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第二十三部・幸せへ 編
三分待って
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部屋に入ったあと、香澄はどうすればいいか分からず棒立ちになっていた。
佑は少し笑う。
「ちょっと着替えてきていいか? いつまでもタキシードはなんだから」
「そ、そうだね」
いつものような会話になり、香澄は安堵して表情を緩める。
「適当に座ってて」
「はい」
佑は蝶ネクタイを解きながら部屋の奥に歩いて行き、香澄は息を吐いてゆっくりソファに近づくとポスンと座った。
そして自分が妄想していた事に恥じ入り、赤面する。
(部屋に入るなりキスされるかもとか、いきなりセッ……、………………始まるのかと思っていた自分を殴りたい)
先ほど佑を見ただけで胸の奥がジンとなり、下腹をキュンと切なく疼かせてしまった。
恋人関係、婚約者なのだから彼に劣情を抱くのは当たり前……と言いたいけれど、一度心の距離ができてしまった今は、自分がとてもはしたない女になったように思えた。
(だって佑さん、背が高いし圧倒的な存在感があるし、……男、……ううん、雄って感じがするし、意識して堪らないんだもの)
今も同じ空間に佑がいるのが嘘のようだ。
シンと静まりかえったリビングで、香澄は大きなソファの端にちんまりと座り、身を小さくする。
(あぁ……、駄目だ。ドキドキして頭の中が真っ白になって、うまく考えられない。今までの事とか話すべきなのかな? それとも『会いたかった』ってキス……してもいいの? いきなりイチャイチャしたら嫌がられるかな)
考えすぎて頭がオーバーヒートしてきた香澄は、両手で顔をパタパタ扇ぎ始める。
――と、佑の声がした。
「ごめん、待たせた」
「あっ、はっ、はいっ!」
香澄はシャキッと立ち上がり、佑に向き直る。
……が、久しぶりに見た彼の私服姿――、ローゲージのグレーのニットに黒のスリムパンツ――を見て、「はぁぁ……っ」とか細い声を上げて両手で顔を覆う。
(無理! カッコイイ……!)
まるで一人のファンに戻ってしまったような自分が恥ずかしく、香澄はそのまましゃがみ込んでしまった。
「…………香澄?」
佑はクスクス笑い、ゆっくり近づいてくると側にしゃがむ。
「どうした? 再会を祝ってくれないのか?」
「う……、…………うぅ……。…………さ、三分待って。慣れるから」
「三分? カップ麺?」
「んふふっ」
佑の冗談を聞いて香澄は思わず噴き出し、しゃがんだまま顔を伏せて笑う。
それからチラッと佑の顔を盗み見して顔を伏せ、彼の顔の良さにニヤつく。
「香澄?」
「……まだだよ」
もう一度香澄はチラッと佑の顔を見て、彼が側にいてくれる喜びに「むふ……っ」と笑い声を漏らし、顔を伏せてニヤニヤする。
「かーすみ」
佑の声に笑いが籠もり、彼は香澄の背中を優しく撫でてきた。
「もういいかい?」
彼は香澄の髪をすべすべと撫で、愛しげに尋ねてくる。
「……まぁだだよ」
香澄はクスクス笑って答えてから、また顔を上げ、今度は少し長めに佑の顔を見てから「はぁ……っ」と息を吐いて顔を伏せる。
そんな事を繰り返して約束の三分が経った頃、香澄はようやく顔を上げて上目遣いに佑を見た。
「今の、何だったんだ?」
床の上に座って笑っている佑に尋ねられ、香澄はモジモジとして答える。
「……久しぶりの佑さんがあまりに格好良くて、一気に摂取したら目が潰れて感覚がおかしくなってしまいそうで」
「あははっ、そこまで刺激性のある男じゃないつもりだけど」
広くて豪奢なスイートルームで、二人は床の上に座ってたわいのない話をする。
「……もう慣れた?」
「……うん。醜態を晒さずに済むぐらいには」
見つめ合って笑い合ったあと、佑がそっと手を握ってきた。
「俺も可愛い香澄を三分間たっぷり接種させてもらった。……いや、まだまだ足りないな」
「……もぉ。変なところ見せちゃったのに……」
何もかもが照れくさく、むず痒く、なのにとても嬉しくて堪らない。
三分かけて慣れたと思ったのに、香澄はまたニヤニヤし始めていた。
佑は少し笑う。
「ちょっと着替えてきていいか? いつまでもタキシードはなんだから」
「そ、そうだね」
いつものような会話になり、香澄は安堵して表情を緩める。
「適当に座ってて」
「はい」
佑は蝶ネクタイを解きながら部屋の奥に歩いて行き、香澄は息を吐いてゆっくりソファに近づくとポスンと座った。
そして自分が妄想していた事に恥じ入り、赤面する。
(部屋に入るなりキスされるかもとか、いきなりセッ……、………………始まるのかと思っていた自分を殴りたい)
先ほど佑を見ただけで胸の奥がジンとなり、下腹をキュンと切なく疼かせてしまった。
恋人関係、婚約者なのだから彼に劣情を抱くのは当たり前……と言いたいけれど、一度心の距離ができてしまった今は、自分がとてもはしたない女になったように思えた。
(だって佑さん、背が高いし圧倒的な存在感があるし、……男、……ううん、雄って感じがするし、意識して堪らないんだもの)
今も同じ空間に佑がいるのが嘘のようだ。
シンと静まりかえったリビングで、香澄は大きなソファの端にちんまりと座り、身を小さくする。
(あぁ……、駄目だ。ドキドキして頭の中が真っ白になって、うまく考えられない。今までの事とか話すべきなのかな? それとも『会いたかった』ってキス……してもいいの? いきなりイチャイチャしたら嫌がられるかな)
考えすぎて頭がオーバーヒートしてきた香澄は、両手で顔をパタパタ扇ぎ始める。
――と、佑の声がした。
「ごめん、待たせた」
「あっ、はっ、はいっ!」
香澄はシャキッと立ち上がり、佑に向き直る。
……が、久しぶりに見た彼の私服姿――、ローゲージのグレーのニットに黒のスリムパンツ――を見て、「はぁぁ……っ」とか細い声を上げて両手で顔を覆う。
(無理! カッコイイ……!)
まるで一人のファンに戻ってしまったような自分が恥ずかしく、香澄はそのまましゃがみ込んでしまった。
「…………香澄?」
佑はクスクス笑い、ゆっくり近づいてくると側にしゃがむ。
「どうした? 再会を祝ってくれないのか?」
「う……、…………うぅ……。…………さ、三分待って。慣れるから」
「三分? カップ麺?」
「んふふっ」
佑の冗談を聞いて香澄は思わず噴き出し、しゃがんだまま顔を伏せて笑う。
それからチラッと佑の顔を盗み見して顔を伏せ、彼の顔の良さにニヤつく。
「香澄?」
「……まだだよ」
もう一度香澄はチラッと佑の顔を見て、彼が側にいてくれる喜びに「むふ……っ」と笑い声を漏らし、顔を伏せてニヤニヤする。
「かーすみ」
佑の声に笑いが籠もり、彼は香澄の背中を優しく撫でてきた。
「もういいかい?」
彼は香澄の髪をすべすべと撫で、愛しげに尋ねてくる。
「……まぁだだよ」
香澄はクスクス笑って答えてから、また顔を上げ、今度は少し長めに佑の顔を見てから「はぁ……っ」と息を吐いて顔を伏せる。
そんな事を繰り返して約束の三分が経った頃、香澄はようやく顔を上げて上目遣いに佑を見た。
「今の、何だったんだ?」
床の上に座って笑っている佑に尋ねられ、香澄はモジモジとして答える。
「……久しぶりの佑さんがあまりに格好良くて、一気に摂取したら目が潰れて感覚がおかしくなってしまいそうで」
「あははっ、そこまで刺激性のある男じゃないつもりだけど」
広くて豪奢なスイートルームで、二人は床の上に座ってたわいのない話をする。
「……もう慣れた?」
「……うん。醜態を晒さずに済むぐらいには」
見つめ合って笑い合ったあと、佑がそっと手を握ってきた。
「俺も可愛い香澄を三分間たっぷり接種させてもらった。……いや、まだまだ足りないな」
「……もぉ。変なところ見せちゃったのに……」
何もかもが照れくさく、むず痒く、なのにとても嬉しくて堪らない。
三分かけて慣れたと思ったのに、香澄はまたニヤニヤし始めていた。
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