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第二十三部・幸せへ 編

NYへ戻る手段

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「……これからはずっと一緒だね」

 繋いだ手のぬくもりを感じた香澄は、幸せそうに笑う。

「ああ」

 佑は嬉しそうに目を細め、河野を呼ぶ。

「すまない、桜を背景に記念写真を頼んでも構わないか?」

「ええ、勿論」

 相変わらず河野は表情一つ変えずに答え、二人にスマホを向ける。

「いきますよ。ハイ、リア充」

 いつぞやのスペインの時と同じかけ声を言われ、香澄は思わず笑い崩れた。

 そのあと香澄は佑に尋ねられ、彼がいない間、NYのどこを観光し、何を食べたかなどを話す。

 表向き空白の期間を埋めるための質問だと思ったが、これからNYに戻る事を思うと、同じ場所に行かないよう配慮するためかもしれないと思った。

 何せ仲直りした今は、だだ甘の婚約者が復活している。

「御劔の〝み〟は貢ぎの〝み〟」とでも言いそうな彼の事を思うと、エンタメの街NYで香澄をどう甘やかすか今から考えているに決まっている。

 佑は家族全員に叱られた事を穏やかに話し、香澄はなんと反応すべきか考えながら相槌を打っていた。

「慰めようと思わなくていいよ。全部俺が悪いから」

 そう言った佑はとてもスッキリした顔をしていて、もう何を言っても彼の中では結論が出ているのだと感じる。

「佑さんの気持ちは分かるけど、……でもあまり自分を悪者にしなくていいからね?」

 念を押すと、彼はキュッと手を握ってくる。

「分かってるよ。あまり言い過ぎると香澄も気にしてしまうだろうし」

「うん。今は空白の時間を取り戻すために、二人で楽しく過ごしたい」

 そう言うと、佑は嬉しそうに笑って香澄の手をギュッと握り、引き寄せた。





 その後、麻衣とマティアスがいつNYに着くのかを確認し、それに合わせてNYに戻る事にした。

「ねぇ、佑さん。一つ我が儘を言ってもいい?」

 NYに戻る二日前、香澄は朝食ビュッフェの席でおねだりをしてみる事にした。

「なんだ?」

 我が儘と言ったのに、途端に嬉しそうに目を輝かせるのが御劔佑という男だ。

「佑さんのリッチな飛行機に乗せてもらえるのはありがたいんだけど、もし大丈夫だったら電車に乗ってみたいな。せっかくのアメリカだから、窓から景色を見て移動してみたいの」

 そう言うと、佑は初めて気づいたように目を見開き、何度か頷いた。

「よし、河野。アセラのファーストを人数分押さえてくれ」

「かしこまりました」

 佑がパキンと指を鳴らし、河野が答えるので、不覚にも「漫画でよく見る金持ちあるあるか!」と笑いたくなってしまった。

 むふふ……、とニヤニヤしていると、佑が不思議そうに顔を覗き込んでくる。

「ううん、なんでもない。嬉しいの」

 そう言うと、佑はまだ謎が解明していないながらも頷いた。

「アセラって何?」

「日本で言うJRみたいなのを、アムトラックって言うんだが、路線によって名前が違うんだ。カナダに向かう路線はカスケード号、NYからモントリオールを走るのをアディロンダック号とか。アセラ号は東海岸のボストンからワシントンDCを結んでいるんだ」

「へぇ~! 全部制覇してみたい!」

 うっかり口走ってから、香澄は慌てて口を噤む。

 こんな事を言えば、付き合ってくれかねない。

 多忙を極めている人を電車の旅に付き合わせるなど、申し訳なくてできない。

「いつかね、いつか。ファーストはどう違うの?」

 すかさず質問をすると、佑は意識をそちらに移してくれる。

「シートがゆったりしているのと、食事がついている事ぐらいかな。他のアムトラックは十時間ぐらいかかる事もあるから、寝台車があるし、ビジネスクラスの他に、エコノミークラスに相当するコーチクラスもある。でもアセラは数時間で端から端についてしまうから、寝台車はないし、ビジネスとファーストだけだ。場所的に、ビジネス目的で利用する人が多い」

「なるほど。新幹線みたいなものかな」

「うん、どっちかというとスピード的には特急が近いかな。新幹線並みの速度を出せる区間もあるけど、それ以外は割と遅いんだ」

「ふんふん」

 佑の物知り加減に感心していると、クラウスが言った。

「僕らは先に飛行機で移動してるかな。その間、NYで仕事ができるから」

「あっ、ど、どうぞ!」

 慌てて頷いた香澄は、佑の仕事の邪魔をしていないか心配になり、チラッと彼を見る。
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