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第二十三部・幸せへ 編
まだ夢みたい
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「……お腹の傷は大丈夫?」
「傷痕はまだ残ってるけど、こうしてピンピンしてる」
佑は微笑んで答えたあと、香澄の髪をサラリと撫でて尋ねてきた。
「香澄は? 目にスプレーを掛けられていただろう」
「あの時、アロイスさんがすぐ対応して、目を水で洗い流してくれたの。ペットボトルの水を沢山掛けられたから、服とか髪とかびしょ濡れになっちゃったけど、でもそのお陰で回復が早かったと思う。私一人だったら、目を擦ってもっと悲惨な事になっていたんじゃないかな」
「……じゃあ、アロイスに感謝だな」
「うん。クラウスさんも、とても気を遣ってくれたよ」
「……ん……」
話しながら、佑は熱の籠もった目で香澄を見つめている。
香澄はその視線に気づきながらも、見つめ返したら流れが変わってしまいそうで、目を合わせられずにいた。
「香澄」
佑は彼女の名前を呼び、そっと耳に触れてくる。
彼女は少し首を竦め、前を向いたまま「なに?」と答えた。
「会いたかった」
何よりもシンプルな言葉を聞いた瞬間、様々な感情がグッとこみ上げてくる。
「……わ、私も、…………会いたかった」
とても、物凄く、感情がすり切れるぐらい今日の日を待ちわびていたつもりなのに、いざという時に最良の反応ができない自分が嫌だ。
(離れている間、何回も『再会できたらこう言おう』ってシミュレーションしていたのに)
とは言っても、香澄の想像していた再会パターンに今回のゲリラプロポーズは含まれておらず、そこから調子を崩されて混乱したままと言っていい。
「香澄、こっちを見て」
耳に触れる佑の親指が、やけに熱い。
これ以上ないぐらい胸を高鳴らせてゆっくり彼を見ると、佑はヘーゼルの目でジッとこちらを見つめていた。
「ウウ……」
久しぶりに佑の綺麗な目を直視してしまった香澄は、目をそらせずにくぐもった声を漏らす。
「……可愛い。相変わらず髪がサラサラで、肌が白くてすべすべしていて、目がとても綺麗だ。香澄ほど透明感のある女性を見た事がない」
「……た、佑さんもとても綺麗です」
離れていた期間は実際そう長くはないのに、とても長い間佑と会えていないような気持ちになり、彼のような美形に正面きって褒められると、照れくさくて堪らない。
そう言うと、佑はクスクス笑いだした。
「なんか、中学一年生で習う英語みたいだな」
「も、もぉ……」
むくれてみせてから、確かに「This is a pen.」みたいな事を言ってしまったと思い、つられて笑う。
空気が少し柔らかくなったところで、佑が尋ねてきた。
「沢山話したいけど、……その前にキスして抱き締めてもいいか?」
優しく尋ねられ、胸の奥からキューッと甘酸っぱい感情がこみ上げた香澄は、緊張しながら彼の腕の中に収まった。
その途端、フワッと佑の匂いに包まれ、衣服越しの温かな体にうっとりと目を細める。
同時に、この上ない引力を感じ、ほんの少しの怖れも覚えた。
香澄が少し表情を強張らせたからか、佑は気遣って尋ねてくる。
「嫌か? やっぱり『むしのいい事を言っている』と思ってる?」
「ううん! 違う!」
とっさに否定したあと、香澄は少しずつ今の自分の気持ちを言語化していった。
「……まだ夢みたいなの。今こうして目の前に佑さんがいて、全部終わってもう何にも怯えず幸せになっていい状況が、嘘みたいで……。これは夢で、寝て目が覚めたら船の中にいるかもしれない。……こうやって佑さんに触れているのに、また……っ、……全部の幸せが消えてしまうんじゃないか、って……」
説明しながら、香澄はポロポロと涙を零す。
「ごめんなさい、泣いて困らせたい訳じゃないの。……今まで、何度も、何度も、……幸せになれると信じたのに、谷底に落とされて、……っ、いつ幸せになれるか分からなくなってた……っ。誰よりも佑さんを信じてるのに、……運命が、怖い……っ」
香澄の言葉を聞き、佑は彼女の心に深い傷が刻まれているのを改めて知った。
「じゃあ、今日は徹夜する?」
「ん?」
悪戯っぽく尋ねられ、香澄は目を瞬かせる。
「傷痕はまだ残ってるけど、こうしてピンピンしてる」
佑は微笑んで答えたあと、香澄の髪をサラリと撫でて尋ねてきた。
「香澄は? 目にスプレーを掛けられていただろう」
「あの時、アロイスさんがすぐ対応して、目を水で洗い流してくれたの。ペットボトルの水を沢山掛けられたから、服とか髪とかびしょ濡れになっちゃったけど、でもそのお陰で回復が早かったと思う。私一人だったら、目を擦ってもっと悲惨な事になっていたんじゃないかな」
「……じゃあ、アロイスに感謝だな」
「うん。クラウスさんも、とても気を遣ってくれたよ」
「……ん……」
話しながら、佑は熱の籠もった目で香澄を見つめている。
香澄はその視線に気づきながらも、見つめ返したら流れが変わってしまいそうで、目を合わせられずにいた。
「香澄」
佑は彼女の名前を呼び、そっと耳に触れてくる。
彼女は少し首を竦め、前を向いたまま「なに?」と答えた。
「会いたかった」
何よりもシンプルな言葉を聞いた瞬間、様々な感情がグッとこみ上げてくる。
「……わ、私も、…………会いたかった」
とても、物凄く、感情がすり切れるぐらい今日の日を待ちわびていたつもりなのに、いざという時に最良の反応ができない自分が嫌だ。
(離れている間、何回も『再会できたらこう言おう』ってシミュレーションしていたのに)
とは言っても、香澄の想像していた再会パターンに今回のゲリラプロポーズは含まれておらず、そこから調子を崩されて混乱したままと言っていい。
「香澄、こっちを見て」
耳に触れる佑の親指が、やけに熱い。
これ以上ないぐらい胸を高鳴らせてゆっくり彼を見ると、佑はヘーゼルの目でジッとこちらを見つめていた。
「ウウ……」
久しぶりに佑の綺麗な目を直視してしまった香澄は、目をそらせずにくぐもった声を漏らす。
「……可愛い。相変わらず髪がサラサラで、肌が白くてすべすべしていて、目がとても綺麗だ。香澄ほど透明感のある女性を見た事がない」
「……た、佑さんもとても綺麗です」
離れていた期間は実際そう長くはないのに、とても長い間佑と会えていないような気持ちになり、彼のような美形に正面きって褒められると、照れくさくて堪らない。
そう言うと、佑はクスクス笑いだした。
「なんか、中学一年生で習う英語みたいだな」
「も、もぉ……」
むくれてみせてから、確かに「This is a pen.」みたいな事を言ってしまったと思い、つられて笑う。
空気が少し柔らかくなったところで、佑が尋ねてきた。
「沢山話したいけど、……その前にキスして抱き締めてもいいか?」
優しく尋ねられ、胸の奥からキューッと甘酸っぱい感情がこみ上げた香澄は、緊張しながら彼の腕の中に収まった。
その途端、フワッと佑の匂いに包まれ、衣服越しの温かな体にうっとりと目を細める。
同時に、この上ない引力を感じ、ほんの少しの怖れも覚えた。
香澄が少し表情を強張らせたからか、佑は気遣って尋ねてくる。
「嫌か? やっぱり『むしのいい事を言っている』と思ってる?」
「ううん! 違う!」
とっさに否定したあと、香澄は少しずつ今の自分の気持ちを言語化していった。
「……まだ夢みたいなの。今こうして目の前に佑さんがいて、全部終わってもう何にも怯えず幸せになっていい状況が、嘘みたいで……。これは夢で、寝て目が覚めたら船の中にいるかもしれない。……こうやって佑さんに触れているのに、また……っ、……全部の幸せが消えてしまうんじゃないか、って……」
説明しながら、香澄はポロポロと涙を零す。
「ごめんなさい、泣いて困らせたい訳じゃないの。……今まで、何度も、何度も、……幸せになれると信じたのに、谷底に落とされて、……っ、いつ幸せになれるか分からなくなってた……っ。誰よりも佑さんを信じてるのに、……運命が、怖い……っ」
香澄の言葉を聞き、佑は彼女の心に深い傷が刻まれているのを改めて知った。
「じゃあ、今日は徹夜する?」
「ん?」
悪戯っぽく尋ねられ、香澄は目を瞬かせる。
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