【R-18】魔王の生贄に選ばれましたが、思いのほか溺愛されました

臣桜

文字の大きさ
上 下
10 / 38

私とゲームをしませんか?

しおりを挟む
「悪魔には悪魔の食べ物があるが、こちらの世界の物を人間界に持ちこむわけにもいかない。だから、定期的に作物や家畜を徴収して、魔力を通して生産や繁殖をさせている。この城の下層部分は大体そういう場所になっている」

「魔法で……? 便利なんですね。……それで……、人は? ……人の生贄は……どうなっているんですか?」

 私の問いに魔王さまは少し考えてから、「食事中の話題に、生贄のことはあまりふさわしくないな」と言って詳しく答えることはなかった。

 それもそうだと思いつつ、今までの彼の言動から、私は自分がすぐに殺されて食べられる、または酷いことをされる恐れはなさそうだと検討をつけた。

 そう思うと、安心して気持ちも少しすわってくる。

「では、あと一つだけ教えてください。私の前に生贄とされた、シスタージェシカはご存知ですか?」

 真っすぐに彼の目を見つめて尋ねると、彼は考えるそぶりもなくすぐに「いいや、知らない」と返事をした。

「……そう、ですか」

 でも村の人は、母さんは魔王の生贄になったということを言っていたし……、どうなっているのかしら?

 けれどこれ以上魔王さまが避けることばかり質問していても、ご機嫌を損ねてしまうかもしれない。

 そして、私は賭けに出る。

「魔王さま、一つ私のお願いを聞いてくださいませんか?」

「何だ?」

 私だけが食事をする食卓で、私は自分のなかでとてもいい思いつきだと思う提案をした。

「私とゲームをしませんか? もちろん、あらゆる面で秀でていらっしゃる魔王様が勝たれるのは承知しています。ですが、そんななか私が万が一勝てば、私の望みを聞いてほしいのです」

「望みとは?」

 彼は面白そうに眉を上げ、形のいい顎に指を当てる。

「私を……ここから逃がしてください。そして、シスタージェシカという人物をどうしても探し出したいのです」

「……いいだろう。では、その逆は? 俺が勝っても何の褒美もなしか?」

 悠然とした魔王さまの返事に、私は一瞬言葉をつまらせる。たしかに魔王さまの言う通りで、これじゃあ一方的すぎる。

「では……、私がなんど挑んでも勝てないと悟って諦めたときは……、どうぞこの身をご自由にしてください。それまでは、一つ負けるごとに何か一つ……小さな願いを叶えます」

「ふぅん……、約束だぞ?」

 私が提示した条件が面白かったのか、彼は薄い唇で笑ってから、やや機嫌が良さそうにワインを口にした。

「では、食後に一つボードゲームをしよう。俺もゲームの類は興味があって、あらゆる国の物を取りそろえてある」

「はい! 負けませんよ!」

 意気込んだ私が頷くと、彼は魅力的に目を細めて笑ってから「まずは腹を満たせ」と食事を勧めてきた。

 ……何だか調子が狂ってしまうけれど、毒が入っていなくて、これが私を太らせて食べるための食事でないのなら、遠慮なく食べてしまいましょう。

 そう思って私は旺盛な食欲を見せ、その様子を魔王さまが向かいで優しい表情で見守っているのには、気づいていないのだった。



**



 食後、約束通りに私たちはボードゲームをすることになり、別の部屋へとまた移動する。

「そう言えば、魔王さまってお名前は何とおっしゃるんですか? イグニスさんにもお名前があるんですから……、魔王さまにもありますよね?」

 素朴な疑問を口にすると、隣を歩いている彼は随分難しい顔をしてしまった。何かまずいことでも訊いてしまったのかしら?

「……そう、だな。俺はお前をアメリアと呼んでいるのに、お前が俺を魔王さまと呼ぶのは、いささか不平等だな」

「…………」

 魔王である彼が人間の小娘の私に対して、不平等であることに悩むのはとても意外だった。

 もっと高慢で強引でもいいのにと思うけど、この魔王さまはとても思慮深い。

 だから――、相手が魔王さまだというのに少し惹かれている自分がいたのは、自分自身にすら内緒にしたい。

 ただ格好いいだけじゃなくて、優しいっていうのはとても……魅力的に思える。

 そんな私の胸中を知らず、彼は改めて自分の名を名乗る。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

男装騎士はエリート騎士団長から離れられません!

Canaan
恋愛
女性騎士で伯爵令嬢のテレサは配置換えで騎士団長となった陰険エリート魔術師・エリオットに反発心を抱いていた。剣で戦わない団長なんてありえない! そんなテレサだったが、ある日、魔法薬の事故でエリオットから一定以上の距離をとろうとすると、淫らな気分に襲われる体質になってしまい!? 目の前で発情する彼女を見たエリオットは仕方なく『治療』をはじめるが、男だと思い込んでいたテレサが女性だと気が付き……。インテリ騎士の硬い指先が、火照った肌を滑る。誰にも触れられたことのない場所を優しくほぐされると、身体はとろとろに蕩けてしまって――。二十四時間離れられない二人の恋の行く末は?

処理中です...