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第二十二部・岐路 編
探しに行っていいか?
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しばらくそのままショックを受けていたが、溜め息をつき床の上に座り込む。
「……壊したなら、もう一度自分の手で積み上げていかないと」
今まで様々な失敗を経験してきた。
仕事で大きな損失を受けた事もあったし、人間関係が戻らなくなった事もあった。
けれど人は大なり小なり失敗し、学んでいく生き物だと思っている。
人間関係も、一度終わったらそれまでの人もいるし、やり直させてくれる人もいる。
それはその人の許容量の大きさ如何もあるし、タイミングや別れ方など様々な因子が絡んでいる。
「……香澄なら大丈夫だ。……俺は香澄を信じている」
何が理由でブロックされたかは分からないが、フェリシアに残されたメッセージが何よりも雄弁に彼女の気持ちを語っている。
「香澄は本心ではない事を思わせぶりに言う人じゃない。いつも真正面から俺にぶつかってくれて、純粋な人だから惹かれたんだ」
この一年少し香澄と付き合い、試されたと感じた事はないし、自分のいないところで不平不満を言われたと感じた事もない。
セックスがしつこいとか、愛情が重たいとか、そういう文句はあっただろうが、ネガティブな感情は抱かれていない自信はある。
自分の人間性に自信があるのではなく、「香澄はそういう人ではない」という確信を持っていた。
「……香澄、探しに行っていいか?」
返事がないと分かっていながら、佑はこの場にいない彼女に問いかけた。
『早く来て。会いたいよ』
そんな都合のいい空耳が聞こえてしまうぐらいには、香澄に惚れている。重症だ。
「……行くよ。色んな人に怒られて、筋を通して君に会いに行く」
佑は泣き笑いの表情で言い、覚悟を決めて立ちあがった。
**
飛行機ではフルフラットになるシートでぐっすり眠り、朝食はホテルのような立派な洋食をペロリと平らげた。
ジョン・F・ケネディ国際空港までは、羽田から十三時間少しだ。
「セオが運転する車はこっちで都合つけておいたけど、カスミは僕らと一緒に乗るからね」
クラウスが言い、瀬尾は「お気遣い感謝いたします」と頭を下げる。
「セオって発音がテオと似てない? テオに『こいつテオだよ』って紹介してやろうか」
双子はそんな事を言い、いたずらを企んでクスクス笑い合っている。
「あの、テオさんには連絡したんですか?」
「あー、まだしてなかったね」
「もー」
アロイスが軽い口調で言うので、香澄は脱力してしまう。
「ホームタウンだし、いつでも出てこられるでしょ。俺たちだって一日、二日で発つ訳じゃないし」
テオにメッセージを打ちながら、アロイスはケラケラと笑う。
そんな双子だが、空の上でもWi-Fiを駆使し、連絡があるとリモートで会議などをし、きちんと働いている。
「それはそうなんですけど……」
(相変わらず、行き当たりばったりだなぁ……)
もともと双子が自由な人なのは分かっていたが、こうやって一緒に行動するようになると、余計にヒヤヒヤする。
(と言っても、私が細かい性格しているのもあるんだけど。秘書だったし、アポとるのは当たり前で……)
そこまで考えて、秘書〝だった〟と過去形に考えてしまう自分がいるのに気づき、苦く笑う。
(あんなに悲しんでおいて、もう今の状況に順応してる自分がいる。薄情だな……)
身が引きちぎられるほど悲しかったはずなのに、今はアメリカの空の上で双子と笑い合っている。
確かに一度は吹っ切ったはずだが、そんなものだったのか……と自分に尋ねたくなった。
気持ちを切り替えるために、双子に尋ねた。
「NYって観光するのに何がありますか? ヨーロッパはちょいちょい行きましたが、アメリカは出張ついでに少し買い物するぐらいだったので」
「んーと、まずはタイムズスクエアでしょ。ブロードウェイのチケットをとって見に行ってもいいし」
クラウスが言い、アロイスが続ける。
「セントラルパーク、自由の女神、五番街、ブルックリンブリッジ、よく映画の舞台になってるグランドセントラルターミナル駅……。まぁ、セントラルパークはホテルの窓から見えるけどね」
「日本で言うと皇居ビューですか?」
「まぁそんなもん」
「……壊したなら、もう一度自分の手で積み上げていかないと」
今まで様々な失敗を経験してきた。
仕事で大きな損失を受けた事もあったし、人間関係が戻らなくなった事もあった。
けれど人は大なり小なり失敗し、学んでいく生き物だと思っている。
人間関係も、一度終わったらそれまでの人もいるし、やり直させてくれる人もいる。
それはその人の許容量の大きさ如何もあるし、タイミングや別れ方など様々な因子が絡んでいる。
「……香澄なら大丈夫だ。……俺は香澄を信じている」
何が理由でブロックされたかは分からないが、フェリシアに残されたメッセージが何よりも雄弁に彼女の気持ちを語っている。
「香澄は本心ではない事を思わせぶりに言う人じゃない。いつも真正面から俺にぶつかってくれて、純粋な人だから惹かれたんだ」
この一年少し香澄と付き合い、試されたと感じた事はないし、自分のいないところで不平不満を言われたと感じた事もない。
セックスがしつこいとか、愛情が重たいとか、そういう文句はあっただろうが、ネガティブな感情は抱かれていない自信はある。
自分の人間性に自信があるのではなく、「香澄はそういう人ではない」という確信を持っていた。
「……香澄、探しに行っていいか?」
返事がないと分かっていながら、佑はこの場にいない彼女に問いかけた。
『早く来て。会いたいよ』
そんな都合のいい空耳が聞こえてしまうぐらいには、香澄に惚れている。重症だ。
「……行くよ。色んな人に怒られて、筋を通して君に会いに行く」
佑は泣き笑いの表情で言い、覚悟を決めて立ちあがった。
**
飛行機ではフルフラットになるシートでぐっすり眠り、朝食はホテルのような立派な洋食をペロリと平らげた。
ジョン・F・ケネディ国際空港までは、羽田から十三時間少しだ。
「セオが運転する車はこっちで都合つけておいたけど、カスミは僕らと一緒に乗るからね」
クラウスが言い、瀬尾は「お気遣い感謝いたします」と頭を下げる。
「セオって発音がテオと似てない? テオに『こいつテオだよ』って紹介してやろうか」
双子はそんな事を言い、いたずらを企んでクスクス笑い合っている。
「あの、テオさんには連絡したんですか?」
「あー、まだしてなかったね」
「もー」
アロイスが軽い口調で言うので、香澄は脱力してしまう。
「ホームタウンだし、いつでも出てこられるでしょ。俺たちだって一日、二日で発つ訳じゃないし」
テオにメッセージを打ちながら、アロイスはケラケラと笑う。
そんな双子だが、空の上でもWi-Fiを駆使し、連絡があるとリモートで会議などをし、きちんと働いている。
「それはそうなんですけど……」
(相変わらず、行き当たりばったりだなぁ……)
もともと双子が自由な人なのは分かっていたが、こうやって一緒に行動するようになると、余計にヒヤヒヤする。
(と言っても、私が細かい性格しているのもあるんだけど。秘書だったし、アポとるのは当たり前で……)
そこまで考えて、秘書〝だった〟と過去形に考えてしまう自分がいるのに気づき、苦く笑う。
(あんなに悲しんでおいて、もう今の状況に順応してる自分がいる。薄情だな……)
身が引きちぎられるほど悲しかったはずなのに、今はアメリカの空の上で双子と笑い合っている。
確かに一度は吹っ切ったはずだが、そんなものだったのか……と自分に尋ねたくなった。
気持ちを切り替えるために、双子に尋ねた。
「NYって観光するのに何がありますか? ヨーロッパはちょいちょい行きましたが、アメリカは出張ついでに少し買い物するぐらいだったので」
「んーと、まずはタイムズスクエアでしょ。ブロードウェイのチケットをとって見に行ってもいいし」
クラウスが言い、アロイスが続ける。
「セントラルパーク、自由の女神、五番街、ブルックリンブリッジ、よく映画の舞台になってるグランドセントラルターミナル駅……。まぁ、セントラルパークはホテルの窓から見えるけどね」
「日本で言うと皇居ビューですか?」
「まぁそんなもん」
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