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君は今の自分を『大好き』と胸を張って言えるか?
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――前を向いて、強くなりたい。
――この人に認めてもらえるようになりたい。
心の底から湧き起こる羞恥と、暁人への強い想いを自覚し、芳乃は赤面する。
「どうしたら直ると思う?」
暁人が頬に触れ、耳や側頭部の髪を探る。
「……努力します」
「そうじゃない。何が原因でそうなったと思う? 俺は一方的な謝罪を聞きたいんじゃない。君と対話をしたいんだ」
言われて、また彼の懐の広さに打ちのめされる。
初対面の時、「年下なのにしっかりしてそう」など思った自分が恥ずかしい。
暁人と話していると、高学歴で単身渡米したからといって、自分がすっかり天狗になっていたのを思い知らされる。
――少なくとも、私はこの人ほど人間ができていない。
素直に認め、芳乃は暁人が年下だと思うのをやめた。
一人の、尊敬すべき相手と認識を正す。
「ひとえに、不幸が重なったのが原因だと思います。ウィルに婚約破棄をされるまで、私の人生は上々だったと言えます。彼のせいにする訳ではありませんが、『悪い事は重なる』とも言います。今回がそれだったのだと思います。そして私は、すっかり自信を失ってしまいました」
「うん。じゃあ、自信をつけるにはどうすればいいと思う?」
尋ねられ、芳乃は思考を巡らせる。
「きちんと就労し、自分のスキルを生かして働き、やりがいを得る事だと思います」
「そうだな。でも、それは社会的な回答だと思う。まるで面接のようだ」
やんわりと否定され、芳乃は言葉を失う。
これ以上の答えはないと思う程、シンプルな返事だと思っていたからだ。
「じゃあ……、どうすれば……」
本当に「分からない」と思った芳乃は、暁人を見つめ彼の目の奥に答えを求める。
――と、暁人が目を細め優しく笑った。
「君は今の自分を『大好き』と胸を張って言えるか?」
尋ねられ、芳乃は思考を止め固まる。
(言えない……)
順風満帆だと思って、〝ターナー&リゾーツ〟の御曹司と結婚できると思い込んでいた。
が、蓋を開ければ一人で舞い上がっていただけで、そんな自分を「格好悪い」と思った。
逃げるように帰国した時も、ウィリアムが悪いと自身に言い聞かせていた。
その裏で「あれだけ自信満々に渡米して、『NYに骨を埋めるつもり』と家族に言って、終の棲家はNYのどこにすべきか考えていたのがバカみたい」と自嘲した。
実家でゴロゴロしている自分は、無職で頼りなかった。
家族や友達が芳乃の帰国を喜んでいる姿を見て、彼らのためと自分に言い聞かせ、ちっぽけなプライドを守った。
父が倒れてしまったあとは、自分を責め続けた。
あれだけ心配されたのに、振り切って夢を追いかけた親不孝者だ。
外国で娘がどうしているか心配し続ける親の気持ちを、分かっているようでまったく理解できていなかった。
帰国した時に両親を見て「老けたな」と感じたのも、ひとえに芳乃を心配し続けたからだ。
『やりたい事をやりなさい。そのために支え続けてきたんだから』
両親の優しい言葉に甘え続け、そのお返しに自分は何をしただろう?
友達は休みになると帰省し、親に顔を見せていた。
家族の誕生日には、リアルタイムで花やプレゼントを届け、または一緒に食事会をしていた。
一方で、芳乃はタイムラグのある国際便でプレゼントを贈り、ビデオ通話で「おめでとう」を言ったのみ。
返す返す、ただの親不孝者としか思えない。
だから――、今は自分の事が嫌いで堪らない。
「俺は、君が自分自身を好きになれるよう、協力していきたいと思っている」
掌でスリ……と芳乃の頬を撫で、逞しい上半身を晒した暁人は優しく抱き締めてきた。
「君を愛して、『幸せ』と思えるようにしたら、君はもっと自分を好きになれるんじゃないか? もっと君が自分を好きになれるよう、日々言葉を伝えていこう」
「……そんな事、できるんですか?」
暁人はまるで、魔法の言葉を口にしているように思える。
ゼロから百を生むと言っているも同義だ。
「やってみないと分からないだろう?」
そう言って微笑んだ彼に一瞬既視感を覚えたが、それもすぐに優しいキスにより紛れていった。
「ん……」
柔らかな唇を何度も押しつけられ、空気を求めて唇が微かに開く。
後頭部や背中は大きな手に撫でられ、その温もりに気持ちが落ち着いてゆく。
唇の間を舐められ、上下の唇を軽く噛んだ暁人の手が、腰から臀部に至っても芳乃は抵抗しなかった。
――この人に認めてもらえるようになりたい。
心の底から湧き起こる羞恥と、暁人への強い想いを自覚し、芳乃は赤面する。
「どうしたら直ると思う?」
暁人が頬に触れ、耳や側頭部の髪を探る。
「……努力します」
「そうじゃない。何が原因でそうなったと思う? 俺は一方的な謝罪を聞きたいんじゃない。君と対話をしたいんだ」
言われて、また彼の懐の広さに打ちのめされる。
初対面の時、「年下なのにしっかりしてそう」など思った自分が恥ずかしい。
暁人と話していると、高学歴で単身渡米したからといって、自分がすっかり天狗になっていたのを思い知らされる。
――少なくとも、私はこの人ほど人間ができていない。
素直に認め、芳乃は暁人が年下だと思うのをやめた。
一人の、尊敬すべき相手と認識を正す。
「ひとえに、不幸が重なったのが原因だと思います。ウィルに婚約破棄をされるまで、私の人生は上々だったと言えます。彼のせいにする訳ではありませんが、『悪い事は重なる』とも言います。今回がそれだったのだと思います。そして私は、すっかり自信を失ってしまいました」
「うん。じゃあ、自信をつけるにはどうすればいいと思う?」
尋ねられ、芳乃は思考を巡らせる。
「きちんと就労し、自分のスキルを生かして働き、やりがいを得る事だと思います」
「そうだな。でも、それは社会的な回答だと思う。まるで面接のようだ」
やんわりと否定され、芳乃は言葉を失う。
これ以上の答えはないと思う程、シンプルな返事だと思っていたからだ。
「じゃあ……、どうすれば……」
本当に「分からない」と思った芳乃は、暁人を見つめ彼の目の奥に答えを求める。
――と、暁人が目を細め優しく笑った。
「君は今の自分を『大好き』と胸を張って言えるか?」
尋ねられ、芳乃は思考を止め固まる。
(言えない……)
順風満帆だと思って、〝ターナー&リゾーツ〟の御曹司と結婚できると思い込んでいた。
が、蓋を開ければ一人で舞い上がっていただけで、そんな自分を「格好悪い」と思った。
逃げるように帰国した時も、ウィリアムが悪いと自身に言い聞かせていた。
その裏で「あれだけ自信満々に渡米して、『NYに骨を埋めるつもり』と家族に言って、終の棲家はNYのどこにすべきか考えていたのがバカみたい」と自嘲した。
実家でゴロゴロしている自分は、無職で頼りなかった。
家族や友達が芳乃の帰国を喜んでいる姿を見て、彼らのためと自分に言い聞かせ、ちっぽけなプライドを守った。
父が倒れてしまったあとは、自分を責め続けた。
あれだけ心配されたのに、振り切って夢を追いかけた親不孝者だ。
外国で娘がどうしているか心配し続ける親の気持ちを、分かっているようでまったく理解できていなかった。
帰国した時に両親を見て「老けたな」と感じたのも、ひとえに芳乃を心配し続けたからだ。
『やりたい事をやりなさい。そのために支え続けてきたんだから』
両親の優しい言葉に甘え続け、そのお返しに自分は何をしただろう?
友達は休みになると帰省し、親に顔を見せていた。
家族の誕生日には、リアルタイムで花やプレゼントを届け、または一緒に食事会をしていた。
一方で、芳乃はタイムラグのある国際便でプレゼントを贈り、ビデオ通話で「おめでとう」を言ったのみ。
返す返す、ただの親不孝者としか思えない。
だから――、今は自分の事が嫌いで堪らない。
「俺は、君が自分自身を好きになれるよう、協力していきたいと思っている」
掌でスリ……と芳乃の頬を撫で、逞しい上半身を晒した暁人は優しく抱き締めてきた。
「君を愛して、『幸せ』と思えるようにしたら、君はもっと自分を好きになれるんじゃないか? もっと君が自分を好きになれるよう、日々言葉を伝えていこう」
「……そんな事、できるんですか?」
暁人はまるで、魔法の言葉を口にしているように思える。
ゼロから百を生むと言っているも同義だ。
「やってみないと分からないだろう?」
そう言って微笑んだ彼に一瞬既視感を覚えたが、それもすぐに優しいキスにより紛れていった。
「ん……」
柔らかな唇を何度も押しつけられ、空気を求めて唇が微かに開く。
後頭部や背中は大きな手に撫でられ、その温もりに気持ちが落ち着いてゆく。
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