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第二十二部・岐路 編
堪忍袋の緒
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「俺は日本が好きで、親切でまじめな日本人も大好きだ。……だが〝外国人〟で一括りにできないように、〝日本人〟も一括りにできない。中には救いようがないぐらい、性格が歪んでいる人がいると今日知る事ができた」
「な……っ、せ、性格悪い! 岩本さん、よくこんなのと結婚しますね!?」
笠島の言葉を聞き、一気に腹が立った。
(私を馬鹿にするのはいつもの事だけど、マティアスさんを馬鹿にするのは許さない!)
頭の中でブチッと何かが切れた麻衣は、キッと笠島を睨み反論する。
「さんざんマティアスさんをおだてておきながら、なびかなかったらその態度? だから性格が悪いって言われるんだよ! ずっと思ってたけど、私を地味でデブでブスの〝可哀想な存在〟として、からかって馬鹿にして楽しかった? なのに私が御劔さんと知り合いだと分かったら、急に掌返し? 自分の浅はかさをもっと自覚したら?」
笠島は今まで麻衣に反論された事がなかったので、呆気にとられている。
「私の親友や、付き合ってる友達は皆性格がいい。あんたなんか話にならないぐらいね! あんたがどれだけ自分を可愛いと思っていても、札幌の小企業でチヤホヤされるぐらいじゃ、まだまだなんじゃない? 猿山の大将みたい。本当に自分に自信があるなら、東京に出て商社や外資系の会社でバリバリ稼いでる人を彼氏にしてみたら?」
三人とも麻衣を〝何を言っても言い返さない地味な人〟と思っていたので、ここまで反応があると思っておらず固まっていた。
「本当の勝ち組にはね、外見がいいのは勿論、性格もいい〝本物〟の女性しか選ばれないの! あんた達がどれだけ御劔さんに近づきたがっても、絶対相手にされない。札幌の中央区で、せいぜい威張り腐ってろ!」
吐き捨てたあと、麻衣はマティアスの腕を組み「行こう!」と言ってズンズン歩き始めた。
遅れて後ろから「何あいつ! 信じらんない! 死ねクソデブ!」とヒステリックな叫び声が聞こえたが、ガン無視した。
「……お見事」
マティアスがクスッと笑い、立ち止まると麻衣の額にキスをした。
「ちょ……っ、……ん、……ま、まぁ……、その……」
(三人ともまだこっちを見ているだろうから、見せつけキスぐらい、いいか)
我ながら性格の悪い事を考え、麻衣はいつもなら照れてしまうキスを受け入れる。
「……しかし、さっきも言ったが、日本人も〝色々〟だな」
再び歩き始めたマティアスが言い、麻衣はげんなりとして頷く。
「ドイツ人だって、全員〝いい人〟じゃないでしょ? どこの国の人でも性格の差はあるし、日本人の多くは〝善良〟かもしれないけど、〝善良〟の中にもグラデーションはあるし、海外の人ほど思った事を口にしないぶん陰湿なんだよ」
「確かに、マイの言う通りだ」
マティアスはしみじみと言って頷いた。
「……しかし、これで出社が余計にきつくなったな……。ずっと思っている事をぶちまけたのは、後悔してないけど」
「思うにマイ、有給は残っているのか?」
マティアスに尋ねられ、麻衣は「あ」と声を漏らす。
「……結構……、あるかも」
体調が悪い時など、どうしても休みが必要な時は使っていたが、基本的にまじめに出勤していたので、割と残っているはずだ。
「退職届は出したか?」
「上司に口頭で伝えて、そろそろ退職願を出さないとと思ってるとこ」
「じゃあ、三月末の予定を早めて中ほどに退職する事にし、それに合わせて退職願を書き、受理されたあとは有給を使って、退職日まで休んでしまえば?」
麻衣は目を見開いて一瞬黙ったあと、「天才」と呟いた。
「有給、三十日以上は余ってるから、その作戦余裕でこなせる!」
言ってから麻衣はうんうんと頷き、「よっしゃ!」と拳を天に向けて突き上げた。
「脱! イヤミ女のいる職場!」
同時にピョンと飛び上がり、自分が如何に笠島にストレスを感じていたか痛感した。
マティアスはそんな麻衣を微笑んで見守ったあと、何かを思いだした顔をして提案してくる。
「マイ、会社に行かなくなったら、俺と一緒にドイツに来ないか?」
「えっ?」
まさかそうくると思わず、麻衣は目を丸くする。
「俺はそろそろ日本を発たないとならないし、マイは時間に余裕ができる。なら一緒にドイツに来てもいいんじゃないかと思って」
「……ん、うん……。その案には賛成だけど、ドイツまで飛行機代、どんだけ掛かる? 私、ヨーロッパには行った事なくて……」
「飛行機代ぐらい出させてくれ。そうだ、退職祝いにファーストクラスにするか」
「いっ、いいっ! エコノミーでいい!」
麻衣はブンブンと首を横に振り、必死に抵抗する。
「……いや、俺はエコノミーだと狭くてつらいから、いつもビジネスなんだが……」
「いや、マティアスさんなら脚が長いから、確かにエコノミーはきついかもだけど……。そんな……、ファーストクラスなんて……」
麻衣は呆然としたまま、飛行機好きの芸能人が紹介する、空港や飛行機の番組を思い出す。
一般人には分からない世界を知るのが楽しく、テレビで海外旅行やVIP待遇の人たちの番組があると、好んで見ていた。
香澄が札幌にいた頃は、二人でテレビを見て『すごいねー』と言っていたものだ。
「な……っ、せ、性格悪い! 岩本さん、よくこんなのと結婚しますね!?」
笠島の言葉を聞き、一気に腹が立った。
(私を馬鹿にするのはいつもの事だけど、マティアスさんを馬鹿にするのは許さない!)
頭の中でブチッと何かが切れた麻衣は、キッと笠島を睨み反論する。
「さんざんマティアスさんをおだてておきながら、なびかなかったらその態度? だから性格が悪いって言われるんだよ! ずっと思ってたけど、私を地味でデブでブスの〝可哀想な存在〟として、からかって馬鹿にして楽しかった? なのに私が御劔さんと知り合いだと分かったら、急に掌返し? 自分の浅はかさをもっと自覚したら?」
笠島は今まで麻衣に反論された事がなかったので、呆気にとられている。
「私の親友や、付き合ってる友達は皆性格がいい。あんたなんか話にならないぐらいね! あんたがどれだけ自分を可愛いと思っていても、札幌の小企業でチヤホヤされるぐらいじゃ、まだまだなんじゃない? 猿山の大将みたい。本当に自分に自信があるなら、東京に出て商社や外資系の会社でバリバリ稼いでる人を彼氏にしてみたら?」
三人とも麻衣を〝何を言っても言い返さない地味な人〟と思っていたので、ここまで反応があると思っておらず固まっていた。
「本当の勝ち組にはね、外見がいいのは勿論、性格もいい〝本物〟の女性しか選ばれないの! あんた達がどれだけ御劔さんに近づきたがっても、絶対相手にされない。札幌の中央区で、せいぜい威張り腐ってろ!」
吐き捨てたあと、麻衣はマティアスの腕を組み「行こう!」と言ってズンズン歩き始めた。
遅れて後ろから「何あいつ! 信じらんない! 死ねクソデブ!」とヒステリックな叫び声が聞こえたが、ガン無視した。
「……お見事」
マティアスがクスッと笑い、立ち止まると麻衣の額にキスをした。
「ちょ……っ、……ん、……ま、まぁ……、その……」
(三人ともまだこっちを見ているだろうから、見せつけキスぐらい、いいか)
我ながら性格の悪い事を考え、麻衣はいつもなら照れてしまうキスを受け入れる。
「……しかし、さっきも言ったが、日本人も〝色々〟だな」
再び歩き始めたマティアスが言い、麻衣はげんなりとして頷く。
「ドイツ人だって、全員〝いい人〟じゃないでしょ? どこの国の人でも性格の差はあるし、日本人の多くは〝善良〟かもしれないけど、〝善良〟の中にもグラデーションはあるし、海外の人ほど思った事を口にしないぶん陰湿なんだよ」
「確かに、マイの言う通りだ」
マティアスはしみじみと言って頷いた。
「……しかし、これで出社が余計にきつくなったな……。ずっと思っている事をぶちまけたのは、後悔してないけど」
「思うにマイ、有給は残っているのか?」
マティアスに尋ねられ、麻衣は「あ」と声を漏らす。
「……結構……、あるかも」
体調が悪い時など、どうしても休みが必要な時は使っていたが、基本的にまじめに出勤していたので、割と残っているはずだ。
「退職届は出したか?」
「上司に口頭で伝えて、そろそろ退職願を出さないとと思ってるとこ」
「じゃあ、三月末の予定を早めて中ほどに退職する事にし、それに合わせて退職願を書き、受理されたあとは有給を使って、退職日まで休んでしまえば?」
麻衣は目を見開いて一瞬黙ったあと、「天才」と呟いた。
「有給、三十日以上は余ってるから、その作戦余裕でこなせる!」
言ってから麻衣はうんうんと頷き、「よっしゃ!」と拳を天に向けて突き上げた。
「脱! イヤミ女のいる職場!」
同時にピョンと飛び上がり、自分が如何に笠島にストレスを感じていたか痛感した。
マティアスはそんな麻衣を微笑んで見守ったあと、何かを思いだした顔をして提案してくる。
「マイ、会社に行かなくなったら、俺と一緒にドイツに来ないか?」
「えっ?」
まさかそうくると思わず、麻衣は目を丸くする。
「俺はそろそろ日本を発たないとならないし、マイは時間に余裕ができる。なら一緒にドイツに来てもいいんじゃないかと思って」
「……ん、うん……。その案には賛成だけど、ドイツまで飛行機代、どんだけ掛かる? 私、ヨーロッパには行った事なくて……」
「飛行機代ぐらい出させてくれ。そうだ、退職祝いにファーストクラスにするか」
「いっ、いいっ! エコノミーでいい!」
麻衣はブンブンと首を横に振り、必死に抵抗する。
「……いや、俺はエコノミーだと狭くてつらいから、いつもビジネスなんだが……」
「いや、マティアスさんなら脚が長いから、確かにエコノミーはきついかもだけど……。そんな……、ファーストクラスなんて……」
麻衣は呆然としたまま、飛行機好きの芸能人が紹介する、空港や飛行機の番組を思い出す。
一般人には分からない世界を知るのが楽しく、テレビで海外旅行やVIP待遇の人たちの番組があると、好んで見ていた。
香澄が札幌にいた頃は、二人でテレビを見て『すごいねー』と言っていたものだ。
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