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序章 ☆
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夜闇をあえかに震わせる女の声がする。
「あ……、あ。怖い……です……っ」
同時に男と女の切なげな吐息が混じる音もした。
赤紫色を地にに金糸でたっぷりと精緻な文様が刻まれた寝台で、体の大きな男が肉食獣のように華奢な女を押し倒していた。
白い素肌が透けてしまう夜着を纏った彼女は、あっけなく開かれ晒された胸を上下に弾ませる。
与えられる口づけも、無骨な男の指が醸し出すと思えない繊細な快感も、すべて彼女には初めてのものだった。
「怖くない。……俺を恐れるのは仕方がないが、どうか魂まで判断しないでくれ」
熱っぽい声で囁いた後、男はまた女に覆い被さり唇を奪った。
「う……ン。……ぁ、はぁ……っ」
肉厚な舌がねっとりと口腔を這い、彼女の腰から首筋までをゾクゾクとした快楽が駆け抜けていった。
男の両手は年齢の割にたっぷり実った彼女の胸を揉み、時折指先でコロコロと赤く色づいた蕾を転がす。
「あゃ……ん、そこ……弄らないでください……っ」
ピクピクと敏感に震える彼女は、知らずと甘くなる自分の声にすら怯えていた。
口から突いて出る嬌声は、艶めかしく甘ったるくて自分のものと思えない。「これは聞いてはいけないモノだ」と思い両手で耳を塞いでしまうと、男にさらに口づけられ驚いて手を離した。
耳を塞いでいるからか、口腔で絡まった舌のぐちゅりという音が、そのまま頭蓋に響いてきたのだ。ぐちゅり、くちゃくちゃとあまりにも淫らな音が響き、音だけで自分の体が一層淫奔なものに変わってしまった気がする。
「どこになら触れてもいいんだ?」
はぁ……と濡れた唇から吐息を漏らし、男が上体を起こす。
こんなに美しい男は見た事がない。
彼女――アンバーはつくづく思う。
カーテンを閉めていない寝室に、冴え冴えとした月光が差し込んでいる。幾つもの蝋燭の明かりに照らされ、男の裸身に溜め息が出るほど美しい陰影が刻まれていた。
分厚い胸板にみっしりと筋肉のついた腹部。肩は頑強で、腕も首も信じられないぐらい太い。だというのにその上に乗っている顔は、凄絶なまでに美しいのだ。
――いや、たった一つだけ難を言うのなら、体に刻まれた傷跡が少し恐ろしい。
怪我をしたという事は、彼が荒っぽい所に身を置いている証拠だ。
アンバーが連れて来られたこの屋敷は、見たところ贅を凝らした美しい場所だけれども、彼女の〝主〟となった彼が何者かはいまだ分からない。
分かるのは、とても背が高く鍛え抜かれた体をしている事。年の頃は二十代半ばほど。冬の夜空に光る青白い恒星のような色の目をし、濡れ羽色の髪はツヤツヤと真っ直ぐで少し長めだ。
傷跡は古いものから新しいものまで、大小様々だ。
一匹の優美な肉食獣かと思われる彼に組み敷かれ、二十一歳のアンバーが怯えない理由があったら、誰か教えてほしい。
「……もう一度訊く。どこに触れたら、お前は悦ぶ?」
「……よ、よろこぶの意味が少し……」
房事になどまったく縁のなかったアンバーは、恐る恐る男に言葉を返す。
けれど底冷えのする瞳に無言で睨まれ、「……申し訳ございませんでした」と小さく謝った。
「……いい。先ほども確認したが、男と睦み合うのは初めてなのだろう? ならば俺の方が知識はある。体に力を入れず、身を任せるといい」
恐ろしいと思った印象に拘わらず、彼の手は優しい。
胸を揉む時などは楽器を奏でているかのようで、五指が波打ってアンバーを攻め立てる。温かい手で包まれ、思わず安堵を覚えるというのにやはりどこか恐ろしい。
男の手が、唇が訪れるたびに、自分の体の深部から何か甘い蜜でもトロリと漏れている気がした。ジャムよりも甘いソレに、鋭敏な嗅覚を持った獣が反応していると思った。
「ア……、ソコ、だめ。です……っ」
胸部から臀部まで、男の両手が砂時計をなぞるように動く。
ツンと尖った胸の先端を口に含まれ、切ない吐息が漏れる。思わず男の頭に手を掛け、おずおずと押し返す。けれど太い首やしっかりとした肩を、アンバーの細腕でどうこうできる事はできなかった。
「ン……、んぅ。胸、だめぇ……」
立てば見上げるほどの巨躯だというのに、男は赤子と同じくちゅうちゅうと胸を吸う。
しかしその行為が無垢ゆえのものでないのは自明だ。チュパチュパと吸い立て、尖った場所を舌で弾き、存分に嬲っている。
その間も両手は淀みなく動き、アンバーのふっくらとした臀部を撫で上げ太腿を押し上げてしまった。
「ぁ、やぁ……っ、お願い……っ、それ以上は……っ」
名の通り琥珀色の目にたっぷり涙を溜めて乞うのだが、男は行為をやめてくれない。
「あの、……あの、私……っ。まだお嫁入り前なんですっ。婚約者がいて、その方に嫁ぎに行く途中なんです……っ」
ボロボロと涙を零し、アンバーは最後の懇願をする。
だが男は彼女を見下ろすと、残酷な言葉を呟いた。
「お前はもう、俺のものだ。金を払いお前を買った。……どうするかは俺が決める」
そしてとうとう、男は秘められた場所に指を滑らせた。
「っひぅう!」
チュク……と聞いた事のない水音が耳を打ち、あまりの羞恥にアンバーは悲鳴を上げていた。
誰にも触れる事を許さない場所だったのに、汚い所のはずなのに――。
男の剣だこができた硬い指先が粘膜を撫で上げただけで、アンバーはビクンと体を震わせた。
「こんなに蕩けさせておいて、何を言っているんだ?」
揶揄する声が憎たらしい。
「……っ、きらいっ」
涙で歪んだ声に、男は皮肉げに笑う。
「買われた身と買った側。正当な出会いではないだろう。もとより純愛を受けられるとは思っていない」
ある種の覚悟を据えた言葉の裏に、悲しそうな色があったのをアンバーは気づけなかった。
くちゅりと花弁がくつろげられ、異物――男の指が入ってくる。
「……ン、あ、ぁ、……ぁっ」
背中を丸めたり反らしたり。何とか体を揺すぶって逃げようとするのだが、組み敷かれた体はびくともしない。
「怖がるな。じきに好くなるはずだ」
聞き分けのない子にするように、男がキスをしてきた。
けれどアンバーはグスグスと洟を啜り――、自分の体が異質な何かに作り替えられていくのを憐れんでいた。
(どうしてこうなったのかしら……)
思えばいつでもアンバーは不幸だった。
彼女をからかう幼馴染みや意地悪ないとこなどは、『厄拾いのアンバー』と不名誉なあだ名までつけたほどだ。
確かに〝こう〟なってしまったのも、アンバーが持つ不幸な体質が引き寄せた顛末なのかもしれない。
けれど――。
(処女を失うまでの悪行をした覚えはないのだけれど……)
横を向いたまま涙が零れ、鼻筋を越えた右目の涙が左目に入った。
「あ……、あ。怖い……です……っ」
同時に男と女の切なげな吐息が混じる音もした。
赤紫色を地にに金糸でたっぷりと精緻な文様が刻まれた寝台で、体の大きな男が肉食獣のように華奢な女を押し倒していた。
白い素肌が透けてしまう夜着を纏った彼女は、あっけなく開かれ晒された胸を上下に弾ませる。
与えられる口づけも、無骨な男の指が醸し出すと思えない繊細な快感も、すべて彼女には初めてのものだった。
「怖くない。……俺を恐れるのは仕方がないが、どうか魂まで判断しないでくれ」
熱っぽい声で囁いた後、男はまた女に覆い被さり唇を奪った。
「う……ン。……ぁ、はぁ……っ」
肉厚な舌がねっとりと口腔を這い、彼女の腰から首筋までをゾクゾクとした快楽が駆け抜けていった。
男の両手は年齢の割にたっぷり実った彼女の胸を揉み、時折指先でコロコロと赤く色づいた蕾を転がす。
「あゃ……ん、そこ……弄らないでください……っ」
ピクピクと敏感に震える彼女は、知らずと甘くなる自分の声にすら怯えていた。
口から突いて出る嬌声は、艶めかしく甘ったるくて自分のものと思えない。「これは聞いてはいけないモノだ」と思い両手で耳を塞いでしまうと、男にさらに口づけられ驚いて手を離した。
耳を塞いでいるからか、口腔で絡まった舌のぐちゅりという音が、そのまま頭蓋に響いてきたのだ。ぐちゅり、くちゃくちゃとあまりにも淫らな音が響き、音だけで自分の体が一層淫奔なものに変わってしまった気がする。
「どこになら触れてもいいんだ?」
はぁ……と濡れた唇から吐息を漏らし、男が上体を起こす。
こんなに美しい男は見た事がない。
彼女――アンバーはつくづく思う。
カーテンを閉めていない寝室に、冴え冴えとした月光が差し込んでいる。幾つもの蝋燭の明かりに照らされ、男の裸身に溜め息が出るほど美しい陰影が刻まれていた。
分厚い胸板にみっしりと筋肉のついた腹部。肩は頑強で、腕も首も信じられないぐらい太い。だというのにその上に乗っている顔は、凄絶なまでに美しいのだ。
――いや、たった一つだけ難を言うのなら、体に刻まれた傷跡が少し恐ろしい。
怪我をしたという事は、彼が荒っぽい所に身を置いている証拠だ。
アンバーが連れて来られたこの屋敷は、見たところ贅を凝らした美しい場所だけれども、彼女の〝主〟となった彼が何者かはいまだ分からない。
分かるのは、とても背が高く鍛え抜かれた体をしている事。年の頃は二十代半ばほど。冬の夜空に光る青白い恒星のような色の目をし、濡れ羽色の髪はツヤツヤと真っ直ぐで少し長めだ。
傷跡は古いものから新しいものまで、大小様々だ。
一匹の優美な肉食獣かと思われる彼に組み敷かれ、二十一歳のアンバーが怯えない理由があったら、誰か教えてほしい。
「……もう一度訊く。どこに触れたら、お前は悦ぶ?」
「……よ、よろこぶの意味が少し……」
房事になどまったく縁のなかったアンバーは、恐る恐る男に言葉を返す。
けれど底冷えのする瞳に無言で睨まれ、「……申し訳ございませんでした」と小さく謝った。
「……いい。先ほども確認したが、男と睦み合うのは初めてなのだろう? ならば俺の方が知識はある。体に力を入れず、身を任せるといい」
恐ろしいと思った印象に拘わらず、彼の手は優しい。
胸を揉む時などは楽器を奏でているかのようで、五指が波打ってアンバーを攻め立てる。温かい手で包まれ、思わず安堵を覚えるというのにやはりどこか恐ろしい。
男の手が、唇が訪れるたびに、自分の体の深部から何か甘い蜜でもトロリと漏れている気がした。ジャムよりも甘いソレに、鋭敏な嗅覚を持った獣が反応していると思った。
「ア……、ソコ、だめ。です……っ」
胸部から臀部まで、男の両手が砂時計をなぞるように動く。
ツンと尖った胸の先端を口に含まれ、切ない吐息が漏れる。思わず男の頭に手を掛け、おずおずと押し返す。けれど太い首やしっかりとした肩を、アンバーの細腕でどうこうできる事はできなかった。
「ン……、んぅ。胸、だめぇ……」
立てば見上げるほどの巨躯だというのに、男は赤子と同じくちゅうちゅうと胸を吸う。
しかしその行為が無垢ゆえのものでないのは自明だ。チュパチュパと吸い立て、尖った場所を舌で弾き、存分に嬲っている。
その間も両手は淀みなく動き、アンバーのふっくらとした臀部を撫で上げ太腿を押し上げてしまった。
「ぁ、やぁ……っ、お願い……っ、それ以上は……っ」
名の通り琥珀色の目にたっぷり涙を溜めて乞うのだが、男は行為をやめてくれない。
「あの、……あの、私……っ。まだお嫁入り前なんですっ。婚約者がいて、その方に嫁ぎに行く途中なんです……っ」
ボロボロと涙を零し、アンバーは最後の懇願をする。
だが男は彼女を見下ろすと、残酷な言葉を呟いた。
「お前はもう、俺のものだ。金を払いお前を買った。……どうするかは俺が決める」
そしてとうとう、男は秘められた場所に指を滑らせた。
「っひぅう!」
チュク……と聞いた事のない水音が耳を打ち、あまりの羞恥にアンバーは悲鳴を上げていた。
誰にも触れる事を許さない場所だったのに、汚い所のはずなのに――。
男の剣だこができた硬い指先が粘膜を撫で上げただけで、アンバーはビクンと体を震わせた。
「こんなに蕩けさせておいて、何を言っているんだ?」
揶揄する声が憎たらしい。
「……っ、きらいっ」
涙で歪んだ声に、男は皮肉げに笑う。
「買われた身と買った側。正当な出会いではないだろう。もとより純愛を受けられるとは思っていない」
ある種の覚悟を据えた言葉の裏に、悲しそうな色があったのをアンバーは気づけなかった。
くちゅりと花弁がくつろげられ、異物――男の指が入ってくる。
「……ン、あ、ぁ、……ぁっ」
背中を丸めたり反らしたり。何とか体を揺すぶって逃げようとするのだが、組み敷かれた体はびくともしない。
「怖がるな。じきに好くなるはずだ」
聞き分けのない子にするように、男がキスをしてきた。
けれどアンバーはグスグスと洟を啜り――、自分の体が異質な何かに作り替えられていくのを憐れんでいた。
(どうしてこうなったのかしら……)
思えばいつでもアンバーは不幸だった。
彼女をからかう幼馴染みや意地悪ないとこなどは、『厄拾いのアンバー』と不名誉なあだ名までつけたほどだ。
確かに〝こう〟なってしまったのも、アンバーが持つ不幸な体質が引き寄せた顛末なのかもしれない。
けれど――。
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