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私とゲームをしませんか?

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「悪魔には悪魔の食べ物があるが、こちらの世界の物を人間界に持ちこむわけにもいかない。だから、定期的に作物や家畜を徴収して、魔力を通して生産や繁殖をさせている。この城の下層部分は大体そういう場所になっている」

「魔法で……? 便利なんですね。……それで……、人は? ……人の生贄は……どうなっているんですか?」

 私の問いに魔王さまは少し考えてから、「食事中の話題に、生贄のことはあまりふさわしくないな」と言って詳しく答えることはなかった。

 それもそうだと思いつつ、今までの彼の言動から、私は自分がすぐに殺されて食べられる、または酷いことをされる恐れはなさそうだと検討をつけた。

 そう思うと、安心して気持ちも少しすわってくる。

「では、あと一つだけ教えてください。私の前に生贄とされた、シスタージェシカはご存知ですか?」

 真っすぐに彼の目を見つめて尋ねると、彼は考えるそぶりもなくすぐに「いいや、知らない」と返事をした。

「……そう、ですか」

 でも村の人は、母さんは魔王の生贄になったということを言っていたし……、どうなっているのかしら?

 けれどこれ以上魔王さまが避けることばかり質問していても、ご機嫌を損ねてしまうかもしれない。

 そして、私は賭けに出る。

「魔王さま、一つ私のお願いを聞いてくださいませんか?」

「何だ?」

 私だけが食事をする食卓で、私は自分のなかでとてもいい思いつきだと思う提案をした。

「私とゲームをしませんか? もちろん、あらゆる面で秀でていらっしゃる魔王様が勝たれるのは承知しています。ですが、そんななか私が万が一勝てば、私の望みを聞いてほしいのです」

「望みとは?」

 彼は面白そうに眉を上げ、形のいい顎に指を当てる。

「私を……ここから逃がしてください。そして、シスタージェシカという人物をどうしても探し出したいのです」

「……いいだろう。では、その逆は? 俺が勝っても何の褒美もなしか?」

 悠然とした魔王さまの返事に、私は一瞬言葉をつまらせる。たしかに魔王さまの言う通りで、これじゃあ一方的すぎる。

「では……、私がなんど挑んでも勝てないと悟って諦めたときは……、どうぞこの身をご自由にしてください。それまでは、一つ負けるごとに何か一つ……小さな願いを叶えます」

「ふぅん……、約束だぞ?」

 私が提示した条件が面白かったのか、彼は薄い唇で笑ってから、やや機嫌が良さそうにワインを口にした。

「では、食後に一つボードゲームをしよう。俺もゲームの類は興味があって、あらゆる国の物を取りそろえてある」

「はい! 負けませんよ!」

 意気込んだ私が頷くと、彼は魅力的に目を細めて笑ってから「まずは腹を満たせ」と食事を勧めてきた。

 ……何だか調子が狂ってしまうけれど、毒が入っていなくて、これが私を太らせて食べるための食事でないのなら、遠慮なく食べてしまいましょう。

 そう思って私は旺盛な食欲を見せ、その様子を魔王さまが向かいで優しい表情で見守っているのには、気づいていないのだった。



**



 食後、約束通りに私たちはボードゲームをすることになり、別の部屋へとまた移動する。

「そう言えば、魔王さまってお名前は何とおっしゃるんですか? イグニスさんにもお名前があるんですから……、魔王さまにもありますよね?」

 素朴な疑問を口にすると、隣を歩いている彼は随分難しい顔をしてしまった。何かまずいことでも訊いてしまったのかしら?

「……そう、だな。俺はお前をアメリアと呼んでいるのに、お前が俺を魔王さまと呼ぶのは、いささか不平等だな」

「…………」

 魔王である彼が人間の小娘の私に対して、不平等であることに悩むのはとても意外だった。

 もっと高慢で強引でもいいのにと思うけど、この魔王さまはとても思慮深い。

 だから――、相手が魔王さまだというのに少し惹かれている自分がいたのは、自分自身にすら内緒にしたい。

 ただ格好いいだけじゃなくて、優しいっていうのはとても……魅力的に思える。

 そんな私の胸中を知らず、彼は改めて自分の名を名乗る。
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