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第二十三部・幸せへ 編

少しずつ日常に戻っていこう

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 落ち着いた頃、佑はベッドですやすや眠る香澄を横に、ヘッドボードにもたれかかってスマホを見ていた。

 双子と妹からは、思っていた通りのメッセージがきていた。

【久しぶりだからってがっつくなよ】

【僕らはカスミの保護者だし、彼女がチェックインしたのはこっちの部屋なんだから、ちゃんと返してよね】

 それを見て、佑は苦笑いする。

「いつから保護者になったんだよ」

 妹からはこうだ。

【香澄さんの足腰が立たなくなるまでしないでよね。婚約者だから愛し合うのは自由だけど、今まで彼女を守ってきた私たちを差し置いて、好き勝手に振る舞うなんて許さないんだから。今夜だけは大目に見るけど、イチャイチャするのは東京に帰ったあとにしたら?】

 確かに、澪の言う事には一理ある。

 クラウスの〝保護者〟という言葉にも物申したいが、彼らが今まで香澄を守ってくれていたのは事実だ。

(……どうやってお礼をすべきかな)

 溜め息をついて微笑んだ時、スマホが振動して新たなメッセージが入った。

 相手は、マティアスだった。

(珍しいな)

 ずっと香澄の事ばかり考えて過ごしていたので、そういえば彼はまだ麻衣のために日本に滞在にしているのだろうか、と今さらな事を考える。

(……にしても、ビザはギリギリのはずだったが)

 そう思って彼からのメッセージを開くと、少し意外な事が書かれてあった。

【その後、無事カスミとは出会えただろうか。俺はこれからマイと婚前旅行もかねて日本を発とうとしている。マイは平気なふりをしているが、ずっとカスミとろくに会えておらず心配している。カイがカスミと会えたのならだが、今いる場所を教えてほしい。ドイツなら話が早いが、ヨーロッパ内、アメリカだとしても割とすぐ行けると思う。マイを俺の両親に会わせたい気持ちはあるが、その前にカスミに会わせてあげたい】

 マティアスらしいメッセージを受け取り、佑は溜め息をつく。

(確かにその通りだ。香澄が日本から離れたのは、元はと言えば俺が彼女を拒絶したからだ。こちら都合で麻衣さんまでとばっちりを食らって、いい迷惑だろう)

 そして、自分は何よりも香澄が喜ぶ姿を見たい。

 彼女と二人きりで過ごす時間は、これから幾らでも設けられる。

 だが結婚したあと、家に縛り付けるつもりはないし自由に過ごしてほしいが、すべて独身時代のようにはいかないだろう。

(なら……)

 窓から差し込むライトの明かりに照らされた佑は、トントンとスマホをタップしていく。

【今、ワシントンDCにいる。桜祭りのために来ているから、もう少ししたらNYに戻ると思う。落ち合うならNYにしよう】

 そうメッセージを送ると、すぐに【分かった】と返事があった。

 佑は枕元にある愛用の時計を手に取り、ワールドタイムを確認する。

 普通の時計とは異なった文字盤なので、香澄はいつも覗き込んでは首を傾げていたが、慣れると各国の主要都市の時間が一発で分かる優れものだ。

 日本はいま午後で、マティアスの口ぶりからして、すぐに行き先を決定してチケットを手配していそうだ。

(……少しずつ日常に戻っていこう。香澄は俺の側にいてもう離れない。あとは皆に報告して、幸せになるだけだ)

 スマホを置いた佑は、あどけない香澄の寝顔を見て微笑む。

 いつまでも彼女の寝顔を見ていたいが、寝不足になって明日ろくにデートすらできなくなったら、格好悪いでは済まない。

(もう少しこの時間を楽しみたいけど……)

 佑は静かに息を吐き、布団に潜り込むと香澄の体に腕を回す。

「……おやすみ」

 彼は小さく告げると、香澄の頬にキスをして目を閉じた。



**



 翌日、フカフカのベッドで目覚めた香澄は、隣に佑がいるのを確認して心から安堵する。

(朝一番から、世界で一番豪華な寝顔、いただきました)

 両手の前で手を合わせて佑の寝顔を見ていると、彼がパチッと目を開く。

「それは何のポーズ?」

「えっ? う、う……っ」

 うろたえた香澄は、両手を合わせたまま前後に揺らす。

 ――と、佑がプッと噴き出した。

「テレビで見た小型犬が『ちょうだい』って言われてそうしてたな」

「も、もぉ……っ」

 バッと両手を背中のほうに隠した香澄は、佑の胸板に顔面をぐりぐりと押しつける。

「佑さんなんて、こうなんだから!」

「あはは! 火が出る!」

 二人は朝からベッドの中でじゃれつき、笑い合う。
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