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第二十二部・岐路 編

付き添ってくれたアロイス

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「……佑さんは……?」

 香澄はベッド横に座っているアロイスに尋ねる。

「タンテたちが来ていたのが幸いだったね。MRIやらを撮る許可が下りて、すぐ検査が始まったはずだよ。腹部の傷はどれだけ深いのか分からない。臓器を傷つけてるかもしれない。でも、押収されたナイフは小さくて軽い物だったし包丁ほどの刃渡りはないから、根元まで刺さったとしても、そう深い傷にはならないんじゃないかな」

 アロイスは慰めてくれるが、佑が刺されてしまったのは事実だ。

 胸が痛み、動悸がしてくる。

 ギュッと目を閉じて深呼吸を繰り返すと、アロイスに頭を撫でられた。

「ゆっくり休みなよ。後始末はサクが先導してやってるし、カスミの仕事は病院で体を回復させる事だ。あいつは動けるようになるまで入院だし、その時に元気な顔を見せてあげたら、きっと喜ぶよ」

「……はい。……今、何時ですか?」

「二十二時半だね。俺もそろそろ、一旦ホテルに戻るよ。我が儘言って付き添わせてもらってるから」

「はい。お付き合いありがとうございます」

 呟くように言ったあと、香澄はケホッと咳き込んだ。

 立ちあがったアロイスは、香澄の頭を優しく撫でた。

「あいつら本当にやらかしたから、今度こそ警察に捕まった。フランク爺さんも庇いようがないと思うし、フェルナンドとか名乗った男の素性も分かるはずだ」

「……はい」

 すべて終わったと思っていたのに、いまだにあの二人に狙われていたとは思っていなかった。

 加えて、あの二人が繋がっていて共謀していたのも驚きだった。

「下っ端も使えないぐらい、破れかぶれになってたんだろ。もう後はないぜ、あいつら」

 アロイスはせせら笑い、香澄の頭をポンポンと撫でる。

 そして大きな溜め息をついた。

「カスミとタスクは試練ばかりあるね。でも今まで立ちはだかった壁の裏には、常にあいつらがいた。あの二人さえ退場すれば、もう邪魔する奴はいないと思う」

「……そうですね。そう思いたいです」

 香澄は無理矢理口角を上げ、笑ってみせる。

 それを見たアロイスは、今は何を言っても香澄を落ち込ませると思ったようだ。

「じゃあ、そろそろ行くね。廊下には警察がいるから安心して。クズミとサノ? 彼らもいるよ。具合が悪くなったらナースコール押してね。英語で大丈夫だから」

「はい」

「明日、許可が出たら誰か連れてくるよ」

「楽しみにしています」

「もし必要な物があったらメッセージ頂戴」

「はい、何から何までありがとうございます」

 最後まで細やかな気遣いをしたあと、アロイスは退室していった。

 広い個室に一人になった香澄は、ふう……と溜め息をつく。

 ぼんやりと天井を見上げて何かを考えようとしたが、自分がどこにいるのか、今がいつなのか、すべてが曖昧になっているのを感じ、諦める。

 冷静になって考えれば自分がどう過ごしてきたか分かるはずなのに、頭の中がグチャグチャになっていて整理がつかない。

 アロイスが去る前、香澄は看護師に付き添われて睡眠薬を飲んだ。

 だが気が高ぶっていて、なかなか薬が効く気がしない。

(……駄目だ。元気になって佑さんのお世話をするんだから。きちんと寝て明日に備えるの)

 自分に言い聞かせ、目を閉じて必死に寝ようとする。

 が、感覚としては一時間ぐらい頑張って寝ようとしたのに、まだ眠れない。

 溜め息をついた香澄はライトをつけ、スマホを立ち上げると、無意識にアルバムを開き、佑の写真を際限なく捲っていた。

「……佑さん……」

 愛しい人の名前を呟き、涙を零す。

 スプレーを掛けられて一生分泣いたと思ったのに、涙はまだ零れてくる。

 香澄はグスッと洟を啜り、スマホを抱き締めた。



**



 翌日、香澄は検査を受けた。

 目と喉の痛みは引いたものの、髪を引っ張られハイヒールで腹部を踏まれた。

 鋭利な物で腹部を強く突かれた場合、内蔵を損傷する恐れもある。

 だが昨日は腹痛を起こさなかったので、とりあえず目と喉の処置をして寝かされた。

 本日はアドラーや節子たちの希望でCTスキャンを撮り、内臓に異常がないか確認された。

 香澄は病衣で院内を移動し、英語で指示を受けて検査を受ける。

 院内を移動する間、久住と佐野がずっと側にいてくれた。

 事件後初めて彼らに顔を合わせた時、二人からは守れなかった事を土下座して詫びられたが、もう起こってしまった事は仕方がない。

『一緒に佑さんの回復を待ちましょう』

 香澄はそう言うしかできなかった。
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