【R-18】八年執着されましたが、幸せです

臣桜

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〝本当の〟婚約指輪

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 名目はCOOとして空き時間に、様々なホテルスタッフに話を聞き、現在の労働環境や気付きなどをリスニングしている……という体だった。

 だがその後、明らかに仕事のリスニング以外の目的で呼ばれる事が多くなった。

《一緒に食事に行かないか?》

 そう言われて、高級レストランで仕事をするのも経験のためといって、芳乃一人では行く事のできない店へ連れて行ってくれた。

 他にも芳乃が生活しているアパートメントまで高級車で迎えにきてくれて、ドライブにも行った。
 誕生日、クリスマスに贈り物をされ、事ある毎に花をくれる。

 芳乃は学生時代から、海外の一流ホテルで働くのだという夢を胸に邁進し続けた。
 男性とまともに付き合った事もなく、まじめで初心だった。

 だからすぐにウィリアムに恋をしてしまったのだ。

 仕事に恋に恵まれ、心の底からNYに来て良かったと感じた。
 初めは渡米するのに家族に心配され、「上手くいかなかったらいつでも戻っておいで」と言われていたが、これで日本に戻らず、アメリカに骨を埋める心づもりでいた。

 つい先日だって、母にビデオ通話で「プロポーズされたの!」と報告したばかりだ。

 ――そう。プロポーズをされたのだ。





 走馬灯のように今までの事を思い出した芳乃は、ぼんやりと目の前で抱き合っている高身長の美男美女を見る。

 視線を落とすと、自分の指にはキラリと光るダイヤの嵌まった華奢なリングがある。
 これはウィリアムに《プレゼントだよ》と贈られた物だ。

(……てっきりこれは、プロポーズの意味だと思っていたのだけれど……)

 今になって思えば、ここ三か月ほどウィリアムの態度がおかしかった気がする。

 メッセージアプリで次のデートの予定を尋ねても、予定を調整中だから待ってほしいと言われ、そのまま放置されていた。

 今までは仕事が終わる時間にCOOルームに呼ばれ、彼の仕事が終わるのを待たせてもらった。
 ウィリアムの仕事が終わったら《お疲れ様》とキスをして、そのあとディナーに向かった。

 そのような恋人らしい過ごし方が、まったくなくなってしまった。

 彼はCOOだし忙しいから……と自分に理由をつけても、「なら今までは何だったの?」と意見を言う自分も出てくる。

 その結果が、これだ。

《嫌だわ。あの子ったら物欲しそうに見てる》

 ウィリアムからキスをされていたレティという女性が、芳乃の視線に気付いてクスクス笑い、彼から離れた。
 そしてレティは、芳乃の指に嵌められている指輪に気付き、クスッと笑う。

《もしかしてそれ、ウィルにプレゼントされたの?》

 嘲るように笑われ、芳乃は思わず手を後ろに隠した。

 レティはゆっくりと小首を傾げ、しなやかで白い手をかざす。
 美しくネイルの施された指には、芳乃がしている物など比べ物にならない、大粒のダイヤモンドが嵌まった指輪があった。

 彼女が意味深に微笑んだのを見て、すべてを理解した。

 ――彼女が本命の婚約者なんだ。
 ――私は、……遊ばれた。

 無力感と脱力感が、全身を襲う。

 今までしてきた事すべてが徒労に終わった感覚に陥る。

 芳乃自身が沢山学び、このホテルで培った経験は無駄にはならない。

 だがNYに来てからの生活も、何なら日本にいた頃からホテル業界に憧れた気持ちすらも、すべて意味のないものに思えてしまった。

(恋をして結婚するために働いていたんじゃないのに……)

 自分には、もっと崇高な思いがあったはずだ。
 思い出そうとしても、真っ黒でグチャグチャになった醜い感情に支配され、綺麗な気持ちを取り戻せない。

「……どうして……」

 思わず日本語で口走った芳乃を、レティは哀れむような目で見て、肩をすくめる。

《仮にもウィルが好きだったなら、彼を困らせないでちょうだい。別れ際にギャーギャー言う女はクールじゃないわよ》

(なんであなたに、そんな事を言われなきゃいけないの……)

 心の中で反抗し、芳乃はウィリアムに訴える。

《いつからこうなっていたんですか?》

 どうせなら、引導は彼に渡されたい。

 沢山キスをし、体を重ねた愛しい人に、キッパリと振られたい。

 そう思ったのは、芳乃の中にあるささやかなプライドだ。

 けれど――。
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