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家族のためなら
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それというのも、芳乃に影響を受けて父が投資を始めたのも理由がある。
芳乃は大学生の頃から、少額ずつ投資を始めていた。
渡米してからあちらでは多くの人が当たり前に投資をしていて、世間話をすれば株価やそれに影響を与える世界情勢などの話題をするのが常だった。
芳乃はリスクを考えて投資する業種なども考え、積み立て投資をベースにした上で個別株への投資、余力で仮想通貨などもしていた。
だが父は投資を始めた頃にうまくいったのが嬉しかったらしく、芳乃が「初心者はやめた方がいい」と忠告した銘柄や、FXに手を出してしまったようだ。
毎年十二月頃は株価が落ちるのがセオリーになっていて、芳乃はそれを見越した上で保有し続け、調整などもしていた。
だが投資初心者の父は下がっていく株価に精神が耐えられず、ストレスの溜まる生活を送っていたようだった。
もともと持病で心臓の病を持っていた事もあり、それが理由なのかは分からないが発作を起こしてしまい……という流れだった。
結果的に父が最後に損切りとして打ってしまい、抱えた負債は大きく、三峯家を今後支えていくはずだった一千万近くの貯金はほぼなくなってしまった。
それどころか、FXで十倍のレバレッジを掛け、八千万円の損失を被った。
それもこれも、自分が余計な事を教えなければ……と感じ、芳乃は自責の念に駆られる。
母は「働いて少しずつ返していけば大丈夫」と言っているが、一億円という巨額の金に、その表情はこわばっていた。
勿論、芳乃が今まで稼いだ金や投資で儲けた金などのすべてを返済に充てた。
八百万ほどの資産で、自分の年齢にしてはよく貯めた方だと思っていた。
だがそれも八千万を前にすれば微々たる額で、今後どうしたらいいのか分からず途方に暮れていた。
「これからどうする? 俺も無駄遣いをやめて仕送りするけど、姉ちゃんはどうする?」
居間のソファに横たわり、クッションに顔を埋めていた芳乃に、二十四歳の弟の健太が問いかけてくる。
健太は都内に本社があるスポーツメーカーに勤務していて、最近は週末になるとこちらに帰ってきてくれている。
彼女がいるし、友達との約束もあるだろうに、母と姉を心配して足繁く実家に通ってきていた。
彼自身、実家が借金を抱えているとなれば、彼女との結婚も難しくなるだろうに、気丈に振る舞ってくれている。
「…………働かないとね」
芳乃はくぐもった声で返事をする。
ショックの連続で、芳乃はここ数日茫然自失としていた。
母は現在パートをしている。
遺族年金などがあるとしても、今まで通りの生活とはいかない。
現在母は様々な手続きに奔走していて、本来なら芳乃もその手伝いをしていたはずだった。
だがあらゆる事が自分のせいなのだと思うと、食欲もなく、食べられないがゆえにどんどん無気力になる……という負のスパイラルに陥っていた。
『芳乃が帰ってきて本当に良かったなぁ。父さん、これで死んでも何の悔いもない』
家族で回転寿司に行って、父はビールを飲んでご機嫌に笑っていた。
それを現在の芳乃は悲観的に捉えてしまい、あの時にはすでに父は絶望を抱えていたのでは……と己を責めていたのだ。
「姉ちゃんが自分を責める気持ちは分からないでもないけど、父さんは持病の発作で死んだんであって何も関係ないからな?」
「……分かってる……」
「向こうのホテルで頑張ってきたんだろ? 一人でアメリカ行って、個人主義、競争社会の中で戦ってきたんだろ?」
弟の言葉が痛い。
かつて芳乃は、日本で一番偏差値が高いと言われる大学に通っていた。
子供の頃に受けたホテルのホスピタリティに感動し、自分も宿泊客に一時の安らぎを得てもらえるホテリエになりたいと望んだ。
四年制大学を卒業したあとに国内のホテルで修行を積み、そして憧れのNYにある〝ゴールデン・ターナー〟で働き始めた。
だが今となってはその思い出も、とても苦いものになってしまった。
家族には婚約破棄された事について、何も触れられていない。
浮かれて「ウィルにプロポーズされたの」と言ってしまったが、急に帰国して彼の名前を一言も言わなくなったところから、すべてを察してくれていたのだろう。
婚約破棄され、自分が中途半端に教えた知識により、父が借金を負った挙げ句発作を起こして死んでしまった。
周りがどうフォローしてくれても、今はその優しさもつらい。
「二人で力を合わせて母さんを支えなきゃな」
四つ年下の弟の言葉が、心の奥底にじわりと染みこんでゆく。
(そうだ……。いつまでも落ち込んでいられない。今お母さんが困っているのを、私が健太と一緒に助けないと)
恋人はいない。
けれど、家族のためなら頑張れる。
芳乃は大学生の頃から、少額ずつ投資を始めていた。
渡米してからあちらでは多くの人が当たり前に投資をしていて、世間話をすれば株価やそれに影響を与える世界情勢などの話題をするのが常だった。
芳乃はリスクを考えて投資する業種なども考え、積み立て投資をベースにした上で個別株への投資、余力で仮想通貨などもしていた。
だが父は投資を始めた頃にうまくいったのが嬉しかったらしく、芳乃が「初心者はやめた方がいい」と忠告した銘柄や、FXに手を出してしまったようだ。
毎年十二月頃は株価が落ちるのがセオリーになっていて、芳乃はそれを見越した上で保有し続け、調整などもしていた。
だが投資初心者の父は下がっていく株価に精神が耐えられず、ストレスの溜まる生活を送っていたようだった。
もともと持病で心臓の病を持っていた事もあり、それが理由なのかは分からないが発作を起こしてしまい……という流れだった。
結果的に父が最後に損切りとして打ってしまい、抱えた負債は大きく、三峯家を今後支えていくはずだった一千万近くの貯金はほぼなくなってしまった。
それどころか、FXで十倍のレバレッジを掛け、八千万円の損失を被った。
それもこれも、自分が余計な事を教えなければ……と感じ、芳乃は自責の念に駆られる。
母は「働いて少しずつ返していけば大丈夫」と言っているが、一億円という巨額の金に、その表情はこわばっていた。
勿論、芳乃が今まで稼いだ金や投資で儲けた金などのすべてを返済に充てた。
八百万ほどの資産で、自分の年齢にしてはよく貯めた方だと思っていた。
だがそれも八千万を前にすれば微々たる額で、今後どうしたらいいのか分からず途方に暮れていた。
「これからどうする? 俺も無駄遣いをやめて仕送りするけど、姉ちゃんはどうする?」
居間のソファに横たわり、クッションに顔を埋めていた芳乃に、二十四歳の弟の健太が問いかけてくる。
健太は都内に本社があるスポーツメーカーに勤務していて、最近は週末になるとこちらに帰ってきてくれている。
彼女がいるし、友達との約束もあるだろうに、母と姉を心配して足繁く実家に通ってきていた。
彼自身、実家が借金を抱えているとなれば、彼女との結婚も難しくなるだろうに、気丈に振る舞ってくれている。
「…………働かないとね」
芳乃はくぐもった声で返事をする。
ショックの連続で、芳乃はここ数日茫然自失としていた。
母は現在パートをしている。
遺族年金などがあるとしても、今まで通りの生活とはいかない。
現在母は様々な手続きに奔走していて、本来なら芳乃もその手伝いをしていたはずだった。
だがあらゆる事が自分のせいなのだと思うと、食欲もなく、食べられないがゆえにどんどん無気力になる……という負のスパイラルに陥っていた。
『芳乃が帰ってきて本当に良かったなぁ。父さん、これで死んでも何の悔いもない』
家族で回転寿司に行って、父はビールを飲んでご機嫌に笑っていた。
それを現在の芳乃は悲観的に捉えてしまい、あの時にはすでに父は絶望を抱えていたのでは……と己を責めていたのだ。
「姉ちゃんが自分を責める気持ちは分からないでもないけど、父さんは持病の発作で死んだんであって何も関係ないからな?」
「……分かってる……」
「向こうのホテルで頑張ってきたんだろ? 一人でアメリカ行って、個人主義、競争社会の中で戦ってきたんだろ?」
弟の言葉が痛い。
かつて芳乃は、日本で一番偏差値が高いと言われる大学に通っていた。
子供の頃に受けたホテルのホスピタリティに感動し、自分も宿泊客に一時の安らぎを得てもらえるホテリエになりたいと望んだ。
四年制大学を卒業したあとに国内のホテルで修行を積み、そして憧れのNYにある〝ゴールデン・ターナー〟で働き始めた。
だが今となってはその思い出も、とても苦いものになってしまった。
家族には婚約破棄された事について、何も触れられていない。
浮かれて「ウィルにプロポーズされたの」と言ってしまったが、急に帰国して彼の名前を一言も言わなくなったところから、すべてを察してくれていたのだろう。
婚約破棄され、自分が中途半端に教えた知識により、父が借金を負った挙げ句発作を起こして死んでしまった。
周りがどうフォローしてくれても、今はその優しさもつらい。
「二人で力を合わせて母さんを支えなきゃな」
四つ年下の弟の言葉が、心の奥底にじわりと染みこんでゆく。
(そうだ……。いつまでも落ち込んでいられない。今お母さんが困っているのを、私が健太と一緒に助けないと)
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けれど、家族のためなら頑張れる。
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