29 / 38
さあ、わが家へ帰るぞ
しおりを挟む
孤児という「可哀想」な存在で、そのなかでも魔王の生贄になってしまった、彼らの中ではもう死んだも同然の存在が戻ってきてしまった。
彼らが大切にするのは自分たちの平和な生活で、私じゃない。
村に災いが降りかかると思ったのなら、ああいう風になってしまっても仕方がないのかもしれない。
彼らは私を怖がり、私だって彼らが怖い。
そう思っているもの同士が、これから先うまくやっていけるとは思わない。
「エデン、一度城を勝手に出てしまった私が言える言葉じゃないかもしれませんが……。もう一度、私をあなたの奥さんにしてください。今度こそ私……上手にやってみせます」
こんなことを言うのは図々しいのは分かっている。
でも、もうすがれるのはエデンしかいない。
戻りたいと願う私の心は、まだ自分を信じ切れていない部分がある。
けれど、無条件に私を愛してくれるエデンが側にいてくれるのなら――、私も少しずつ変われるはず。
ううん、変わらないといけない。
「俺にとってお前は見守る存在であり、妻にできる十八まで待ったご褒美だ。生涯大事にするし、そのなかでお前がいい方向に成長するのも手伝おう」
おずおずとさし出した私の手を、エデンは父性をも見せる頼もしさで、力強く握りかえしてくれた。
「良かったわね、アメリア。あなたはいま本当に、名前の通り『愛される者』になれたのよ」
「はい……っ」
あんなにもうとましかったこの名前が、今はこんなにも嬉しい。あぁ、シスタージェシカにお礼を言えればいいのに。
「私、神さまが絶対とか悪魔は悪いとか……、親のいる子は幸せで孤児は不幸とか……、そういうものの見方をするのをやめます。自分の目で見たものを信じた方が、ずっと幸せだもの」
「そうね、アメリア。あなたの言う通りだわ。この短期間にとても成長したわね」
シスターは丸い眼鏡の奥で目を細めさせ、心の底から嬉しそうに笑ってくれる。私もそれに微笑みかえす。
この場の雰囲気はもう私たちが城へ戻って終わり、というものになりかけた時だった。
「シスター、一つ頼みがある」
「何でしょう?」
エデンがシスターに話しかけ、背後から私の胸もと――ロザリオのあるあたりに手をかける。
「アメリアのロザリオを奪っても構わないだろうか。アメリアが大事にしているものは俺も尊重したいが、何かにつけロザリオを握られると、俺よりも神を頼っているように思えて嫉妬してしまう」
「まぁ……」
魔王の嫉妬というものはスケールが違い、誰か一個人などではなく相手は神さまだ。シスターは驚いて目をみはり、私はそんな彼が愛しくて笑い出してしまった。
ココアのお礼を言って孤児院の外へ出ると、そこにはイグニスさんと黒い馬車がひかえていた。
イグニスさんは私の顔を見て丁寧に頭を下げ、恐縮した声で言う。。
「私なりに真剣にお二人の将来を心配してのことでしたが、不要なことを申し上げてしまったようで、大変失礼いたしました」
「いいえ、イグニスさんがエデンのことを大事に思っているのは、分かっているつもりです。私もイグニスさんが安心できるような妻になりますから、見ていてください」
そう言うと彼は頭を上げて、ほんの少し笑ったように見えた。
もしかしたら私の知らないところで、イグニスさんはエデンに叱られてしまったのだろうか? とつい思った。
でも、いつも自分の仕事にまじめでエデンに忠実な彼に、そこを心配するのは無粋というものなのだと思う。
眼下に小さくなる孤児院を見下ろし、私は馬車の中でエデンと寄りそう。
「この指輪は返しておくぞ。あと、手紙をくれるのならラブレターにしてくれ」
エデンはそう言って私の指に結婚指輪をはめ直し、私の頬に唇をつけて頭を撫でてくれる。
それから私の首からロザリオを外すと、「預かる」と言ってジャケットのポケットにしまってしまった。
私だけを甘やかしてくれる魔王さまに、キュウッとときめいた私は、思わず彼に抱きつき甘えた声を出していた。
「これからも、どうぞよろしくお願いいたします! 私の旦那さま」
「こちらこそ、もう離さないからな。わが妻よ」
私だけの魔王さまで旦那さまは、優しい笑みを浮かべて私を抱きしめ返してくれた。
「さあ、わが家へ帰るぞ」
そうして、私たちは空飛ぶ馬車であの城へと戻るのだった。
彼らが大切にするのは自分たちの平和な生活で、私じゃない。
村に災いが降りかかると思ったのなら、ああいう風になってしまっても仕方がないのかもしれない。
彼らは私を怖がり、私だって彼らが怖い。
そう思っているもの同士が、これから先うまくやっていけるとは思わない。
「エデン、一度城を勝手に出てしまった私が言える言葉じゃないかもしれませんが……。もう一度、私をあなたの奥さんにしてください。今度こそ私……上手にやってみせます」
こんなことを言うのは図々しいのは分かっている。
でも、もうすがれるのはエデンしかいない。
戻りたいと願う私の心は、まだ自分を信じ切れていない部分がある。
けれど、無条件に私を愛してくれるエデンが側にいてくれるのなら――、私も少しずつ変われるはず。
ううん、変わらないといけない。
「俺にとってお前は見守る存在であり、妻にできる十八まで待ったご褒美だ。生涯大事にするし、そのなかでお前がいい方向に成長するのも手伝おう」
おずおずとさし出した私の手を、エデンは父性をも見せる頼もしさで、力強く握りかえしてくれた。
「良かったわね、アメリア。あなたはいま本当に、名前の通り『愛される者』になれたのよ」
「はい……っ」
あんなにもうとましかったこの名前が、今はこんなにも嬉しい。あぁ、シスタージェシカにお礼を言えればいいのに。
「私、神さまが絶対とか悪魔は悪いとか……、親のいる子は幸せで孤児は不幸とか……、そういうものの見方をするのをやめます。自分の目で見たものを信じた方が、ずっと幸せだもの」
「そうね、アメリア。あなたの言う通りだわ。この短期間にとても成長したわね」
シスターは丸い眼鏡の奥で目を細めさせ、心の底から嬉しそうに笑ってくれる。私もそれに微笑みかえす。
この場の雰囲気はもう私たちが城へ戻って終わり、というものになりかけた時だった。
「シスター、一つ頼みがある」
「何でしょう?」
エデンがシスターに話しかけ、背後から私の胸もと――ロザリオのあるあたりに手をかける。
「アメリアのロザリオを奪っても構わないだろうか。アメリアが大事にしているものは俺も尊重したいが、何かにつけロザリオを握られると、俺よりも神を頼っているように思えて嫉妬してしまう」
「まぁ……」
魔王の嫉妬というものはスケールが違い、誰か一個人などではなく相手は神さまだ。シスターは驚いて目をみはり、私はそんな彼が愛しくて笑い出してしまった。
ココアのお礼を言って孤児院の外へ出ると、そこにはイグニスさんと黒い馬車がひかえていた。
イグニスさんは私の顔を見て丁寧に頭を下げ、恐縮した声で言う。。
「私なりに真剣にお二人の将来を心配してのことでしたが、不要なことを申し上げてしまったようで、大変失礼いたしました」
「いいえ、イグニスさんがエデンのことを大事に思っているのは、分かっているつもりです。私もイグニスさんが安心できるような妻になりますから、見ていてください」
そう言うと彼は頭を上げて、ほんの少し笑ったように見えた。
もしかしたら私の知らないところで、イグニスさんはエデンに叱られてしまったのだろうか? とつい思った。
でも、いつも自分の仕事にまじめでエデンに忠実な彼に、そこを心配するのは無粋というものなのだと思う。
眼下に小さくなる孤児院を見下ろし、私は馬車の中でエデンと寄りそう。
「この指輪は返しておくぞ。あと、手紙をくれるのならラブレターにしてくれ」
エデンはそう言って私の指に結婚指輪をはめ直し、私の頬に唇をつけて頭を撫でてくれる。
それから私の首からロザリオを外すと、「預かる」と言ってジャケットのポケットにしまってしまった。
私だけを甘やかしてくれる魔王さまに、キュウッとときめいた私は、思わず彼に抱きつき甘えた声を出していた。
「これからも、どうぞよろしくお願いいたします! 私の旦那さま」
「こちらこそ、もう離さないからな。わが妻よ」
私だけの魔王さまで旦那さまは、優しい笑みを浮かべて私を抱きしめ返してくれた。
「さあ、わが家へ帰るぞ」
そうして、私たちは空飛ぶ馬車であの城へと戻るのだった。
10
お気に入りに追加
395
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?
うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。
濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる