【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

文字の大きさ
上 下
1,461 / 1,559
第二十二部・岐路 編

目の前の事を一つずつこなすしかないんです

しおりを挟む
 斎藤は静かに立ちあがり、テーブルを回り込んで香澄の前に立つ。

 そして彼女を優しく抱き締め、ポンポンと背中を叩いてきた。

「香澄さんはどうしたいですか?」

 尋ねられ、香澄は手で目元を拭って考える。

「……必要とされる限り、側にいて支えたいです」


「なら、今はそれを第一に考えましょう。まだ起こっていない事を不安視しても、思考の無駄になりますから」

「……そうですね」

 第三者の冷静なアドバイスを聞き、高ぶっていた気持ちが少し落ち着く。

「私もレストランに勤めていた時は、お店によって不安になりましたね」

 話題が変わり、香澄は目を瞬かせる。

 斎藤は床に膝をつき、笑いかけてきた。

「星付きレストランで修業をした時は、お金のある方々や、記念日などに利用される方が主な客層で、最高の一皿、コースを提供していました。ですがどんなに味が良くても、ギャルソンの受け答え一つや、お客様との行き違いでグルメサイトで低評価をつけられてしまいます」

「あぁ……、ありますよね。そういうの。私も飲食店に勤めていたので分かります」

 話題が変わって思考を巡らすと、気持ちが落ち着いていく。

「カリスマシェフの人気や伝統はあるので、そういう事があってもやれていました。料理人同士のライバル心とか、ギスギスした雰囲気はありましたけどね」

 斎藤は悪戯っぽく笑い、ウインクする。

「高級店とは別に、カジュアルな店でも修行をしました。そこではオーナーシェフの経営手段や、お客様とのやり取りも込みで勉強になりましたね。誰に向けて料理を作るのか、何を売りにしていけばいいのか。お客様のために価格は抑えたいけど、店を長続きさせるために安売りはできない。イベント時のアイデアにも悩みました。他にも仕入れ先との交渉、ホールスタッフとの兼ね合い……諸々」

 共感できる事ばかりで、香澄は何度も頷いた。

「考えたらキリがありません。不安材料なんて沢山あります。少しでも世界情勢が不安になれば、輸入や燃料価格に関係する事など、芋づる式に悩みの種が増えていきますしね。SNSを見れば他のお店の宣伝や、来店したお客様の投稿もあり、『うちの店は……』と嫉妬してしまう時もあります」

「はい」

 チェーン店同士でも、○○店に売り上げが負けていると本社から言われるので、火花を散らすところは散らしている。

 個人の店となれば生計に直接関わってくるので、もっと切羽詰まっているだろう。

「……でもね、目の前の事を一つずつこなすしかないんです」

 斎藤は香澄を見上げ、彼女の両手をキュッと握ってきた。

「美味しい料理を作れるように腕を磨いて、情報のアンテナを張る。そして今日来てくださったお客様に笑顔で接し、感謝する。お皿もカトラリーもピカピカにして、テーブルも照明もきちんと拭いて、清潔で感じのいいお店にしておく。そうすれば常連さんは来てくれますし、気に入ってくださった方はSNSで拡散してくれます。店が一生懸命SNSで発信しても、見ない人は見ないですからね」

「確かにそう思います」

 斎藤の言葉を聞いていると、徐々に前向きな気持ちになっていった。

「香澄さんもまず自分を整えましょう。しっかり食べて寝て、健康な体を作るんです。寝不足で空腹な状態で、ろくな事なんて考えられませんから」

「はい」

「気分転換に散歩に行ったり、体調が整ったら以前のように走るのも、ショウコさんにトレーニングをお願いするのもいいですね。汗を流したらスッキリすると思います」

「はい、そうします」

「御劔さんや、松井さん、河野さんと相談して仕事に復帰するスケジュールも立てましょう。やる事がなくて自宅でボーッとしていると、自分が社会から切り離されたように感じてしまいますから。つらくても、働いて気を紛らわせたほうがいい時ってあるんです」

「はい」

 優しく、けれど理路整然と説明され、香澄の心が整頓されていく。

「あとは岩本さんに電話をするとか、会社の方と女子会するとか、何でしたら私や島谷さんもお付き合いします。沢山お喋りして、カラオケで大きな声を出しましょう。香澄さんは大きな声を出さないので、ストレスを自分の内側に溜めてしまうでしょう? 思っている事を口にするだけでも、大分違いますから」

「確かに、それはあるかもしれません」

 香澄は思わず笑う。

「どん底になった時、一発逆転で勝てる方法はありません。まず自分の調子を整えて、思考が不健康にならないよう気をつけましょう。傷付いた時は信頼できる人に沢山愚痴を言って、落ち着いたらやれる事をやっていくんです」

「……はい! ありがとうございます」

 香澄は斎藤に例を言い、クシャッと笑った。
しおりを挟む
感想 560

あなたにおすすめの小説

忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜

青花美来
恋愛
「……三年前、一緒に寝た間柄だろ?」 三年前のあの一夜のことは、もう過去のことのはずなのに。 一夜の過ちとして、もう忘れたはずなのに。 「忘れたとは言わせねぇぞ?」 偶然再会したら、心も身体も翻弄されてしまって。 「……今度こそ、逃がすつもりも離すつもりもねぇから」 その溺愛からは、もう逃れられない。 *第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞しました*

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。 その肩書きに恐れをなして逃げた朝。 もう関わらない。そう決めたのに。 それから一ヶ月後。 「鮎原さん、ですよね?」 「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」 「僕と、結婚してくれませんか」 あの一夜から、溺愛が始まりました。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

処理中です...