【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

文字の大きさ
上 下
1,533 / 1,559
第二十三部・幸せへ 編

まだ夢みたい

しおりを挟む
「……お腹の傷は大丈夫?」

「傷痕はまだ残ってるけど、こうしてピンピンしてる」

 佑は微笑んで答えたあと、香澄の髪をサラリと撫でて尋ねてきた。

「香澄は? 目にスプレーを掛けられていただろう」

「あの時、アロイスさんがすぐ対応して、目を水で洗い流してくれたの。ペットボトルの水を沢山掛けられたから、服とか髪とかびしょ濡れになっちゃったけど、でもそのお陰で回復が早かったと思う。私一人だったら、目を擦ってもっと悲惨な事になっていたんじゃないかな」

「……じゃあ、アロイスに感謝だな」

「うん。クラウスさんも、とても気を遣ってくれたよ」

「……ん……」

 話しながら、佑は熱の籠もった目で香澄を見つめている。

 香澄はその視線に気づきながらも、見つめ返したら流れが変わってしまいそうで、目を合わせられずにいた。

「香澄」

 佑は彼女の名前を呼び、そっと耳に触れてくる。

 彼女は少し首を竦め、前を向いたまま「なに?」と答えた。

「会いたかった」

 何よりもシンプルな言葉を聞いた瞬間、様々な感情がグッとこみ上げてくる。

「……わ、私も、…………会いたかった」

 とても、物凄く、感情がすり切れるぐらい今日の日を待ちわびていたつもりなのに、いざという時に最良の反応ができない自分が嫌だ。

(離れている間、何回も『再会できたらこう言おう』ってシミュレーションしていたのに)

 とは言っても、香澄の想像していた再会パターンに今回のゲリラプロポーズは含まれておらず、そこから調子を崩されて混乱したままと言っていい。

「香澄、こっちを見て」

 耳に触れる佑の親指が、やけに熱い。

 これ以上ないぐらい胸を高鳴らせてゆっくり彼を見ると、佑はヘーゼルの目でジッとこちらを見つめていた。

「ウウ……」

 久しぶりに佑の綺麗な目を直視してしまった香澄は、目をそらせずにくぐもった声を漏らす。

「……可愛い。相変わらず髪がサラサラで、肌が白くてすべすべしていて、目がとても綺麗だ。香澄ほど透明感のある女性を見た事がない」

「……た、佑さんもとても綺麗です」

 離れていた期間は実際そう長くはないのに、とても長い間佑と会えていないような気持ちになり、彼のような美形に正面きって褒められると、照れくさくて堪らない。

 そう言うと、佑はクスクス笑いだした。

「なんか、中学一年生で習う英語みたいだな」

「も、もぉ……」

 むくれてみせてから、確かに「This is a pen.」みたいな事を言ってしまったと思い、つられて笑う。

 空気が少し柔らかくなったところで、佑が尋ねてきた。

「沢山話したいけど、……その前にキスして抱き締めてもいいか?」

 優しく尋ねられ、胸の奥からキューッと甘酸っぱい感情がこみ上げた香澄は、緊張しながら彼の腕の中に収まった。

 その途端、フワッと佑の匂いに包まれ、衣服越しの温かな体にうっとりと目を細める。

 同時に、この上ない引力を感じ、ほんの少しの怖れも覚えた。

 香澄が少し表情を強張らせたからか、佑は気遣って尋ねてくる。

「嫌か? やっぱり『むしのいい事を言っている』と思ってる?」

「ううん! 違う!」

 とっさに否定したあと、香澄は少しずつ今の自分の気持ちを言語化していった。

「……まだ夢みたいなの。今こうして目の前に佑さんがいて、全部終わってもう何にも怯えず幸せになっていい状況が、嘘みたいで……。これは夢で、寝て目が覚めたら船の中にいるかもしれない。……こうやって佑さんに触れているのに、また……っ、……全部の幸せが消えてしまうんじゃないか、って……」

 説明しながら、香澄はポロポロと涙を零す。

「ごめんなさい、泣いて困らせたい訳じゃないの。……今まで、何度も、何度も、……幸せになれると信じたのに、谷底に落とされて、……っ、いつ幸せになれるか分からなくなってた……っ。誰よりも佑さんを信じてるのに、……運命が、怖い……っ」

 香澄の言葉を聞き、佑は彼女の心に深い傷が刻まれているのを改めて知った。

「じゃあ、今日は徹夜する?」

「ん?」

 悪戯っぽく尋ねられ、香澄は目を瞬かせる。
しおりを挟む
感想 560

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜

青花美来
恋愛
「……三年前、一緒に寝た間柄だろ?」 三年前のあの一夜のことは、もう過去のことのはずなのに。 一夜の過ちとして、もう忘れたはずなのに。 「忘れたとは言わせねぇぞ?」 偶然再会したら、心も身体も翻弄されてしまって。 「……今度こそ、逃がすつもりも離すつもりもねぇから」 その溺愛からは、もう逃れられない。 *第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞しました*

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。 その肩書きに恐れをなして逃げた朝。 もう関わらない。そう決めたのに。 それから一ヶ月後。 「鮎原さん、ですよね?」 「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」 「僕と、結婚してくれませんか」 あの一夜から、溺愛が始まりました。

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...