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第二十二部・岐路 編
新婚旅行の相談
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「……ねぇ、マティアスさん」
「ん?」
「なんか、私ハイになってる。変な事を言い始めたら止めてほしい」
そう言うと、マティアスはクスクス笑った。
「いいんじゃないか? マイは今までずっと我慢してきた。あんな奴らに囲まれて仕事をしてきたなら、ストレスが溜まるだろう。そんな自分を『今までよく頑張った』と褒めていたわるのは当然だ。俺だって休暇という〝褒美〟がなければ、仕事などしていられなかった」
「……そうだね。私、入社してからずっと頑張ってきたし、これからマティアスさんと結婚する訳だし……、……幸せのピークがきてるんだと思って楽しみたい」
そう思うものの、心の底から「ヒャッホー!」となれない自分がいる。
「私、自分で言うのもなんだけど、ああいう人たちに囲まれても仕事を辞めなかったし、ある程度まじめなんだと思う。ずっと押し殺して我慢するいっぽうで、『太っているのは自分の責任だから』って何も言い返せずにいた。香澄やマティアスさんは私の体型を否定しないし、『幸せならそれでいい』って言ってくれる。でもやっぱり負い目があるから、『その分別の所で長所を伸ばさないと』って思って、ひたすら我慢して仕事に励んでいたんだと思う」
歩きながら気持ちを吐露すると、マティアスは頷いて同意した。
「俺はその問題について『まったく気にしていない』と思っている。だがそれは俺の価値観であり、マイが『負い目がある』と感じるなら、そうなんだろう」
「うん……、ありがと」
彼らしい返事を聞き、麻衣は微笑む。
「俺はマイの気持ちを否定しないが、マイが何を考えても、何をしても、すべて受け入れる。不安になった時に『嫌われるかもしれない』と決めつけて、俺から距離をとらないでほしい」
「分かった。頼もしい返事をありがとう。そうやって『どすこい』って構えてくれてるから、好きに悩んで最終的には『まぁいっか』って思えるんだと思う」
『どすこい』と言われたからか、マティアスは相撲のつっぱりのように手を前に付きだす。
麻衣はそんな彼を見て微笑み、幸せな溜め息をついた。
「……私、ヨーロッパに行くの初めて。ドキドキするな」
「今までどこに行った事がある?」
「香澄と一緒にベトナムと台湾には行った。あとは国内の観光地とか温泉。『旅行に行った』っていえるほどの経験者じゃないけど」
「いや、立派な経験者だ」
彼らしい言い方に思わず笑った麻衣は、逆に尋ねた。
「マティアスさんは旅行経験者?」
「……そうだな。ヨーロッパ内は移動しやすいから、色々行っている。気に入っているのはスイスかな。トレッキングをするのは気持ちがいい」
「へぇ! 登山好きなんですか。私、登山はきつそうで……。凄いな」
素直に感心したのだが、彼はゆるりと首を横に振った。
「登山は頂上へ行く事を目的としているが、トレッキングは山の中を歩いていればそれでいいんだ。ロープウェイである程度高いところまで行って、そこから湖までなだらかな道を歩く……でも、十分にトレッキングだ」
「そうなんだ! それなら私にもできるかも」
「スイスにはアイガーやマッターホルン、ユングフラウ、モンブランなど有名な山が沢山あるが、麓の町に宿泊するだけでも勇壮な姿を見られるし、ロープウェイや列車などで絶景ポイントにたやすく行ける。ユングフラウは氷河でできたトンネルにも行ける」
「へぇー! 凄い! 行ってみたい!」
目を輝かせる麻衣を見て、マティアスが提案してきた。
「新婚旅行は二人でヨーロッパを巡ってみるか? 仕事を辞めるのなら、時間を気にせずあちこち楽しめる。調べたところ、日本のパスポートはビザなしでも入国できる国が百九十か国あるらしい。世界で一番信用されているパスポートだ」
「ええ!? 知らなかった!」
てっきりアメリカやヨーロッパ諸国など、そちらの国のほうが優遇されているイメージがあったので、麻衣は素で驚く。
「日本のパスポートは凄いぞ。……旅行についてだが、ヨーロッパ内であれば国境を越える際にチェックなしに自由に行き来できる国同士の約束の、シェンゲン協定というものがある。入国手続きはドイツでして、色々回ってたとえばイギリスから帰るなら、イギリスで出国手続きをすればOKだ。ただし観光目的なら九十日以内になるから、長くて三か月の新婚旅行だな」
「いやいや、三か月も新婚旅行はいいよ」
麻衣は笑いながらパタパタと手を振るが、マティアスが急に立ち止まったのでつられて足を止めた。
「……な、何?」
彼の顔を覗き込むと、両手で手を握られた。
「ん?」
「なんか、私ハイになってる。変な事を言い始めたら止めてほしい」
そう言うと、マティアスはクスクス笑った。
「いいんじゃないか? マイは今までずっと我慢してきた。あんな奴らに囲まれて仕事をしてきたなら、ストレスが溜まるだろう。そんな自分を『今までよく頑張った』と褒めていたわるのは当然だ。俺だって休暇という〝褒美〟がなければ、仕事などしていられなかった」
「……そうだね。私、入社してからずっと頑張ってきたし、これからマティアスさんと結婚する訳だし……、……幸せのピークがきてるんだと思って楽しみたい」
そう思うものの、心の底から「ヒャッホー!」となれない自分がいる。
「私、自分で言うのもなんだけど、ああいう人たちに囲まれても仕事を辞めなかったし、ある程度まじめなんだと思う。ずっと押し殺して我慢するいっぽうで、『太っているのは自分の責任だから』って何も言い返せずにいた。香澄やマティアスさんは私の体型を否定しないし、『幸せならそれでいい』って言ってくれる。でもやっぱり負い目があるから、『その分別の所で長所を伸ばさないと』って思って、ひたすら我慢して仕事に励んでいたんだと思う」
歩きながら気持ちを吐露すると、マティアスは頷いて同意した。
「俺はその問題について『まったく気にしていない』と思っている。だがそれは俺の価値観であり、マイが『負い目がある』と感じるなら、そうなんだろう」
「うん……、ありがと」
彼らしい返事を聞き、麻衣は微笑む。
「俺はマイの気持ちを否定しないが、マイが何を考えても、何をしても、すべて受け入れる。不安になった時に『嫌われるかもしれない』と決めつけて、俺から距離をとらないでほしい」
「分かった。頼もしい返事をありがとう。そうやって『どすこい』って構えてくれてるから、好きに悩んで最終的には『まぁいっか』って思えるんだと思う」
『どすこい』と言われたからか、マティアスは相撲のつっぱりのように手を前に付きだす。
麻衣はそんな彼を見て微笑み、幸せな溜め息をついた。
「……私、ヨーロッパに行くの初めて。ドキドキするな」
「今までどこに行った事がある?」
「香澄と一緒にベトナムと台湾には行った。あとは国内の観光地とか温泉。『旅行に行った』っていえるほどの経験者じゃないけど」
「いや、立派な経験者だ」
彼らしい言い方に思わず笑った麻衣は、逆に尋ねた。
「マティアスさんは旅行経験者?」
「……そうだな。ヨーロッパ内は移動しやすいから、色々行っている。気に入っているのはスイスかな。トレッキングをするのは気持ちがいい」
「へぇ! 登山好きなんですか。私、登山はきつそうで……。凄いな」
素直に感心したのだが、彼はゆるりと首を横に振った。
「登山は頂上へ行く事を目的としているが、トレッキングは山の中を歩いていればそれでいいんだ。ロープウェイである程度高いところまで行って、そこから湖までなだらかな道を歩く……でも、十分にトレッキングだ」
「そうなんだ! それなら私にもできるかも」
「スイスにはアイガーやマッターホルン、ユングフラウ、モンブランなど有名な山が沢山あるが、麓の町に宿泊するだけでも勇壮な姿を見られるし、ロープウェイや列車などで絶景ポイントにたやすく行ける。ユングフラウは氷河でできたトンネルにも行ける」
「へぇー! 凄い! 行ってみたい!」
目を輝かせる麻衣を見て、マティアスが提案してきた。
「新婚旅行は二人でヨーロッパを巡ってみるか? 仕事を辞めるのなら、時間を気にせずあちこち楽しめる。調べたところ、日本のパスポートはビザなしでも入国できる国が百九十か国あるらしい。世界で一番信用されているパスポートだ」
「ええ!? 知らなかった!」
てっきりアメリカやヨーロッパ諸国など、そちらの国のほうが優遇されているイメージがあったので、麻衣は素で驚く。
「日本のパスポートは凄いぞ。……旅行についてだが、ヨーロッパ内であれば国境を越える際にチェックなしに自由に行き来できる国同士の約束の、シェンゲン協定というものがある。入国手続きはドイツでして、色々回ってたとえばイギリスから帰るなら、イギリスで出国手続きをすればOKだ。ただし観光目的なら九十日以内になるから、長くて三か月の新婚旅行だな」
「いやいや、三か月も新婚旅行はいいよ」
麻衣は笑いながらパタパタと手を振るが、マティアスが急に立ち止まったのでつられて足を止めた。
「……な、何?」
彼の顔を覗き込むと、両手で手を握られた。
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