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さあ、わが家へ帰るぞ
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孤児という「可哀想」な存在で、そのなかでも魔王の生贄になってしまった、彼らの中ではもう死んだも同然の存在が戻ってきてしまった。
彼らが大切にするのは自分たちの平和な生活で、私じゃない。
村に災いが降りかかると思ったのなら、ああいう風になってしまっても仕方がないのかもしれない。
彼らは私を怖がり、私だって彼らが怖い。
そう思っているもの同士が、これから先うまくやっていけるとは思わない。
「エデン、一度城を勝手に出てしまった私が言える言葉じゃないかもしれませんが……。もう一度、私をあなたの奥さんにしてください。今度こそ私……上手にやってみせます」
こんなことを言うのは図々しいのは分かっている。
でも、もうすがれるのはエデンしかいない。
戻りたいと願う私の心は、まだ自分を信じ切れていない部分がある。
けれど、無条件に私を愛してくれるエデンが側にいてくれるのなら――、私も少しずつ変われるはず。
ううん、変わらないといけない。
「俺にとってお前は見守る存在であり、妻にできる十八まで待ったご褒美だ。生涯大事にするし、そのなかでお前がいい方向に成長するのも手伝おう」
おずおずとさし出した私の手を、エデンは父性をも見せる頼もしさで、力強く握りかえしてくれた。
「良かったわね、アメリア。あなたはいま本当に、名前の通り『愛される者』になれたのよ」
「はい……っ」
あんなにもうとましかったこの名前が、今はこんなにも嬉しい。あぁ、シスタージェシカにお礼を言えればいいのに。
「私、神さまが絶対とか悪魔は悪いとか……、親のいる子は幸せで孤児は不幸とか……、そういうものの見方をするのをやめます。自分の目で見たものを信じた方が、ずっと幸せだもの」
「そうね、アメリア。あなたの言う通りだわ。この短期間にとても成長したわね」
シスターは丸い眼鏡の奥で目を細めさせ、心の底から嬉しそうに笑ってくれる。私もそれに微笑みかえす。
この場の雰囲気はもう私たちが城へ戻って終わり、というものになりかけた時だった。
「シスター、一つ頼みがある」
「何でしょう?」
エデンがシスターに話しかけ、背後から私の胸もと――ロザリオのあるあたりに手をかける。
「アメリアのロザリオを奪っても構わないだろうか。アメリアが大事にしているものは俺も尊重したいが、何かにつけロザリオを握られると、俺よりも神を頼っているように思えて嫉妬してしまう」
「まぁ……」
魔王の嫉妬というものはスケールが違い、誰か一個人などではなく相手は神さまだ。シスターは驚いて目をみはり、私はそんな彼が愛しくて笑い出してしまった。
ココアのお礼を言って孤児院の外へ出ると、そこにはイグニスさんと黒い馬車がひかえていた。
イグニスさんは私の顔を見て丁寧に頭を下げ、恐縮した声で言う。。
「私なりに真剣にお二人の将来を心配してのことでしたが、不要なことを申し上げてしまったようで、大変失礼いたしました」
「いいえ、イグニスさんがエデンのことを大事に思っているのは、分かっているつもりです。私もイグニスさんが安心できるような妻になりますから、見ていてください」
そう言うと彼は頭を上げて、ほんの少し笑ったように見えた。
もしかしたら私の知らないところで、イグニスさんはエデンに叱られてしまったのだろうか? とつい思った。
でも、いつも自分の仕事にまじめでエデンに忠実な彼に、そこを心配するのは無粋というものなのだと思う。
眼下に小さくなる孤児院を見下ろし、私は馬車の中でエデンと寄りそう。
「この指輪は返しておくぞ。あと、手紙をくれるのならラブレターにしてくれ」
エデンはそう言って私の指に結婚指輪をはめ直し、私の頬に唇をつけて頭を撫でてくれる。
それから私の首からロザリオを外すと、「預かる」と言ってジャケットのポケットにしまってしまった。
私だけを甘やかしてくれる魔王さまに、キュウッとときめいた私は、思わず彼に抱きつき甘えた声を出していた。
「これからも、どうぞよろしくお願いいたします! 私の旦那さま」
「こちらこそ、もう離さないからな。わが妻よ」
私だけの魔王さまで旦那さまは、優しい笑みを浮かべて私を抱きしめ返してくれた。
「さあ、わが家へ帰るぞ」
そうして、私たちは空飛ぶ馬車であの城へと戻るのだった。
彼らが大切にするのは自分たちの平和な生活で、私じゃない。
村に災いが降りかかると思ったのなら、ああいう風になってしまっても仕方がないのかもしれない。
彼らは私を怖がり、私だって彼らが怖い。
そう思っているもの同士が、これから先うまくやっていけるとは思わない。
「エデン、一度城を勝手に出てしまった私が言える言葉じゃないかもしれませんが……。もう一度、私をあなたの奥さんにしてください。今度こそ私……上手にやってみせます」
こんなことを言うのは図々しいのは分かっている。
でも、もうすがれるのはエデンしかいない。
戻りたいと願う私の心は、まだ自分を信じ切れていない部分がある。
けれど、無条件に私を愛してくれるエデンが側にいてくれるのなら――、私も少しずつ変われるはず。
ううん、変わらないといけない。
「俺にとってお前は見守る存在であり、妻にできる十八まで待ったご褒美だ。生涯大事にするし、そのなかでお前がいい方向に成長するのも手伝おう」
おずおずとさし出した私の手を、エデンは父性をも見せる頼もしさで、力強く握りかえしてくれた。
「良かったわね、アメリア。あなたはいま本当に、名前の通り『愛される者』になれたのよ」
「はい……っ」
あんなにもうとましかったこの名前が、今はこんなにも嬉しい。あぁ、シスタージェシカにお礼を言えればいいのに。
「私、神さまが絶対とか悪魔は悪いとか……、親のいる子は幸せで孤児は不幸とか……、そういうものの見方をするのをやめます。自分の目で見たものを信じた方が、ずっと幸せだもの」
「そうね、アメリア。あなたの言う通りだわ。この短期間にとても成長したわね」
シスターは丸い眼鏡の奥で目を細めさせ、心の底から嬉しそうに笑ってくれる。私もそれに微笑みかえす。
この場の雰囲気はもう私たちが城へ戻って終わり、というものになりかけた時だった。
「シスター、一つ頼みがある」
「何でしょう?」
エデンがシスターに話しかけ、背後から私の胸もと――ロザリオのあるあたりに手をかける。
「アメリアのロザリオを奪っても構わないだろうか。アメリアが大事にしているものは俺も尊重したいが、何かにつけロザリオを握られると、俺よりも神を頼っているように思えて嫉妬してしまう」
「まぁ……」
魔王の嫉妬というものはスケールが違い、誰か一個人などではなく相手は神さまだ。シスターは驚いて目をみはり、私はそんな彼が愛しくて笑い出してしまった。
ココアのお礼を言って孤児院の外へ出ると、そこにはイグニスさんと黒い馬車がひかえていた。
イグニスさんは私の顔を見て丁寧に頭を下げ、恐縮した声で言う。。
「私なりに真剣にお二人の将来を心配してのことでしたが、不要なことを申し上げてしまったようで、大変失礼いたしました」
「いいえ、イグニスさんがエデンのことを大事に思っているのは、分かっているつもりです。私もイグニスさんが安心できるような妻になりますから、見ていてください」
そう言うと彼は頭を上げて、ほんの少し笑ったように見えた。
もしかしたら私の知らないところで、イグニスさんはエデンに叱られてしまったのだろうか? とつい思った。
でも、いつも自分の仕事にまじめでエデンに忠実な彼に、そこを心配するのは無粋というものなのだと思う。
眼下に小さくなる孤児院を見下ろし、私は馬車の中でエデンと寄りそう。
「この指輪は返しておくぞ。あと、手紙をくれるのならラブレターにしてくれ」
エデンはそう言って私の指に結婚指輪をはめ直し、私の頬に唇をつけて頭を撫でてくれる。
それから私の首からロザリオを外すと、「預かる」と言ってジャケットのポケットにしまってしまった。
私だけを甘やかしてくれる魔王さまに、キュウッとときめいた私は、思わず彼に抱きつき甘えた声を出していた。
「これからも、どうぞよろしくお願いいたします! 私の旦那さま」
「こちらこそ、もう離さないからな。わが妻よ」
私だけの魔王さまで旦那さまは、優しい笑みを浮かべて私を抱きしめ返してくれた。
「さあ、わが家へ帰るぞ」
そうして、私たちは空飛ぶ馬車であの城へと戻るのだった。
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