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第二十三部・幸せへ 編

黙ってて

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「香澄さんが身をもって知ったように、佑は誰彼問わず優しい人じゃないわ。〝色々〟あって人を見極める目を身につけ、付き合う人を選ぶようになった。〝選ばれなかった〟人は佑を『冷酷だ』と言うけれど、佑は一生付き合っていくと決めた人にはとても優しい」

「はい」

 香澄は微笑んで頷く。

 自分を愛してくれた佑がどれだけ優しいかを知っているし、自分を忘れた彼には縋りたくても縋れなかった事も体験した。

 佑は波瀾万丈な人生を送っていて、その理由を知っているからこそ、香澄は彼を「冷たい」と思わない。

「佑はあなたを心から大切にしていたから、香澄さんの傷にも向き合っていこうとしたのよね」

 澪は溜め息をつき、膝を抱えて顔を伏せる。

 彼女はしばしそのまま、ジッとして何かを思案していた。





 澪が思いだしていたのは、ショーンの部屋で開いたパーティーでの事だ。

 一同席についての食事を終えたあと、おのおのが飲み物やスイーツを楽しみながら、広い部屋のあちこちで談笑するなか、双子が『ミオ』と彼女を手招きした。

『なに?』

 バーカウンターにいる二人に歩み寄ると、アロイスはウィスキーを一口飲んでから笑って言った。

『タスク、カスミを思いだしたよ』

『えっ!?』

 思わず大きな声を上げて香澄を振り向こうとすると、クラウスに肩を抱かれ『シーッ』と静かにするよう促される。

『なんで香澄さんに言わないの? あれだけ悲しんでるのに!』

 腹を立てて言うと、双子は顔を見合わせてから首を竦めた。

『確かにタスクがカスミを忘れたのは仕方がないし、わざとじゃないけど、あいつのした事を聞いて腹立たなかった?』

 クラウスに尋ねられ、澪は溜め息をつく。

『そりゃあ……、少しは』

『タンテに聞いたけど、電話を掛けて結構ネチネチ問い詰めるぐらいは怒ったんでしょ?』

『う……』

 アロイスにニヤリと笑いかけられ、澪は言葉を失う。

『まぁ、座りなよ』

 クラウスが言って席を一つずれ、澪は双子の間にあるスツールに腰かける。

『俺たちもさ、カスミの気持ちを思うと早く会わせてあげたいんだよ』

 アロイスはカウンターに頬杖をつき、溜め息混じりに言う。

『でも、忘れたからって、あれだけ尽くしたカスミに冷たくして、挙げ句追い出して傷つけた奴に、〝思い出しました〟って言われたからってすぐ会わせるの、癪じゃない?』

『……確かに、一理あるけど……』

 クラウスに言われ、澪は前髪を掻き上げて頷く。

『ノーヒントで永遠に探してろなんて言わないよ。かなり分かりやすいヒントは与えたし、もう少ししたらそこに向かう。感動の再会のお膳立てもしてやるつもりでいる』

 アロイスはグラスに入っているボールアイスを揺らす。

『今、あいつはガブの所に行って、エミリアと決着をつけているはずだ』

 クラウスは少し声量を抑え、チラッとテオを窺う。

 彼が香澄や家族たちと楽しそうに談笑しているのを確認してから、言葉を続ける。

『正直、あそこまで道を踏み外した奴と、話し合いなんかで分かり合えるはずがないと思うけどね。人を噛んだ猛獣は、一生檻の中にいればいいんじゃない?』

『それは私も同意。情けを掛けてやる必要はないわ』

 澪はエミリアと既知の仲ではあったが、香澄を罠に嵌めて酷い事をした上、兄を刺したフェルナンドと共謀したと知った今は、完全に敵視している。

『フランスにいるとして、俺が与えたヒントを正確に理解したら、問題さえ解決したらすぐにでもワシントンDCに来るんじゃないかな。ポトマック河畔って言っても割と広いから、どこにいるかまでは教えてやんないけどね。それに永遠に探し続けるよりは、二週間限定ならなんとかなるだろ』

 香澄を桜祭りに連れていくつもりでいるクラウスは、クーッとワインを飲み干すとグラスを置き、カウンターの中に入ってカクテルを作り始める。

『まぁ、フランスからワシントンDCなら、すぐ来られるわね』

 アロイスが佑に分かりやすいヒントを与えていると知ると、だんだんなんとかなる気持ちになってきた。

『もうすぐ二人は会えるから、桜祭りでの再会までは黙ってて。カスミは落ち込んで可哀想だけど、いい感じに励ましてあげようよ』

『……仕方ないな……』

 クラウスにウィンクされ、澪は大きな溜め息をついた。
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