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第二十二部・岐路 編

フェリシアに残されたメッセージ

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(……自分色に染まってほしいと、色んな趣味を押しつけたんだとすぐ分かる。……それでも、彼女は抵抗せずに受け入れてくれたんだろうか)

 人の良さそうな女性だったから、『こういう服を着てほしい』と言ったら素直に頷いたのだろうか。

 だが意志の強そうなところもあったから、言われるがままではなかったと思う。

(……いい関係を結べていたんだろうか)

 溜め息をついた佑は、ソファに腰かけてぼんやりと香澄の部屋を見る。

 ……と、十五インチのフェリシアを見て、ある事を思いついた。

「……フェリシア、お気に入りの曲のリストを見せて」

《はい、タスクさん》

 そう命じると、フェリシアの画面に、香澄が好んでいる曲がゆっくりスクロールしていく。

 そのほとんどがクラシック曲で、佑も好きな曲が多い。

 日本のアーティストの曲も混じっていたが、試しに再生してみると穏やかな曲、切ないラブソングなどが多い。

 かと思えばギンギンに派手な曲もあり、意外性がある。

 ――もっと彼女の事が知りたい。

 ――面と向かって顔を合わせなくても、これなら。

 そう思った佑は、彼女の秘密を探るようで申し訳ないと思いながら、さらにフェリシアに命令をした。

「フェリシア、お気に入りの映画のリストを見せて」

《はい、タスクさん》

 映画もまた、佑も好んでいるタイトルが多かった。

 世界的に大ヒットしている魔法使いシリーズや、プリンセスものの実写もあるが、アクションものや、マニアックなタイトルを見ると「おっ」となる。

 そしてさらに申し訳ないと思いながら、録音、録画がないか確認した。

「フェリシア、メモはある?」

《一件あります》

「……フェリシア、メモを再生して」

《はい、タスクさん》

 すると画面が切り変わり、この室内を背にした香澄が映った。

 彼女は画面を見ながら苦笑いし、ストレートヘアをすべすべと撫でている。

《……あの、佑さん。……いえ、社長》

 やがて香澄は、戸惑いながら話し始める。

《沢山困らせてごめんなさい。悪気はなかったです。……でも、『思いだしてくれたらいいな』っていう気持ちもありました。……けど、その思いがあなたを困らせていた。『頭が痛い』って言って、ずっと我慢してくれていた。本当は『目の前からいなくなってほしい』って思っていたのを分かっていたのに、……私は僅かな可能性にすがって、居座ってしまった。……ごめんなさい》

 画面の中の彼女は、泣きそうな顔で微笑む。

《……私はもうこの家を去るけど、言わせてください》

 我慢しきれなかったのか、香澄は零れた涙を拭って笑った。

《あなたが好きです》

 その、まっすぐな告白を聞いて、胸の奥がズグンと疼いた。

 あんな事をしてしまったのに、彼女はまだ自分を想ってくれている。

 こんなに悲しく、心から自分を想っている告白をされた事はない。

《私はめげません。私が出ていくのは、佑さんの頭痛の種にならないためです。私の事を思いだしたら、すぐ連絡してください。これから私はドイツに行って、そのあとどこの国に向かうか分かりませんけど……、でも、どこにいてもすぐに会いに行きます!》

 香澄は涙を流しながら、あくまで笑顔で訴える。

《佑さんが好き! だいっ……好きです! 私はあなただけの秘書です。呼んでくれたらすぐに駆けつけますからね! だから、思いだした時のために、スマホにある私の連絡先だけは消さないでください。……お願い》

 佑は動画メモを見ながら、いつの間にか涙を流していた。

 目の奥が熱くなり、次から次に涙が溢れ、頬を伝っていく。

 彼女の姿を見ると、ズキズキと頭が痛む。

 でもより、香澄のメッセージを胸に刻みつけるほうが大事だと本能が訴えていた。

《いーい? こんな恥ずかしい事言うの、最初で最後だからね。……ううん。リクエストがあったら言っちゃうかもだけど……。……私以上に佑さんの事を愛せる人、いないからね。私、佑さんの格好いいところだけじゃなくて、残念なところも、お父さんみたいなところも全部好きなの。……佑さん、お父さんカブトムシなんだよ》

 そう言って、香澄は泣きながらクスクス笑う。

 最後に彼女は愛に溢れた表情で笑い、言った。

《世界で一番愛しています。私は、あなたが愛するうさぎです》

 そのあと、香澄はグスッと洟を啜ってから手を伸ばし、フェリシアの液晶をタップした。

「…………」

 彼女からのメッセージが終わったあと、《動画メモを削除しますか?》とフェリシアが尋ねてくる。
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