【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

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第二十三部・幸せへ 編

三分待って

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 部屋に入ったあと、香澄はどうすればいいか分からず棒立ちになっていた。

 佑は少し笑う。

「ちょっと着替えてきていいか? いつまでもタキシードはなんだから」

「そ、そうだね」

 いつものような会話になり、香澄は安堵して表情を緩める。

「適当に座ってて」

「はい」

 佑は蝶ネクタイを解きながら部屋の奥に歩いて行き、香澄は息を吐いてゆっくりソファに近づくとポスンと座った。

 そして自分が妄想していた事に恥じ入り、赤面する。

(部屋に入るなりキスされるかもとか、いきなりセッ……、………………始まるのかと思っていた自分を殴りたい)

 先ほど佑を見ただけで胸の奥がジンとなり、下腹をキュンと切なく疼かせてしまった。

 恋人関係、婚約者なのだから彼に劣情を抱くのは当たり前……と言いたいけれど、一度心の距離ができてしまった今は、自分がとてもはしたない女になったように思えた。

(だって佑さん、背が高いし圧倒的な存在感があるし、……男、……ううん、雄って感じがするし、意識して堪らないんだもの)

 今も同じ空間に佑がいるのが嘘のようだ。

 シンと静まりかえったリビングで、香澄は大きなソファの端にちんまりと座り、身を小さくする。

(あぁ……、駄目だ。ドキドキして頭の中が真っ白になって、うまく考えられない。今までの事とか話すべきなのかな? それとも『会いたかった』ってキス……してもいいの? いきなりイチャイチャしたら嫌がられるかな)

 考えすぎて頭がオーバーヒートしてきた香澄は、両手で顔をパタパタ扇ぎ始める。

 ――と、佑の声がした。

「ごめん、待たせた」

「あっ、はっ、はいっ!」

 香澄はシャキッと立ち上がり、佑に向き直る。

 ……が、久しぶりに見た彼の私服姿――、ローゲージのグレーのニットに黒のスリムパンツ――を見て、「はぁぁ……っ」とか細い声を上げて両手で顔を覆う。

(無理! カッコイイ……!)

 まるで一人のファンに戻ってしまったような自分が恥ずかしく、香澄はそのまましゃがみ込んでしまった。

「…………香澄?」

 佑はクスクス笑い、ゆっくり近づいてくると側にしゃがむ。

「どうした? 再会を祝ってくれないのか?」

「う……、…………うぅ……。…………さ、三分待って。慣れるから」

「三分? カップ麺?」

「んふふっ」

 佑の冗談を聞いて香澄は思わず噴き出し、しゃがんだまま顔を伏せて笑う。

 それからチラッと佑の顔を盗み見して顔を伏せ、彼の顔の良さにニヤつく。

「香澄?」

「……まだだよ」

 もう一度香澄はチラッと佑の顔を見て、彼が側にいてくれる喜びに「むふ……っ」と笑い声を漏らし、顔を伏せてニヤニヤする。

「かーすみ」

 佑の声に笑いが籠もり、彼は香澄の背中を優しく撫でてきた。

「もういいかい?」

 彼は香澄の髪をすべすべと撫で、愛しげに尋ねてくる。

「……まぁだだよ」

 香澄はクスクス笑って答えてから、また顔を上げ、今度は少し長めに佑の顔を見てから「はぁ……っ」と息を吐いて顔を伏せる。

 そんな事を繰り返して約束の三分が経った頃、香澄はようやく顔を上げて上目遣いに佑を見た。

「今の、何だったんだ?」

 床の上に座って笑っている佑に尋ねられ、香澄はモジモジとして答える。

「……久しぶりの佑さんがあまりに格好良くて、一気に摂取したら目が潰れて感覚がおかしくなってしまいそうで」

「あははっ、そこまで刺激性のある男じゃないつもりだけど」

 広くて豪奢なスイートルームで、二人は床の上に座ってたわいのない話をする。

「……もう慣れた?」

「……うん。醜態を晒さずに済むぐらいには」

 見つめ合って笑い合ったあと、佑がそっと手を握ってきた。

「俺も可愛い香澄を三分間たっぷり接種させてもらった。……いや、まだまだ足りないな」

「……もぉ。変なところ見せちゃったのに……」

 何もかもが照れくさく、むず痒く、なのにとても嬉しくて堪らない。

 三分かけて慣れたと思ったのに、香澄はまたニヤニヤし始めていた。
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