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第二十二部・岐路 編

何とかなるさ

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 そのようにいつものお喋りをしていると、背が高い男性が両手に紙袋を幾つも提げて部屋に入ってきた。

「ボス、お使い終わりました!」

 茶色い髪に茶色い目の眼鏡を掛けた彼――フィンは好青年なのだが、確かに漫画、アニメが好きそうと言われるとそういう雰囲気が伺えた。

(こう感じちゃうの、偏見なのかな)

 そう思っていると、双子がフィンに香澄を紹介した。

「フィン、こちらがフラウ・カスミ。オーパもオーマも可愛がってる子だから、扱いは丁寧にね」

「初めまして、赤松香澄です」

 ペコリとお辞儀をすると、フィンは眼鏡の奥の目を瞬かせてからパッと笑った。

「宜しくお願いします! 僕はフィン・アルトナー。二十六歳のドイツ人です」

 彼が大きな手を差しだしてきたので、香澄は彼と握手をした。

「よし、じゃあそろそろ出ようか。荷物は大丈夫?」

「はい」

 護衛の手が塞がってはいけないので、事前にパッキングした荷物を地下駐車場に停めてある車に積んであった。

「じゃあ、しばらく日本を離れるよ」

 アロイスはポンポンと香澄の背中を叩く。

「カスミの安全は俺たちがしっかり守るから安心して」

「……はい、ありがとうございます」

 香澄はクシャッと笑い、コートを羽織った。





 車に乗ってホテルを出たあと、一路羽田空港へ向かう事になる。

 イヤフォンで音楽を聴きながら、香澄は麻衣にメッセージを打っていた。

【しばらく日本を離れる事になります。帰国する時は連絡するね。お土産楽しみにしてて!】

 すると、週末だからかすぐに返事がある。

【大丈夫? 御劔さんが刺されたとか、色々あって負担になってるんじゃない?】

 香澄は親友のメッセージを見て苦笑いする。

【百パー大丈夫とは言わない。でも何とかなるって信じてる】

 あまり具体的な事を書かない香澄の文章を見て、麻衣も察したのだろう。

【OK! 海外でのびのびしてきな! ただ、心配だから安心できるように連絡はちょうだい。スタンプだけでもいいから】

【分かった。心配ありがとう】

【何なら、美味しい物とか綺麗な景色とか見せて!】

【了解!】

 麻衣なりに、佑もろとも襲われた香澄に、どう声を掛けたらいいのか分からないでいるのかもしれない。

 お互い〝何か〟はあっても、相手が話すまでは根掘り葉掘り尋ねないタイプだ。

 その距離感があるからこそ、今まで親友としてやってこれた。

(ありがとう、麻衣)

 香澄は心の中で親友にお礼を言い、うさぎのキャラクターが力こぶを作って『がんばります!』と言っている動くスタンプを送った。




 その後、香澄は双子のプライベートジェットに乗り、日本を離れた。

「カスミ、うちんとこのジェットも料理が美味しいから、楽しみにしてて」

「はい!」

 四人掛けのシートに双子と向かい合わせに座り、彼らが話しかけてくれるので気が紛れありがたい。

 別の所では日本とドイツの護衛たちが会話をし、そこそこ盛り上がっているようだ。

 ぼんやりと窓の外に広がる青空と白い雲を見ていると、アロイスが微笑んで言った。

「Das klappt schon irgendwie.(何とかなるさ)」

 ドイツ語で言われ、香澄は微笑む。

「はい」

 そして後ろ髪引かれる思いで目を閉じ――、心の中で佑に別れを告げた。



**



 週末の夜、佑が帰宅するといつものようにフェリシアが迎える。

『おかえりなさい、タスクさん』

「ただいま」

 少し遅い時間に帰ったので、斎藤はもう帰宅しているようで邸内は静まりかえっている。

 うがいと手洗いをして荷物を置いて着替え、冷蔵庫にある作り置きを温めようとした時、母屋のチャイムが鳴った。
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