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第二十二部・岐路 編
新婚旅行の相談
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「それなら今日はコインなしで、俺の希望で外食にしよう。前祝いだ」
「んっふふ……。分かった。じゃあ、肉!」
グッと拳を握って言うと、マティアスは「勿論だ」と頷く。
「先日行ったステーキ屋にするか? それとも焼き肉?」
「じゃあ、焼き肉! 帰宅方向だし、すすきのまで行こうか」
「わかった」
歩きながら、麻衣は明日にでも行動を起こし、荷物をまとめて仕事を辞める事を考える。
想像するだけでとてつもない解放感を感じ、一気にハイになってしまいそうだ。
「……ねぇ、マティアスさん」
「ん?」
「なんか、私ハイになってる。変な事を言い出したら止めてほしい」
そう言ったが、マティアスはクスクス笑った。
「いいんじゃないか? マイは今までずっと我慢してきた。あんな人たちに囲まれて仕事をしてきたなら、ストレスが溜まって当然だ。そんな自分を『今までよく頑張った』と褒めて、いたわる事は大切だ。俺だって休暇に好きな事を思いきりする〝褒美〟がなければ、仕事などしていられなかった」
「……そうだね。私、入社してからずっと頑張ってきたし、これからマティアスさんと結婚する訳だし……、……人生のピークがきてるんだと思って楽しみたい」
そう思うものの、心の底から「ヒャッホー!」となれないのは分かっている。
「私、自分で言うのもなんだけど、ああいう人たちに囲まれても仕事を辞めなかったし、ある程度まじめなんだと思う。ずっと押し殺して我慢し続けるいっぽうで、『太っているのは自分の責任だから』っていう負い目があるから、何も言い返せずにいた。香澄やマティアスさんは私の体型を否定しないし、『幸せならそれでいい』って言ってくれる。でもやっぱり負い目があるから、『その分別の所で長所を伸ばさないと』って思って、ひたすら我慢して仕事に励んでいたんだと思う」
歩きながら気持ちを吐露すると、マティアスは頷いてくれる。
「俺はマイが不安に思う事について『問題ない』と答えている。だがそれは俺の価値観であり、マイが『負い目がある』と感じるなら、そうなんだろう」
「うん……、ありがと」
彼らしい返事を聞き、麻衣は微笑む。
「だが覚えておいてほしいのは、俺はマイの気持ちを否定しないが、俺はマイが何を考えていても、何をしても、すべて受け入れるという事だ。不安になった時に『嫌われるかもしれない』と決めつけて、俺から距離をとろうとしないでほしい」
「分かった。頼もしい返事をありがとう。そうやって『どすこい』って構えてくれてるから、自由に悩んで最終的には『まぁいっか』ってなれるんだと思う」
『どすこい』と言われたからか、マティアスは相撲のつっぱりのように手を前に付きだしてみせる。
そんな彼を見て微笑みながら、麻衣は幸せな溜め息をついた。
「……私、ヨーロッパに行くの初めて。ドキドキするな」
「今までどこに行った事がある?」
「香澄と一緒にベトナムと台湾には行った。あとは国内とか温泉をちょいちょい。『旅行に行った事がある』っていえるほどの経験者じゃないけど」
「いや、立派な経験者だ」
無条件に褒めてくれるので思わず笑い、逆に彼に尋ねた。
「マティアスさんは? 旅行してます?」
「……そうだな。やはりヨーロッパ内は移動しやすいから、色々行っている。気に入っているのはスイスかな。トレッキングをするのは気持ちがいい」
「へぇ! 登山好きなんですか。私、登山はきつそうで……。凄いな」
素直に感心したのだが、彼はゆるりと首を横に振った。
「登山は頂上へ行く事を目的としているが、トレッキングは山の中を歩いていればそれでいいんだ。ロープウェイである程度高いところまで行って、そこから湖までなだらかな道を歩く……でも、十分にトレッキングだ」
「そうなんだ! それなら私にもできるかも」
「スイスやアイガーやマッターホルン、ユングフラウ、モンブランなど有名な山が沢山あるが、麓の町に宿泊するだけでも勇壮な姿を見られるし、ロープウェイや列車などで絶景ポイントにたやすく行ける。ユングフラウは氷河でできたトンネルにも行ける」
「へぇー! 凄い! 行ってみたい!」
目を輝かせる麻衣を見て、マティアスが提案してきた。
「新婚旅行は、二人でヨーロッパを巡ってみるか? 仕事を辞めるのだったら、時間を気にせずあちこち楽しむ事ができる。調べたところ、日本のパスポートはビザなしでも入国できる国が百九十か国あるらしい。世界で一番信用されているパスポートだ」
「ええ!? 知らなかった!」
てっきりアメリカやヨーロッパ諸国など、そちらの国のほうが優遇されているイメージがあったので、麻衣は素で驚く。
「んっふふ……。分かった。じゃあ、肉!」
グッと拳を握って言うと、マティアスは「勿論だ」と頷く。
「先日行ったステーキ屋にするか? それとも焼き肉?」
「じゃあ、焼き肉! 帰宅方向だし、すすきのまで行こうか」
「わかった」
歩きながら、麻衣は明日にでも行動を起こし、荷物をまとめて仕事を辞める事を考える。
想像するだけでとてつもない解放感を感じ、一気にハイになってしまいそうだ。
「……ねぇ、マティアスさん」
「ん?」
「なんか、私ハイになってる。変な事を言い出したら止めてほしい」
そう言ったが、マティアスはクスクス笑った。
「いいんじゃないか? マイは今までずっと我慢してきた。あんな人たちに囲まれて仕事をしてきたなら、ストレスが溜まって当然だ。そんな自分を『今までよく頑張った』と褒めて、いたわる事は大切だ。俺だって休暇に好きな事を思いきりする〝褒美〟がなければ、仕事などしていられなかった」
「……そうだね。私、入社してからずっと頑張ってきたし、これからマティアスさんと結婚する訳だし……、……人生のピークがきてるんだと思って楽しみたい」
そう思うものの、心の底から「ヒャッホー!」となれないのは分かっている。
「私、自分で言うのもなんだけど、ああいう人たちに囲まれても仕事を辞めなかったし、ある程度まじめなんだと思う。ずっと押し殺して我慢し続けるいっぽうで、『太っているのは自分の責任だから』っていう負い目があるから、何も言い返せずにいた。香澄やマティアスさんは私の体型を否定しないし、『幸せならそれでいい』って言ってくれる。でもやっぱり負い目があるから、『その分別の所で長所を伸ばさないと』って思って、ひたすら我慢して仕事に励んでいたんだと思う」
歩きながら気持ちを吐露すると、マティアスは頷いてくれる。
「俺はマイが不安に思う事について『問題ない』と答えている。だがそれは俺の価値観であり、マイが『負い目がある』と感じるなら、そうなんだろう」
「うん……、ありがと」
彼らしい返事を聞き、麻衣は微笑む。
「だが覚えておいてほしいのは、俺はマイの気持ちを否定しないが、俺はマイが何を考えていても、何をしても、すべて受け入れるという事だ。不安になった時に『嫌われるかもしれない』と決めつけて、俺から距離をとろうとしないでほしい」
「分かった。頼もしい返事をありがとう。そうやって『どすこい』って構えてくれてるから、自由に悩んで最終的には『まぁいっか』ってなれるんだと思う」
『どすこい』と言われたからか、マティアスは相撲のつっぱりのように手を前に付きだしてみせる。
そんな彼を見て微笑みながら、麻衣は幸せな溜め息をついた。
「……私、ヨーロッパに行くの初めて。ドキドキするな」
「今までどこに行った事がある?」
「香澄と一緒にベトナムと台湾には行った。あとは国内とか温泉をちょいちょい。『旅行に行った事がある』っていえるほどの経験者じゃないけど」
「いや、立派な経験者だ」
無条件に褒めてくれるので思わず笑い、逆に彼に尋ねた。
「マティアスさんは? 旅行してます?」
「……そうだな。やはりヨーロッパ内は移動しやすいから、色々行っている。気に入っているのはスイスかな。トレッキングをするのは気持ちがいい」
「へぇ! 登山好きなんですか。私、登山はきつそうで……。凄いな」
素直に感心したのだが、彼はゆるりと首を横に振った。
「登山は頂上へ行く事を目的としているが、トレッキングは山の中を歩いていればそれでいいんだ。ロープウェイである程度高いところまで行って、そこから湖までなだらかな道を歩く……でも、十分にトレッキングだ」
「そうなんだ! それなら私にもできるかも」
「スイスやアイガーやマッターホルン、ユングフラウ、モンブランなど有名な山が沢山あるが、麓の町に宿泊するだけでも勇壮な姿を見られるし、ロープウェイや列車などで絶景ポイントにたやすく行ける。ユングフラウは氷河でできたトンネルにも行ける」
「へぇー! 凄い! 行ってみたい!」
目を輝かせる麻衣を見て、マティアスが提案してきた。
「新婚旅行は、二人でヨーロッパを巡ってみるか? 仕事を辞めるのだったら、時間を気にせずあちこち楽しむ事ができる。調べたところ、日本のパスポートはビザなしでも入国できる国が百九十か国あるらしい。世界で一番信用されているパスポートだ」
「ええ!? 知らなかった!」
てっきりアメリカやヨーロッパ諸国など、そちらの国のほうが優遇されているイメージがあったので、麻衣は素で驚く。
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