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第二十二部・岐路 編

俺たちのところに来なよ

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 香澄は少しの間、画面越しに二人を見ていたが、クシャッと笑って白状した。

『佑さんの家を出る事になりました』

Wirklichマジで!?』

Unglaublich信じらんない!!』

 あまりに驚いた双子はとっさにドイツ語で反応する。

 そのあと彼らは目をまん丸に見開き、お互いの顔を見る。

『……あいつ最低だ』

『あれだけ路頭に迷わせるなって釘を刺したのに』

 双子が本気で佑に怒りを抱いたのが分かり、香澄は慌ててフォローする。

『で、でも、住まいは面倒をみてくれるみたいで……』

『そんなの当然だろ! 結婚して人生を請け負うって決めた女の子なのに……っ、なんで……』

 クラウスは大きな声で言い、テーブルを拳で叩く。

 あまりに激しい反応があったので、逆に香澄が慌ててしまった。

『あ、あの。だ、大丈夫ですから……』

『大丈夫じゃない。前から思ってたけど、大丈夫じゃないのに平気なフリするのやめなよ』

 アロイスはフォークとナイフを置き、腕を組んでまじめな顔で言う。

『本当は泣きたいぐらい悲しいんでしょ? こんな理不尽な事ないって、絶望してるでしょ? どうして俺たちの前でまで大人ぶってるの?』

 問い詰めるように言われ、香澄は視線を落とす。

『……だって……。泣いたって状況が変わる訳じゃないですし。大人だし、気持ちを切り替えて次の事を考えないと……』

 小さな声で言うと、双子はしばし黙ったあと、ボソボソと何かを相談し始める。

 やがて話が纏まったのか、アロイスが言った。

『決めた。カスミ、俺たちのところに来なよ』

『えっ?』

 まさかそう言われると思わず、香澄はまじまじと双子を見る。

『ずっと前にも言ったじゃん。〝タスクにフラれたらいつでも僕らのところにおいで〟って』

『い、言ってましたけど……、あれはおふざけでしょう?』

 いつも軽い調子で言われていたので、佑をからかう一環としての台詞だと思っていた。

『本気だよ。僕らはカスミを気に入ってる。凄くいい子だし、いい子すぎて誰かに守られないと生きていけない子だと思ってる。……勿論、カスミは札幌でエリアマネージャーをやっていた自立した女性だ。でもタスクと出会った以上、今のカスミを狙う悪党は大勢いるんだ』

 クラウスの言葉の続きを、アロイスが請け負う。

『エミリアやフェルナンドみたいな奴が、またいつ現れるか分からない。何かが起こる前に、カスミは俺たちが守る。俺たちにはミサトがいるから、勿論、恋愛的な意味じゃないから安心して。親戚になると思って受け入れた子だからこそ、守りたいんだ』

 双子の深い想いを聞いた時、家族を大切にするアドラーの顔が脳裏に浮かんだ。

『……お気持ちはとてもありがたいです。でも、誘拐されたとはいえ、会社に断りも入れず日本を離れていたのに、これ以上迷惑を掛ける訳には……』

『カスミはタスクに〝秘書になってくれ〟って言われたんでしょ? 今のタスクはカスミを求めてない。むしろ遠ざけようとしてる。そんな奴のために働けるの? 今だって酷い態度をとられてるんじゃない?』

 アロイスにズバリと言われ、香澄は返す言葉を失う。

『僕らはタスクと付き合いが長いから、あいつがどういう奴かよく知ってるよ。カスミは自分に甘いタスクしか知らないでしょ。あいつがカスミ以外のどうでもいい奴に、どんな顔をするか知ってる?』

 クラウスに尋ねられ、香澄は溜め息と共に首を横に振る。

 彼の言う通り、自分が知っているのは恋人、婚約者としての佑だけだ。

(……そういえば、私は理想の恋人、社長以外の佑さんを知らないかもしれない。過去の話は沢山聞いたし、真澄さんや羽原さん達から話も聞いた。……でも、知っているのは佑さんサイドの話だけだった)

 彼の事なら何でも知っていると、自惚れていたのに今さら気づいた。

 佑だって言っていたはずだ。

 物事は多面的で、自分が知っているのはごく一部の姿だけ。油断していると未知の面に足元をすくわれかねない。

 何か一つのものを盲信するのは、とても危険だと理解しなければならなかったのに……。

『カスミが仕事の心配をするなら、俺からタスクに言っておくよ』

 そう言ったあと、アロイスはスーツの内ポケットからもう一台スマホを出し、操作したあとに立ちあがって席を外した。

 同時に、御劔邸のどこかからコール音が聞こえてきた。
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