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第二十二部・岐路 編

会わせてください

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 それから五日間、香澄は病室で過ごした。

 双子がお見舞いに来てくれたり、澪や律夫婦も病室を訪れた。

 澪は街中で買った高級スイーツをお土産に持ってきてくれ、アンネと同じような事を言って少し泣いた。

 そして据わった目で『あいつら、ぶっ殺してやる』と呟いていたが、その時には香澄は割と冷静になっていたので、一生懸命彼女を宥めた。

 入院費はアドラーが請け負ってくれたらしく、贅沢な個室で豪華な食事を食べさせてもらっているが、香澄はすっかり元気なつもりなのでどこか申し訳ない。

 現場にはマルコやルカ、マリアたちもいたらしく、『お見舞いに行きたい気持ちはやまやまだが、大変な時に押しかけては申し訳ない』と、看護師から三人分の手紙を受け取った。

 あたたかなフィオーレ家らしく、マルコもルカも『困った事があったら、いつでも頼ってほしい』と書いてくれていた。

 マリアからは『大変だろうけど、落ち着いた頃にメッセージアプリでなんでも言ってほしい。他人事ではないし、私なら香澄さんの気持ちをシェアできる』とあった。

 朔や松井、河野たちも見舞いに来て、ショーの後片付けがきちんと終わった旨を伝えた。

「佑さんはどうですか?」

 香澄たちは、個室のソファに腰かけて話していた。

「目覚めた当初は状況を把握しておられませんでしたが、ショーをきちんと終えられたと知って安心されていました。スケジュールは変更済みだとお伝えしましたら、少し安心されたようです」

 松井はまず、仕事面での返事をする。

 それが彼らしくて、香澄は少し安心した。

(松井さんさえいれば、佑さんはきっと大丈夫だ)

 本当に彼が自分を忘れてしまったのか、確認もしていないのに、一歩離れたところで考えてしまう自分が少し悲しい。

「体調は安定しているようです。『体を動かしたい』と仰っていましたので、無茶な事はしないように釘を刺しておきました」

「松井さんのいう事なら、きちんと聞きそうですね」

 香澄はいつもの彼と松井のやり取りを思いだし、小さく微笑む。

「……あの、松井さんたちとは面会できているのに、私はまだ……ですか?」

 思いきって尋ねると、松井、河野、朔がチラリと視線を交わす。

「私の事を忘れたかもしれないと聞いています。でも、万が一ってあるじゃないですか。…………っ、会わせてください。――――っ、会いたいんです……っ」

 声を震わせた香澄はクシャリと表情を歪めると、俯いて背中を震わせた。

 しばらく、香澄が嗚咽する声が室内に響く。

 次に口を開いたのは、朔だった。

「……松井さん、いいんじゃないか? いつまでもこのままじゃいられない。いつかは帰国するし、その時は同じ飛行機に乗る。顔を合わせるのが今か、あとかってだけだ」

 そのあと、河野が頷いた。

「僕も同意します。もしかしたら、赤松さんの顔を見て、思いだすかもしれないじゃないですか。思いださないかもしれませんが、やってみないと分かりません」

 二人に言われ、松井は溜め息をついた。

「……これ以上、赤松さんが傷付かないように、と思っていたのですけれどね。そりゃあ、怪我をした婚約者に会えていなければ、心配にもなりますよね」

 彼はそういって、立ちあがった。

「赤松さん、これから行けますか?」

 尋ねられ、香澄は頷いた。

「はい!」

 看護師からは自由に歩いていいと言われていて、佑に会えなかったのは、彼の側から――もっと言えば、松井のOKがなかったからだ。

 その辺りは、自分たちより二人の事情に詳しいだろうからと、アンネやアドラーたちも一任していたらしい。

「では、行きましょうか。お二人は、一時ここで解散とさせてください」

 松井が言い、朔と河野は頷いた。





 佑の病室は、同じフロアにあった。

 何号室かも分かっていたものの、部屋の前には警察と護衛が立っていたので入れなかったのだ。

 フランス人の警官ならまだしも、小山内と呉代が佑に会わせてくれない状況は、とてもつらかった。

 無理を言う訳にもいかず、香澄は彼らを悲しげな顔で見て引き返していた。

 向こうも相当つらい思いをしていただろう。

 だからこそ、松井が会わせると判断した今、お互い胸のつかえが下りたと思っている。

 松井が英語で警官に『こちらは第二秘書です。社長と面会します』と言うと、彼らは無言で頷いた。

 小山内と呉代は申し訳なさそうな表情で、香澄に会釈する。

(やっと会えるんだ……)

 香澄は胸元を押さえ、静かに湧き起こる興奮を必至に落ち着かせる。

 松井が引き戸をノックすると、中から「Come in」と佑の声がした。
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