1,506 / 1,548
第二十三部・幸せへ 編
信じていいのね?
しおりを挟む
「私も同行させてちょうだい」
節子が言い、佑をはじめ、アドラーや息子たちは驚く。
「オーマが行く必要は……!」
佑が何か言いかけたが、微笑をたたえた彼女に見つめられて口を噤む。
「フランクさん立ち会いのもと、ランスまで行ってエミリアに誓いを立てさせます」
きっぱりと言い切った節子をもう止められないと思ったのか、アドラーは諦めたように目を閉じ、溜め息をついた。
「私、もう老い先短いのよ。可能なら愛する家族に囲まれて、幸せな余生を過ごしたい。孫の結婚だって楽しみにしているし、可能ならひ孫の誕生をもっと見たいわ」
節子の願いを聞き、彼女の平穏な生活を乱している自覚のある佑は、何も言えずにいる。
「だから私は安心と約束がほしい。そのためなら自ら現場に行って、フランクさんやエミリア、ガブリエルさんに話をつけるわ」
祖母がここまで本気になっているのに、彼女任せにする訳にいかない。
「俺がしっかり話します。……ですからオーマは見ていてください」
「……信じていいのね?」
節子に尋ねられ、佑は頷く。
「必ず」
約束させて安心したのか、ようやく節子は溜め息をつき、肩の力を抜いた。
「香澄さんが今どこにいるか、見当はついているの?」
今までより優しい声で尋ねられ、佑は無意識に息を吐く。
「いいえ。どうやらアロクラが一緒にいるようだ、という事は分かっているのですが。情報を求めてドイツに来たところもありますが、自分がすべき事を終えたあとは、彼らの行きそうな場所を当たってみるつもりです」
「そう……。仕方ないわね、あの子たちも」
節子は苦笑いし、紅茶を一口飲む。
その時、エルマーが口を開いた。
「いつも息子たちがすまない」
「いえ」
「あの子たちは悪戯好きで、気の許した相手だからこそ、その悪戯が度を超してしまう時もある。だがカイとカスミさんの幸せを祝福すると決めた以上、引き離すような事はしないと思うんだ」
そこまで言い、エルマーは顎を撫でつつ言う。
「カスミさんがつらい目に遭うのを見て、堪らなくなって連れ出した気持ちはあるんだろう。だがずっとカイに会わせないのは考えづらい。仕置きとして一旦ショックを与えたあとは、比較的分かりやすい場所にいる気がする」
父親のエルマーがそう言うなら、きっとその通りなのだろう。
「昔からあの子たちは、親子喧嘩をしても遠くへ家出する事はなかった。感情的になって爆発する役割はクラウスが請け負い、その姿を見て兄のアロイスが冷静になって物事を考えていく。……そういうふうに分担ができているから、二人で暴走する事はあまりないと信じている」
「……俺も、ヨーロッパ内の比較的いつも行く場所か、アメリカ辺りか……と思っています。NYにはテオに香澄を助けてくれた礼を言いに行くつもりですし、気長にやろうと思います。ただ、アロクラも俺も仕事があるので、長期戦にはならないと思っていますが」
「そうだな。あの子たちは優しい子だし、分かりやすい所にいると思う」
アドラーが言い、節子はその隣で微笑む。
「佑、明日には行動開始しましょう。今日は部屋で休んで、夜にお肉でもしっかり食べなさい」
節子に優しく言われ、佑は冗談を言う。
「ザワークラウトを用意していたんじゃないんですか?」
「あら、食べたいならジョッキ一杯用意するわよ」
節子の軽口を聞いて、室内にいた全員が笑った。
**
三月のNYはまだ肌寒く、白いタートルネックニットに黒いコクーンスカート、ブーティーを履いた香澄は、上にベージュのトレンチコートを羽織った。
双子はそれぞれブルーとピンクのシャツを着て、あとはお揃いのツイードジャケットにグレーのトレンチコート姿だ。
「お腹空いた?」
「はい。休んでる間に体調が整ったみたいです」
「腹具合ね」
クラウスに突っ込まれ、香澄はクスクス笑う。
「何食いたい? やっぱ肉いっとく?」
「お肉いきます! こうなったら自棄食いします」
「カスミはもうちょっと肉付きよくなったほうが、魅力的になると思うよ」
「次に麻衣に会った時『誰あんた』って言われたりして……」
香澄の冗談を聞いて、双子は爆笑する。
と、香澄の携帯が着信を告げた。
節子が言い、佑をはじめ、アドラーや息子たちは驚く。
「オーマが行く必要は……!」
佑が何か言いかけたが、微笑をたたえた彼女に見つめられて口を噤む。
「フランクさん立ち会いのもと、ランスまで行ってエミリアに誓いを立てさせます」
きっぱりと言い切った節子をもう止められないと思ったのか、アドラーは諦めたように目を閉じ、溜め息をついた。
「私、もう老い先短いのよ。可能なら愛する家族に囲まれて、幸せな余生を過ごしたい。孫の結婚だって楽しみにしているし、可能ならひ孫の誕生をもっと見たいわ」
節子の願いを聞き、彼女の平穏な生活を乱している自覚のある佑は、何も言えずにいる。
「だから私は安心と約束がほしい。そのためなら自ら現場に行って、フランクさんやエミリア、ガブリエルさんに話をつけるわ」
祖母がここまで本気になっているのに、彼女任せにする訳にいかない。
「俺がしっかり話します。……ですからオーマは見ていてください」
「……信じていいのね?」
節子に尋ねられ、佑は頷く。
「必ず」
約束させて安心したのか、ようやく節子は溜め息をつき、肩の力を抜いた。
「香澄さんが今どこにいるか、見当はついているの?」
今までより優しい声で尋ねられ、佑は無意識に息を吐く。
「いいえ。どうやらアロクラが一緒にいるようだ、という事は分かっているのですが。情報を求めてドイツに来たところもありますが、自分がすべき事を終えたあとは、彼らの行きそうな場所を当たってみるつもりです」
「そう……。仕方ないわね、あの子たちも」
節子は苦笑いし、紅茶を一口飲む。
その時、エルマーが口を開いた。
「いつも息子たちがすまない」
「いえ」
「あの子たちは悪戯好きで、気の許した相手だからこそ、その悪戯が度を超してしまう時もある。だがカイとカスミさんの幸せを祝福すると決めた以上、引き離すような事はしないと思うんだ」
そこまで言い、エルマーは顎を撫でつつ言う。
「カスミさんがつらい目に遭うのを見て、堪らなくなって連れ出した気持ちはあるんだろう。だがずっとカイに会わせないのは考えづらい。仕置きとして一旦ショックを与えたあとは、比較的分かりやすい場所にいる気がする」
父親のエルマーがそう言うなら、きっとその通りなのだろう。
「昔からあの子たちは、親子喧嘩をしても遠くへ家出する事はなかった。感情的になって爆発する役割はクラウスが請け負い、その姿を見て兄のアロイスが冷静になって物事を考えていく。……そういうふうに分担ができているから、二人で暴走する事はあまりないと信じている」
「……俺も、ヨーロッパ内の比較的いつも行く場所か、アメリカ辺りか……と思っています。NYにはテオに香澄を助けてくれた礼を言いに行くつもりですし、気長にやろうと思います。ただ、アロクラも俺も仕事があるので、長期戦にはならないと思っていますが」
「そうだな。あの子たちは優しい子だし、分かりやすい所にいると思う」
アドラーが言い、節子はその隣で微笑む。
「佑、明日には行動開始しましょう。今日は部屋で休んで、夜にお肉でもしっかり食べなさい」
節子に優しく言われ、佑は冗談を言う。
「ザワークラウトを用意していたんじゃないんですか?」
「あら、食べたいならジョッキ一杯用意するわよ」
節子の軽口を聞いて、室内にいた全員が笑った。
**
三月のNYはまだ肌寒く、白いタートルネックニットに黒いコクーンスカート、ブーティーを履いた香澄は、上にベージュのトレンチコートを羽織った。
双子はそれぞれブルーとピンクのシャツを着て、あとはお揃いのツイードジャケットにグレーのトレンチコート姿だ。
「お腹空いた?」
「はい。休んでる間に体調が整ったみたいです」
「腹具合ね」
クラウスに突っ込まれ、香澄はクスクス笑う。
「何食いたい? やっぱ肉いっとく?」
「お肉いきます! こうなったら自棄食いします」
「カスミはもうちょっと肉付きよくなったほうが、魅力的になると思うよ」
「次に麻衣に会った時『誰あんた』って言われたりして……」
香澄の冗談を聞いて、双子は爆笑する。
と、香澄の携帯が着信を告げた。
191
お気に入りに追加
2,541
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる