
 小さく首を横に振ると、暁人は「良かった」と微笑んで芳乃を抱き上げた。

「きゃ……っ」

 お姫様抱っこをされ、恥ずかしさのあまり芳乃は小さく悲鳴を上げる。
 すぐにキングサイズのベッドに横たえられ、ジーンズも脱がされてパンティ一枚という心許ない姿になってしまった。

(今日……、何の下着だったっけ)

〝大人の恋人ごっこ〟をすると了承したが、まさか初日から何かがあると思わなかった。

 どうでもいい三軍の下着ではないものの、暁人に抱かれるのを意識したとっておきの物でもない。
 不安になって起き上がろうとしたが、やんわりと肩を押されて仰向けにされた。

「大人しくしてて」

 暁人は唇の前に人差し指を立て、抵抗しないようにとジェスチャーで伝えてくる。
 そして少しの間芳乃の肢体を見つめたあと、両手でスルスルと乳房を撫でてきた。

「ん……」

 温かい手で素肌に触れられると、得も言われぬ心地よさと安堵がある。
 掌で摩擦され、次第に乳首がプツンと凝り立った。

「はぁ……っ、あ、……あ、……」

 自分で触ってみてもさほど気持ちいいと思えない場所が、暁人に触られるとこの上もなく気持ちいい。

 自分の体なのに、知らない人の体のようだ。

 暁人からの思いやりや誠実さが分かっているからか、ウィリアムにされた時よりもずっとリラックスして受け入れられている。
 ウィリアムに押し倒されていた時、心の中までも見透かすような青い目で射貫かれ、終始ドキドキしていた。
 あれは恋愛的な意味で胸を高鳴らせていたのもあったかもしれないが、単純に見つめられすぎて緊張していたのかもしれない。

 暁人も見つめてくるが、ずっとではない。

 芳乃が緊張しなくて済むように、少し視線を逸らして体を見ては、また見つめてくる。
 なので彼女も、「見つめ返さなければ」というプレッシャーを得ず、落ち着いて愛撫を受け入れられていた。

「嫌じゃないか?」

 尋ねられ、芳乃は小さく頷く。

「前の男と比べている?」

 だがそう尋ねられ、ドキッとした。
 暁人は芳乃の反応を見て、ゆるりと首を左右に振る。

「責めているんじゃない。確認だ。話してくれたような酷い別れ方だったなら、未練や恨む気持ちがあってもおかしくない。君の恋人になりたいと言って近付く俺を見て、何かしら比べてしまうのも、否定しない」

 暁人は優しい。

 優しいからこそ、普通なら責められるところも肯定してくれるので、逆につらくなる。

「……ウィルとの時は、もっと緊張していたなとか、色々……思い出してはいます」

「ん」

 本音を言っても暁人は怒らず、頭を撫でてくれる。

「すぐ忘れろなんて言わない。少しずつ、俺で芳乃の中を一杯にしてあげる」

 こちらを見て微笑む彼を見て、思わず芳乃は泣きたくなった。

 ――どうしてこの人は、こんなに私に優しくしてくれるんだろう。

 目の奥が熱くなり、泣いてしまいそうになる。
 涙の膜が浮かび上がったからか、暁人はクスッと笑うとそっとキスをしてきた。

「求められるだけ、与えられる度量はあるつもりだ」

 穏やかに微笑んだあと、彼は芳乃の首元に顔を埋め、ちう……と吸い付いてくる。
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