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第二十二部・岐路 編

告げられた現実

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 検査は無事に済み、特に腹部に異常はないとの事だった。

 午前中いっぱいを検査に使い、昼に看護師が『食べたい物はありますか?』とメニューを見せてきた。

 VIP扱いなので、入院食も一般病棟とは違い、外部から一流の食事をデリバリーするのだという。

『……食欲がありません』

 香澄は小さく首を横に振って言ったが、看護師に「Non」と言われた。

『食欲がなくても、可能な限り食べてください。そのために様々なメニューがあります。ジャパニーズもチャイニーズもあります。あなたは点滴に頼らなくても自力で食事がとれるんです。食べて活力を得て、体の内側から元気を出してください』

 そう言われては仕方がなく、和食メニューの中にお粥があったので、それを注文した。





 届いたお粥をちびちびと食べていると、十三時半ぐらいにアドラーと節子、アンネが見舞いに来た。

「香澄さん、具合はどう?」

 アンネは開口一番そう尋ねてきたが、香澄の赤い目元を見て口を噤んだ。

「……佑さんはどうですか?」

 尋ね返すと、アンネは溜め息をついてから答える。

「結論から言うと、大事に至っていないわ。脳出血などはなし。脳震盪で気絶していただけ。腹部の傷も奇跡的に臓器を傷つけておらず、出血は収まった」

「良かった……!」

 ずっと知りたかった事を聞かされ、香澄は胸元で両手をギュッと握ると、ボロボロと涙を零し始めた。

 彼が死んでしまうかもしれないと思っただけで、底知れない恐怖が湧き、昨晩は薬を飲んだのにほとんど眠れなかった。

 安堵して涙を流している香澄を、三人は微妙な表情で見守っている。

 だが香澄は安心しきっていて、彼らがどんな顔をしているか確認できていなかった。

「感染症の恐れがあるから、抗生物質の点滴や服薬での治療をしていくみたい。感染症の治療が終わったあとに傷を縫合すると言っていたわ」

「はい」

(佑さんは当分入院になるだろうけど、私はもう元気と言っていいし、ホテルから必要な物を持ってきて……。あ、松井さんや河野さんもいるんだ)

 自分にできる事をと思ったが、人手は足りているかもしれない。

「佑さんにはいつ会えますか? 意識は戻っていますか?」

 尋ねた時初めて、三人の表情がいまいちパッとしないのに気づき、理由のない不安を覚える。

「……あの……?」

 おずおずと尋ねると、三人は視線を交わしてお互い探り合うような顔をする。

 やがてアンネが溜め息をつき、意を決したような表情で言った。

「頭を打った影響だと思うけれど、まだ記憶が混乱しているみたいなの」

「……はい。なら、ゆっくり休んでもらって……」

 よく分かっていないまま頷くと、アドラーが言った。

「佑は香澄さんの事だけ、記憶を失ってしまった可能性がある」

「………………はい…………?」

 彼の言っている事が分からず、香澄は目を瞬かせる。

「ファッティ! 急すぎるわ! …………香澄さん、まだ分からない。事件直後だし、落ち着いたら思いだすと思うから……」

 アンネがアドラーを責めるように睨み、父の言葉をフォローする。

「……あの……、私…………」

 香澄は呆然としたまま、モソモソとベッドから下りようとする。

「動いたら駄目よ」

「大丈夫です。今日、普通に歩いて検査を受けてきましたから」

 香澄は気遣ってくれたアンネに言い返し、震える声で尋ねる。

「佑さんの病室はどこですか?」

 ――この目で確かめるまでは、誰が何を言っても信じない。

 強い想いを込めて言ったが、節子が香澄の肩に手を置き、首を横に振った。

「香澄さん、落ち着いて。佑は昨日刺されたばかりなの。落ち着いて話せる状態ではないわ。私たちもチラッと顔を見ただけなの」

「…………すみません……」

 香澄は息を震わせて言い、その場にしゃがみ込む。
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