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第二十二部・岐路 編
執着の果ての誤算
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笑いがこみ上げるのと同時に、心の中で『勝った』と思った。
(どんな美人かと思えば、佑ったらこんな人と結婚しようとしてるの?)
彼の婚約者は不細工ではないが、想像していた美女とはかけ離れていた。
(あの人も結婚を意識する年齢だし、言い寄られて妥協したんじゃない? 胸だけは大きいみたいだから)
パッと見、賢そうにも見えないし、とても凡庸だ。
なら赤松香澄という女性が佑を落とせた理由は、ベッドでの相性なのでは……と想像した。
掲示板には『胸がデカい』『素人系』『こういうタイプこそ淫乱』と書いてあり、〝そういう事〟が得意なのだろうと思った。
美智瑠は夫の浮気を認めたくない一心で、香澄を見下して自尊心を保とうとしていた。
普段の彼女はネットの炎上や、くだらない事で盛り上がるSNSの人たちを、見下しているタイプだった。
だが成功していると思っていた人生が下り坂になり、認めたくないあまり、過去の栄光――佑に執着し始めた。
彼女に自分の夫に向き合う強さ、もっと言えば六年前の佑に向き合う強さがあったら、こんな事にはならなかったかもしれない。
考え方、自分の選択一つで未来は変わっていく。
だが美智瑠は、安易な幸せを求めてしまったのだ。
そのあとも美智瑠は佑のニュースを読みあさり、夫を会話する時も『佑は……』ばかりになった。
自分の妻が別れた元彼ばかりを気にして、快く思う夫がいるはずがない。
もとから険悪気味になっていたのもあり、二階堂は〝余所〟に癒しを求め始めた。
だが美智瑠は夫の心変わりの原因に気づく事ができず、佑に執着し続けた。
やがて佑がパリで刺されたというニュースが流れ、日本全国がざわめく。
佑はフランスに滞在したままで実感がなかったかもしれないが、日本では毎日のようにワイドショーで彼の事が取り沙汰されていた。
Chief Everyには問い合わせの電話が殺到し、TMタワーの前には彼を心配する女性ファンが詰めかけるほどだ。
その頃には美智瑠は夫と離婚協議中になっていた。
(あの平凡な女に佑を支えられるの? 怪我人の世話って大変なのよ? どうせお飾りの秘書に決まってるし、そんな根性があると思えない)
かつての自分を棚に上げた美智瑠の頭の中は、佑で一杯になっていた。
(私なら彼を支えられる。今度こそやり直すのよ。頼りにならない女に愛想を尽かした時こそ、有能な私を思い出すはずだわ)
一筋の光が差し、目の前に明るい未来が広がった気がした。
美智瑠はChief Everyで同僚だった女性に連絡をしてお茶をし、世間話をしながら佑の自宅が白金台にあると知った。
場所さえ分かれば、あとは歩いて探せばいい。
彼の自宅なら豪邸に決まっている。高級住宅街とはいえ、大豪邸はそう多くないはずだ。
そうして美智瑠は御劔邸を訪れ、復縁への期待に胸を膨らませてチャイムを鳴らした。
なのに――。
「馬鹿!!」
ヒステリックに叫んだ彼女を、通りすがった人がギョッとして見る。
「心配してあげたのに……っ、馬鹿……っ」
声に出してしまうと、もう駄目だった。
すべてに絶望した美智瑠は声を上げて泣き、ズルズルと道ばたに座り込んだ。
**
疲れ切った佑は、風呂に入ったあと寝室に移った。
照明を落とした部屋でスタンドライトをつけ、カウチソファに脚を投げ出して本を開く。
ベストセラーの本なのに、読もうとしても目が滑ってページが進まない。
「はぁ……」
溜め息をついた時、電話が鳴った。
スマホと同期させているフェリシアの画面に映ったのは、妹の名前だ。
何を言われるか察し、もう一度溜め息をついた佑は「フェリシア、電話を繋いで」と命令を出した。
「もしもし」
応答すると、フェリシアのスピーカーから澪の声がした。
(どんな美人かと思えば、佑ったらこんな人と結婚しようとしてるの?)
彼の婚約者は不細工ではないが、想像していた美女とはかけ離れていた。
(あの人も結婚を意識する年齢だし、言い寄られて妥協したんじゃない? 胸だけは大きいみたいだから)
パッと見、賢そうにも見えないし、とても凡庸だ。
なら赤松香澄という女性が佑を落とせた理由は、ベッドでの相性なのでは……と想像した。
掲示板には『胸がデカい』『素人系』『こういうタイプこそ淫乱』と書いてあり、〝そういう事〟が得意なのだろうと思った。
美智瑠は夫の浮気を認めたくない一心で、香澄を見下して自尊心を保とうとしていた。
普段の彼女はネットの炎上や、くだらない事で盛り上がるSNSの人たちを、見下しているタイプだった。
だが成功していると思っていた人生が下り坂になり、認めたくないあまり、過去の栄光――佑に執着し始めた。
彼女に自分の夫に向き合う強さ、もっと言えば六年前の佑に向き合う強さがあったら、こんな事にはならなかったかもしれない。
考え方、自分の選択一つで未来は変わっていく。
だが美智瑠は、安易な幸せを求めてしまったのだ。
そのあとも美智瑠は佑のニュースを読みあさり、夫を会話する時も『佑は……』ばかりになった。
自分の妻が別れた元彼ばかりを気にして、快く思う夫がいるはずがない。
もとから険悪気味になっていたのもあり、二階堂は〝余所〟に癒しを求め始めた。
だが美智瑠は夫の心変わりの原因に気づく事ができず、佑に執着し続けた。
やがて佑がパリで刺されたというニュースが流れ、日本全国がざわめく。
佑はフランスに滞在したままで実感がなかったかもしれないが、日本では毎日のようにワイドショーで彼の事が取り沙汰されていた。
Chief Everyには問い合わせの電話が殺到し、TMタワーの前には彼を心配する女性ファンが詰めかけるほどだ。
その頃には美智瑠は夫と離婚協議中になっていた。
(あの平凡な女に佑を支えられるの? 怪我人の世話って大変なのよ? どうせお飾りの秘書に決まってるし、そんな根性があると思えない)
かつての自分を棚に上げた美智瑠の頭の中は、佑で一杯になっていた。
(私なら彼を支えられる。今度こそやり直すのよ。頼りにならない女に愛想を尽かした時こそ、有能な私を思い出すはずだわ)
一筋の光が差し、目の前に明るい未来が広がった気がした。
美智瑠はChief Everyで同僚だった女性に連絡をしてお茶をし、世間話をしながら佑の自宅が白金台にあると知った。
場所さえ分かれば、あとは歩いて探せばいい。
彼の自宅なら豪邸に決まっている。高級住宅街とはいえ、大豪邸はそう多くないはずだ。
そうして美智瑠は御劔邸を訪れ、復縁への期待に胸を膨らませてチャイムを鳴らした。
なのに――。
「馬鹿!!」
ヒステリックに叫んだ彼女を、通りすがった人がギョッとして見る。
「心配してあげたのに……っ、馬鹿……っ」
声に出してしまうと、もう駄目だった。
すべてに絶望した美智瑠は声を上げて泣き、ズルズルと道ばたに座り込んだ。
**
疲れ切った佑は、風呂に入ったあと寝室に移った。
照明を落とした部屋でスタンドライトをつけ、カウチソファに脚を投げ出して本を開く。
ベストセラーの本なのに、読もうとしても目が滑ってページが進まない。
「はぁ……」
溜め息をついた時、電話が鳴った。
スマホと同期させているフェリシアの画面に映ったのは、妹の名前だ。
何を言われるか察し、もう一度溜め息をついた佑は「フェリシア、電話を繋いで」と命令を出した。
「もしもし」
応答すると、フェリシアのスピーカーから澪の声がした。
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