【R-18】魔王の生贄に選ばれましたが、思いのほか溺愛されました

臣桜

文字の大きさ
上 下
2 / 38

私のこと

しおりを挟む
 私は孤児だ。

 大好きな母さん――シスタージェシカが、孤児院の前に捨てられていた私を拾ってくれた。

「この子をよろしくお願いします」はおろか、名前を書いたメモすらもない私に、アメリアという名前をつけてくれたのも母さんだ。

 私が住んでいる村は、全体で八十人もいないぐらいの小さな村。

 母さんよりも年上のシスターサマンサが村の一軒一軒を訪ね歩いても、だれも私の身の上を知っている人はいなかった。

 宿と食堂をかねている店が二軒あり、その片方の主が言うには、お腹が大きい女性とその夫なのか従者なのか、付きそいの男性が二人泊まっていたそうだ。

 宿のおかみさんは、女性のお腹の子のことを心配していたらしい。
 けれど、産婆を呼ぶ間もなく真夜中に赤ん坊は生まれ、その数日後に男女は姿を消した。

 そして、カゴに入れられた女の子だけが修道院の前に置き去りにされた。

 なんというか――ありきたりと言えばありきたり。けれど捨てられた子供にとっては、とんでもない話。
 それがどうやら私の身の上のようだ。

 男女を追いかけようにも、出産してすぐに馬車で村を離れたらしい。

 シスターサマンサが村長に報告をして、村人が近くの村や町まで探しに行っても、二人のゆくえは分からなかった。

「これも神のおぼしめしです」と優しいシスター二人は、ほかの子と同じように愛情と神の愛を説いて私を育ててくれた。

 私が「母さん」と呼んでなついていたシスタージェシカは、覚えている限り二十代後半ぐらいの美しい人だった。
 ハチミツ色の金髪に、聖母を思わせるうっとりとした眼差しは、いつまでも見つめていたいぐらいの美貌だ。

 彼女の美しさが村の男性の目をひいて孤児院を個人的に助けてもらえていたのも、全体的に見ればいいことなのかもしれない。

 男性がシスターの容姿に惹かれて……と聞けば、女性はいい顔をしないかもしれない。

 でも母さんは老若男女とわずに誰にでも優しい人で、結果的に孤児院と村との関係はうまくいっていたのだと思う。

 私は母さんに文字や計算、色んなことを教わり、なにより楽しかったのはゲームだ。
 寄付されたボードゲームには知らない国のものもあり、ほかにも村で流行っている体を使ったゲームや、みんなで考えたゲームなど遊ぶに困らない。

 自由時間にみんなで一緒に遊んだゲームの思い出は、私の中で一番幸せな母さんとの記憶になっている。

 そうやって私はスクスクと育ち、予定では十八になって成人すれば、近くの街にある神学校に入る予定だった。

 母さんの勉強の教え方が上手で、自分のことだけれども私の覚えもいいほうだったから、みんなが期待してくれていた。

 有頂天になった私は、自分が母さんのような立派で美しいシスターになって、同じように孤児院の子の面倒をみる将来を疑わなかった。




 けれど、転機は私が十歳になった時。

 母さんがいなくなった。

 孤児院の大きな子供たちと村の青年団とで、近隣の山まで一泊二日のキャンプに行っていたあいだ、母さんは神隠しに遭ったように姿を消してしまったのだ。

 小さな子たちに話を聞いても、もちろん求める答えは得られない。大人たちに聞いても言葉を濁される。

 モヤモヤとしたまま数年たって今に至るまで、漠然とした村人たちの「噂」から、母さんは「魔王」と呼ばれる存在の生贄になり、連れ去られたということが分かった。

 魔王……だなんて、王さまが治めるこの国で言われてもいまいちピンとこない。

 悪魔の角や羽がはえていて、地獄の業火を操ったりする神さまの敵。

 いままで悪戯をして怒られる時に「そんなことをしていると、魔王に連れ去られますよ」と言われても、魔王なんていないものだと思っていた。

 けれどもし、本当に魔王がいるのだとしたら――。

 この世界に「絶対」なんてものはない。

 私が信じる神さまを「そんなの絶対いねぇよ!」という憎たらしい村の子が言うように、魔王だって「絶対いない」わけじゃないかもしれない。

 何かの本質を見極めようとするとき、疑うのはいいことだと母さんが言っていた。

 だから私はこの小さな村という私の世界の中で、魔王の気配がしないかじっと目を凝らすようにしたのだ。




「それ」を最初に見つけたのは十二歳の初夏。

 小麦を収穫する時期に、刈りとった跡地にふしぎな焼けこげ跡を見つけた。文字のようで、私には分からない文字。

 そのあとに気をつかって見てみれば、村のあちこちにその文字を見つけた。

 あるときは盛り上がった土をならした跡だったり、あるいは豚小屋の柱に小さく刻まれているのを見つけた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

処理中です...