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第二十二部・岐路 編

ショーン・ロッドフォード

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「……カスミは強いね。でも無理したら駄目だよ」

 気遣われ、香澄は頷いた。

「……強く、なきゃ。……佑さんをパートナーとして支えられるのは、私だけですから」

 微笑んで言う香澄が痛々しく、クラウスは泣きそうな顔で笑う。

「カスミはいい子だから、きっと幸せになれるよ」

「ありがとうございます」

 その時、トントンと病室のドアがノックされた。

「誰だろ」

 クラウスが目を瞬かせた時、ドアが開いて佐野が来客を知らせる。

「ショーン・ロッドフォード氏が、面会をお望みです」

「あ……」

 その名前を聞き、香澄は目を瞬かせた。

 佑から何回も名前を聞いている、ホテル界の帝王と呼ばれている人物だ。

 今まで佑と一緒に泊まった、世界各地のホテルも、ほとんどロッドフォード社のものだったはずだ。

「ショーンは僕の友達だ。どんな意図で見舞いに来たか分からないけど、悪い奴じゃない。大事な話かもしれないし、試しに会ってみる?」

 クラウスに尋ねられ、香澄は「はい」と頷いた。

『初めまして、失礼するよ』

 佐野から返事を聞いて入ってきたのは、背の高い金髪碧眼の男性だ。

 俳優かと見まごうほどの美貌の持ち主で、一目見ただけで社交的で明るい性格だと察する事ができた。

 髪はさっぱりと短く清潔感があり、ダークスーツはオーダーメイドだろう。

 香澄はすぐさま立ち上がり、不思議そうな顔をしながらもショーンに近づく。

『初めまして。カスミ・アカマツと申します』

 名乗った香澄は、彼の目を見つめたまま、そろりと握手の手を差しだす。

 彼女の言葉を聞き、ショーンは感じのいい笑みを浮かべてしっかりと握手をした。

『ショーン・ロッドフォードだ。タスクから聞いていると思うが、ホテル業界で働いている』

 そう言って、ショーンは名刺をくれた。

『ありがとうございます。すみません。私いま名刺を所持していなくて……』

 申し訳なさそうに言うと、彼は「No Problem」と微笑んだ。

 そのあと、彼はクラウスと笑い合い、握手をしてからトントンと肩を叩き合った。

(本当に友達なんだ……)

 納得したあと、香澄は彼にお茶を出そうとキッチンに向かった。

『カスミ、僕がやるよ。ショーンは君に用事があって来たんだから、まず話を聞いたほうがいい』

『は、はい』

 言われて、香澄はクラウスに『お願いします』と頭を下げてから、ショーンにも座るように勧めて自分も着席した。

 ショーンは香澄を見て微笑み、話し始める。

『大した用事ではないんだ。僕もCEPのショーに招待されていて、あの現場を見ていた』

 香澄は頷き、曖昧に笑う。

『本来のスケジュールでは、ショーが終わったらタスクと会って食事をして、すぐパリを離れるつもりだった。だがさすがに心配になってね……。タスクから婚約者の話を聞いていて、本当はパリで紹介してもらう予定だったんだ』

 聞かされていなかった香澄は、『そうなんですか』と目を丸くする。

(サプライズにするつもりだったのかな。ショーもあって、そのあとホテル王とも会うって言ったら、私がキャパオーバーになると思ったのかもしれない)

『Mr.マツイの連絡先は知っていたから、彼に事情を聞いた。……そしたら、……驚いたよ』

 そこまで言って、ショーンは香澄を気の毒そうに見る。

 何とも言えない香澄は、また曖昧に微笑むしかできなかった。

『僕はタスクと随分前から友達なんだ。彼がまだ十代前半だった頃、クラウザー家主催のパーティーで彼に出会った。僕はいま三十三歳でアロクラと同い年だけど、タスクとも年齢が近い。だから彼らとはその頃から親友なんだ。似た環境の理解者を求めていたから、すぐに仲良くなれたと思っている』

 佑とショーンの出会いを聞かされ、香澄は微笑する。

 彼に心配してくれる友人がいると思うと、嬉しくて仕方がない。

(本当はショーンさんとの席を設けて、三人で食事をしながら教えてくれる予定だったんだろうな)

 そう思うと、胸が痛くなる。

『……今回、タスクは気の毒な事になったと思っている。協力できる事があれば勿論したいが、記憶をなくしたとなると手が出ない』

 ショーンは青い目で香澄を見つめ、問いかけてきた。

『君は今後、どうするつもり?』
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