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第二十三部・幸せへ 編

信じていいのね?

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「私も同行させてちょうだい」

 節子が言い、佑をはじめ、アドラーや息子たちは驚く。

「オーマが行く必要は……!」

 佑が何か言いかけたが、微笑をたたえた彼女に見つめられて口を噤む。

「フランクさん立ち会いのもと、ランスまで行ってエミリアに誓いを立てさせます」

 きっぱりと言い切った節子をもう止められないと思ったのか、アドラーは諦めたように目を閉じ、溜め息をついた。

「私、もう老い先短いのよ。可能なら愛する家族に囲まれて、幸せな余生を過ごしたい。孫の結婚だって楽しみにしているし、可能ならひ孫の誕生をもっと見たいわ」

 節子の願いを聞き、彼女の平穏な生活を乱している自覚のある佑は、何も言えずにいる。

「だから私は安心と約束がほしい。そのためなら自ら現場に行って、フランクさんやエミリア、ガブリエルさんに話をつけるわ」

 祖母がここまで本気になっているのに、彼女任せにする訳にいかない。

「俺がしっかり話します。……ですからオーマは見ていてください」

「……信じていいのね?」

 節子に尋ねられ、佑は頷く。

「必ず」

 約束させて安心したのか、ようやく節子は溜め息をつき、肩の力を抜いた。

「香澄さんが今どこにいるか、見当はついているの?」

 今までより優しい声で尋ねられ、佑は無意識に息を吐く。

「いいえ。どうやらアロクラが一緒にいるようだ、という事は分かっているのですが。情報を求めてドイツに来たところもありますが、自分がすべき事を終えたあとは、彼らの行きそうな場所を当たってみるつもりです」

「そう……。仕方ないわね、あの子たちも」

 節子は苦笑いし、紅茶を一口飲む。

 その時、エルマーが口を開いた。

「いつも息子たちがすまない」

「いえ」

「あの子たちは悪戯好きで、気の許した相手だからこそ、その悪戯が度を超してしまう時もある。だがカイとカスミさんの幸せを祝福すると決めた以上、引き離すような事はしないと思うんだ」

 そこまで言い、エルマーは顎を撫でつつ言う。

「カスミさんがつらい目に遭うのを見て、堪らなくなって連れ出した気持ちはあるんだろう。だがずっとカイに会わせないのは考えづらい。仕置きとして一旦ショックを与えたあとは、比較的分かりやすい場所にいる気がする」

 父親のエルマーがそう言うなら、きっとその通りなのだろう。

「昔からあの子たちは、親子喧嘩をしても遠くへ家出する事はなかった。感情的になって爆発する役割はクラウスが請け負い、その姿を見て兄のアロイスが冷静になって物事を考えていく。……そういうふうに分担ができているから、二人で暴走する事はあまりないと信じている」

「……俺も、ヨーロッパ内の比較的いつも行く場所か、アメリカ辺りか……と思っています。NYにはテオに香澄を助けてくれた礼を言いに行くつもりですし、気長にやろうと思います。ただ、アロクラも俺も仕事があるので、長期戦にはならないと思っていますが」

「そうだな。あの子たちは優しい子だし、分かりやすい所にいると思う」

 アドラーが言い、節子はその隣で微笑む。

「佑、明日には行動開始しましょう。今日は部屋で休んで、夜にお肉でもしっかり食べなさい」

 節子に優しく言われ、佑は冗談を言う。

「ザワークラウトを用意していたんじゃないんですか?」

「あら、食べたいならジョッキ一杯用意するわよ」

 節子の軽口を聞いて、室内にいた全員が笑った。



**



 三月のNYはまだ肌寒く、白いタートルネックニットに黒いコクーンスカート、ブーティーを履いた香澄は、上にベージュのトレンチコートを羽織った。

 双子はそれぞれブルーとピンクのシャツを着て、あとはお揃いのツイードジャケットにグレーのトレンチコート姿だ。

「お腹空いた?」

「はい。休んでる間に体調が整ったみたいです」

「腹具合ね」

 クラウスに突っ込まれ、香澄はクスクス笑う。

「何食いたい? やっぱ肉いっとく?」

「お肉いきます! こうなったら自棄食いします」

「カスミはもうちょっと肉付きよくなったほうが、魅力的になると思うよ」

「次に麻衣に会った時『誰あんた』って言われたりして……」

 香澄の冗談を聞いて、双子は爆笑する。

 と、香澄の携帯が着信を告げた。
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