1,530 / 1,544
第二十三部・幸せへ 編
香澄がいる
しおりを挟む
「香澄、行こう」
「…………………………はい」
〝いつも通り〟声を掛けられただけで、胸がキューッとなって真っ赤になってしまう。
護衛はいるが、二人きりになったと思っただけで胸がドキドキ高鳴り、緊張が増す。
(……な、何を話せばいいのかな)
彼と一緒に暮らして日常を楽しく過ごしていたはずなのに、うまく言葉が出てこない。
佑は香澄の手を握ってゆっくり歩きながら、尋ねてきた。
「今までどう過ごしてた?」
世間話を振られ、香澄は安堵して話し始める。
「東京を発ったあと、NYに行ったの。そこでテオさんたち一家やショーンさん、リカルドさんと一緒に皆でパーティーをしたり、NY観光をしたよ。大きいお肉も食べたの」
「ははっ、肉か。……香澄に大きいアメリカンビーフを食べさせるのは、俺の野望だったのにな。アロクラに先を越されたか」
「んふふ、一番はもう経験したけど、二番目でも私の胃はいつでもウェルカムですよ」
「食いしん坊健在で良かった」
佑はクスクス笑ったあと立ち止まり、「駄目だ」と呟いたあと、香澄をギュッと抱き締めてきた。
護衛たちがついてきてるので一瞬抵抗しかけたが、チラッと彼らを見ると、訓練された動きでサッとそっぽを見ていた。
「……キスしていい?」
熱っぽい目で見つめられ、囁かれて香澄はうろたえる。
「えっ……、……でも、外……」
思わず周囲を見回すが、さすがアメリカというべきか、抱き合っていても誰もジロジロ見ていない。
「……お願い」
さらに囁くように請われ、香澄はコクンと頷いた。
「ありがとう」
佑は小さく礼を言い、愛しむように香澄の髪をサラサラと撫で、手で梳る。
そのあと彼女のすべらかな頬を撫で、ツンと尖った鼻や柔らかな唇に触れてくる。
「……香澄がいる」
しみじみと言った彼の言葉を聞き、香澄は思わず笑う。
「ここにいますよ」
いまだ、彼とどう向き合ったらいいのか分からない。
それは佑も同じだと思う。
お互い手探りで距離感を確認し、傷つけないように細心の注意を払いながら向き合おうとしている。
「……可愛いな。……世界で一番可愛い」
目を細めて幸せそうに笑った佑は、顔を傾けて静かに口づけてきた。
柔らかな唇同士が触れ合い、フニュリと潰れる。
唇が離れる間際に佑はチュッと彼女のそれをついばみ、香澄の反応を窺うように顔を見た。
香澄は無意識に、離れていった唇を惜しむように口を開き、佑を見つめている。
その欲しがる顔を見て、佑は大きく息を吸うと、ゆっくり静かに吐いていく。
「…………行こう」
滾る情熱を押し殺した声で言われ、香澄は欲しがった自分を恥じて頷いた。
(いやらしいって思われたかな)
無言で歩いてから少しして、佑は今の行動の言い訳をし始める。
「……ごめん。どうしてもキスしたかった。……でもこれ以上は駄目だ。歯止めが利かなくなる。……続きはホテルの部屋で」
香澄は彼の言葉を聞いただけで体を火照らせ、やや俯いたまま「……はい」と頷く。
そんな二人のやり取りを護衛たちが後ろから見守り、呉代は「やっちまえ!」と言わんばかりに拳を握っているのだが、前を歩く二人には預かり知らない事である。
やがて二人はしばらく隣にお互いがいる空気感を味わったあと、小金井の運転する車に乗ってショーンのホテルに向かった。
**
佑は図らずも香澄と同じホテルに泊まっていて、灯台もと暗しと思いつつ、荷物を移動させるのが楽で良かったと感じた。
佑が泊まる部屋と言えば当然最上級クラスのスイートで、もといた部屋と思いきり近い。
(こんな距離にいたなんて……)
下手をすれば廊下やロビーでばったり会っていたかもしれない。
そのほうが手っ取り早かったかもしれないが、公園での感動的なプロポーズに心から感謝しているので、あの形で良かったと思ったのだった。
「…………………………はい」
〝いつも通り〟声を掛けられただけで、胸がキューッとなって真っ赤になってしまう。
護衛はいるが、二人きりになったと思っただけで胸がドキドキ高鳴り、緊張が増す。
(……な、何を話せばいいのかな)
彼と一緒に暮らして日常を楽しく過ごしていたはずなのに、うまく言葉が出てこない。
佑は香澄の手を握ってゆっくり歩きながら、尋ねてきた。
「今までどう過ごしてた?」
世間話を振られ、香澄は安堵して話し始める。
「東京を発ったあと、NYに行ったの。そこでテオさんたち一家やショーンさん、リカルドさんと一緒に皆でパーティーをしたり、NY観光をしたよ。大きいお肉も食べたの」
「ははっ、肉か。……香澄に大きいアメリカンビーフを食べさせるのは、俺の野望だったのにな。アロクラに先を越されたか」
「んふふ、一番はもう経験したけど、二番目でも私の胃はいつでもウェルカムですよ」
「食いしん坊健在で良かった」
佑はクスクス笑ったあと立ち止まり、「駄目だ」と呟いたあと、香澄をギュッと抱き締めてきた。
護衛たちがついてきてるので一瞬抵抗しかけたが、チラッと彼らを見ると、訓練された動きでサッとそっぽを見ていた。
「……キスしていい?」
熱っぽい目で見つめられ、囁かれて香澄はうろたえる。
「えっ……、……でも、外……」
思わず周囲を見回すが、さすがアメリカというべきか、抱き合っていても誰もジロジロ見ていない。
「……お願い」
さらに囁くように請われ、香澄はコクンと頷いた。
「ありがとう」
佑は小さく礼を言い、愛しむように香澄の髪をサラサラと撫で、手で梳る。
そのあと彼女のすべらかな頬を撫で、ツンと尖った鼻や柔らかな唇に触れてくる。
「……香澄がいる」
しみじみと言った彼の言葉を聞き、香澄は思わず笑う。
「ここにいますよ」
いまだ、彼とどう向き合ったらいいのか分からない。
それは佑も同じだと思う。
お互い手探りで距離感を確認し、傷つけないように細心の注意を払いながら向き合おうとしている。
「……可愛いな。……世界で一番可愛い」
目を細めて幸せそうに笑った佑は、顔を傾けて静かに口づけてきた。
柔らかな唇同士が触れ合い、フニュリと潰れる。
唇が離れる間際に佑はチュッと彼女のそれをついばみ、香澄の反応を窺うように顔を見た。
香澄は無意識に、離れていった唇を惜しむように口を開き、佑を見つめている。
その欲しがる顔を見て、佑は大きく息を吸うと、ゆっくり静かに吐いていく。
「…………行こう」
滾る情熱を押し殺した声で言われ、香澄は欲しがった自分を恥じて頷いた。
(いやらしいって思われたかな)
無言で歩いてから少しして、佑は今の行動の言い訳をし始める。
「……ごめん。どうしてもキスしたかった。……でもこれ以上は駄目だ。歯止めが利かなくなる。……続きはホテルの部屋で」
香澄は彼の言葉を聞いただけで体を火照らせ、やや俯いたまま「……はい」と頷く。
そんな二人のやり取りを護衛たちが後ろから見守り、呉代は「やっちまえ!」と言わんばかりに拳を握っているのだが、前を歩く二人には預かり知らない事である。
やがて二人はしばらく隣にお互いがいる空気感を味わったあと、小金井の運転する車に乗ってショーンのホテルに向かった。
**
佑は図らずも香澄と同じホテルに泊まっていて、灯台もと暗しと思いつつ、荷物を移動させるのが楽で良かったと感じた。
佑が泊まる部屋と言えば当然最上級クラスのスイートで、もといた部屋と思いきり近い。
(こんな距離にいたなんて……)
下手をすれば廊下やロビーでばったり会っていたかもしれない。
そのほうが手っ取り早かったかもしれないが、公園での感動的なプロポーズに心から感謝しているので、あの形で良かったと思ったのだった。
260
お気に入りに追加
2,511
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
なりゆきで、君の体を調教中
星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる