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第二十三部・幸せへ 編

事の顛末

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(香澄を思ってとった行動が、彼女を苦しめる事になったとは……)

 あまりに皮肉すぎて、笑えない。

『やり返される覚悟のある者だけが攻撃しろ』とよく言うが、エミリアもフェルナンドもすでに一度破滅を経験したから、捨て身の攻撃をしてきたのだ。

『彼はミツルギ氏の最も大切なものを傷つけようと思い、入念にミズ・アカマツを調べ、バルセロナで接近しました。メッセージアプリで自社のPVに見せかけた動画を見せる事によって、ミズ・アカマツのスマホにウィルスを仕込み、〝F〟と名乗るアカウントから指示を出しました』

(やはりあの時、『知らない奴に近づくなと』徹底的に言い聞かせていれば……)

 そう思うものの、時すでに遅しだ。

『加えてChief Every本社近くのコーヒーショップに彼女が訪れると調査した上で、雇った者に彼女をさらわせようと試みました』

 マティアスが助けてくれた事件を思い出し、佑は眉間に皺を寄せる。

『その時、ミズ・アカマツのスマホの中身をノートパソコンにコピーし、彼女の交友関係なども調べた模様です。彼女が最終的にフェルナンド氏のいう事を聞いたきっかけになった、実家のお母様を狙った動画……。あれもまた、彼女のスマホから実家の住所を得て、動画を撮ったものと思われます』

 節子は動じず、いつものように背筋を伸ばして座っている。

『ロサンゼルスで一文無しになったフェルナンド氏は、自由の身になったエミリア様から連絡を受け、復讐に燃えてパリ入りして今回の騒ぎを起こした流れになります』

 弁護士から説明を受けた佑は、『分かった』と頷き、腕を組む。

 彼はしばらく険しい表情で黙り込んでいたが、ガブリエルに問いかけた。

『エミリアは、この城で一生監禁してもらう』

『分かった。今度こそ慈悲を見せず、飼い殺しにすると誓う』

 ガブリエルは目に冷徹な光を宿し、重々しく頷いた。

『彼女は今、どうしてる?』

 パリで殺人未遂を起こしたのはフェルナンドであり、エミリアは香澄に対して軽めの傷害を起こしたに過ぎない。

 去年の夏、エミリアが起こした事件にはドラッグが関与しているが、彼女が使った物は大麻だった。

 イギリスにおいて嗜好用の大麻は違法でありBクラスのドラッグとされているが、個人使用の範囲では逮捕、起訴される割合がとても少ない。

 よってあの大騒ぎでエミリアは一度警察に厄介になったものの、罰金を支払ってすぐに自由の身となっていたのだ。

 誘拐については香澄の意志でイギリスに行った事になり、佑は彼女を救出したあとに強引に帰国したので、香澄が薬害の被害者になった件はうやむやになってしまっている。

『妻なら部屋で大人しくしている』

 ガブリエルの返事を聞き、佑は立ちあがった。

『会わせてもらおう。今後、二度と俺たちに関わらないと誓わせる』

『いいだろう』

 全員が応接室をあとにすると、ガブリエルは三人を先導して歩き始めた。





 やがて彼はとある部屋の前で立ち止まり、五箇所施錠されているドアを開ける。

 中に入るとすぐ、格子が目に付いた。

 室内はホテルを思わせる豪華なしつらえで、奥にはバスルームや洗面所、トイレなども完備され、ベッドルームもあるようだ。

 しかし窓はすべてはめ殺しになり、廊下に続くドアも溶接されてある。

『掃除は警備員に見張らせた上で清掃人が入り、食事や必要なものはここから差し入れている』

 ガブリエルが示したほうを見ると、食事をトレーごと置ける台があり、中に物を入れてからこちら側を施錠し、内側を開ける仕組みになっている。

『そこに座って猛獣を見物してくれたまえ』

 ガブリエルは佑たちにソファを示し、自分は〝妻〟を見てシニカルに笑う。

 エミリアはスリムな体に光沢のある花柄のワンピースを纏い、脚を組んでソファに座っていた。

『お久しぶり。……アドラーお祖父様と、セツコお祖母様までいらしたのね』

 何事もなかったように挨拶をされ、佑はピクッと眉を跳ね上げる。

『エミリア……』

 うなるように低い声で名前を呼ぶと、彼女は眉間に皺を寄せて嗤った。

『やだわ。恐い顔』

 煽られているとすぐに察した佑は、静かに息を吐き自分を落ち着かせていく。

 だがエミリアは煽る手を止めなかった。

『カスミさんは元気? あれだけ薬を飲ませたから、胃洗浄したとしても、しばらくはおむつ生活な上に、意識が朦朧としてろくに話せなかったんじゃないかしら』

「っ~~~~っ……!」

 分かっていても、あの事に触れられるとカッと頭に血が上る。
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