【R-18】魔王の生贄に選ばれましたが、思いのほか溺愛されました

臣桜

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そうして、私とエデンは夫婦になった

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「俺は現在の西の魔王。名はエデンだ」

「エデン!? ……楽園?」

「そう……なるだろう、な。普通は」

 あからさまに肩を落とす魔王さま――、エデンさまを見て、私はついクスクスと笑ってしまった。なんだか彼がとっても可愛らしく思えたのだ。

「おかしいだろう? 魔王なのに名前がエデンだなんて。悪魔の頂点たる魔王も、幼いころは名前で悩んでいたこともある。

 さて、勝負だぞアメリア。俺がこのゲームに勝ったら、取りあえずは妻になってもらう」

「えぇ!?」

 気が緩んでいた所でとんでもないことを言われ、私は思わず、すっとんきょうな声を上げていた。

 結婚! ですって!? 魔王さまと!?

「いつまでも魔王の客人でいる訳にもいくまい」

「そ……それもそうなのですが……」

 ほとほと困ってしまった私は、胸の前で赤毛をクルクルと指先に巻きつける。

「では等価交換といこう。妻になれば、この城を自由に歩いていいし、望む時に望むことをさせてやろう」

「うーん……。はい……」

 提示された内容は、ほんらい人に許された自由な行動だ。でも私が魔王さまのお城に生贄として来たことを考えると、それは本来なら手の届かないほどの優遇に思える。

 かくして私は魔王さまと記念すべき一戦目をし、見事に負けたのだった。

 顔が良くて頭もいいとは、さすが魔王さまです。



**



 その夜は与えられた部屋でお姫さまのようなナイトドレスを着て、フカフカのベッドで眠った。

 翌朝はどこで焼いたのか焼き立てのパンに新鮮なサラダ、美味しいスープにミルクという朝食だ。

 いつのまにか部屋にあったトルソーには、どこかの国のお姫さまが着るような立派なウェディングドレス――けれど黒――が着せられていた。

 この早さでドレスを用意できるのも魔法の力なのよね。世の中のお針子さんは職を失いそうだわ。

 ドレスを見ながら思ったのは、これに腕を通してしまえばもう元には戻れないこと。

 元に戻れないといっても、空中に浮いたお城にいるなら戻りようもないんだけれど。

「不安ですか?」

 それを察したのか、イグニスさんが私を見てくる。

「……正直に言えば不安がないとは言い切れません。魔王さまがいい方だと分かっていても、まだ怖いと思ってしまう自分がいるんです」

「環境が変わって不安になる気持ちはお察しします。ですがときには環境もろともご自身を変える勇気も必要です。

 なにより正式に魔王さまの妻となれば、あなたはこの城の女主になり、私の主にもなります。そうすればこの城でも過ごしやすくなるのではないですか?」

 きっとイグニスさんの言う通り、このまま軟禁のような生活を送り続けるのなら、いつか自分が爆発するなり病んでしまうのは目に見えている。

 だったら今はいうことを聞いて、ある程度の自由を手に入れた方がいいのではないかと思った。

 生贄として村を出た以上戻れないし、物理的にも戻れない。

 加えて私には母さんを探したいという目標がある。突然消えてしまった母さんを探せるのは、人ならざる力を持った魔王さましかいない気がする。

 だから私は、魔王さまとの結婚を決意した。



**



 そして、お城の一番上の空中庭園のようなホールで、天井にあるステンドグラスから七色の光が差し込むなか、私と魔王さまは式を挙げた。

 立ち会うのはイグニスさんだけという状況で、指輪の交換をしてキスをする。

 彼の整いすぎる顔が近づくとき、私は体ごと心臓が爆発するのではと思った。

 けれど少し冷たい指先が私の唇をなぞったあとに訪れたのは、柔らかい唇の感触だった。

 初めてキスというものをして、男性の――魔王さまの唇がこんなにも柔らかいということに感動した私は、青い目をパチクリと見開いたままという失態を犯した。

「……目を開いたままだったのか」

「……申し訳ございません」

 間違えていたのかな? と思うと恥ずかしく、うつむきかけた私の顎を魔王さまの長い指が捉え、またキスをする。

「では今日よりよろしく頼む。わが妻よ」

「は……、はい。魔王さま」

「夫なのだから名前で呼べ」

「エ……エデンさま」

「様はいらん」

「エデン」

「よろしい」

 そうして、私とエデンは夫婦になった。
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