1,440 / 1,549
第二十二部・岐路 編
澪に想いを寄せる男性は……
しおりを挟む
給仕の女性がドリンクメニューを出し、アドラーはスパークリングの日本酒、節子はお茶を頼んだ。
店内には日本酒の瓶が並んでいて、かなり酒にこだわっているのが分かる。
興味はあったがアドラーと節子の前で失敗してはいけないので、香澄もお茶にしておいた。
「佑は忙しくしているのか?」
アドラーに尋ねられ、香澄は頷く。
「はい。今はモデルさんに実際服を着てもらって、調整しているみたいです。今さらながらなのですが、ハイブランドに関わっているんだなと思うと、私まで緊張してしまって。今まではショーの舞台に来る事はなくて今回が初めてなので、街中を歩いていてもモデルさんらしき人を見かけるとドキドキしています」
「ファッションショーと聞いたら、ワクワクするわよね。色んなブランドのショーを見て、香澄さんの好みを固めていくといいわ」
「そ、そんな、好みだなんて……」
プレタポルテで一着何十万、オートクチュールとなれば何百万、それ以上になる服に対し、好みと言われても困ってしまう。
「結婚式に何を着るのか決めているの? もし着物を着るなら私に協力させてほしいけれど……」
「も、勿論です! その時は宜しくお願いいたします! ……でもまだ詳細は決まっていません。……けど、佑さんがウエディングドレスを作ってくれているみたいなので、式ではそれを着たいなと思っています」
「あの子が手ずから作っているなら、着ない訳にいかないわね。……じゃあ、お色直しで着物を着ましょう」
「は、はい」
にこやかに、けれどしっかりと押しが強いのが節子だ。
「白無垢か、色打ち掛けか迷うわねぇ……。角隠しか綿帽子か……」
節子は出されたお茶を飲み、うっとりとした顔で呟く。
「幾つになっても結婚式はいいわね。自分が花嫁になる事はもうないけれど、下の世代の子たちを飾る楽しみがあるもの。陽菜さんの時も楽しかったわ」
「澪さんも、アメリカ人の彼氏とうまくいっているんでしたっけ」
香澄はさりげなく話題を自分から澪に逸らす。
「あぁ……、リアムね……」
節子も件のアメリカ人については聞いているらしく、苦笑いする。
「リアムさんって言うんですか?」
以前にアフターヌーンティーをした時、澪は恥ずかしがって相手の名前を教えてくれなかったので、香澄は思わず食いついた。
「本名はウィリアム・ジョーダン・カルヴァート。FTを知っているだろう? フェイスツール」
「は、はい!」
フェイスツールとは、四大SNSと言われているなかの一つで、実名登録をするタイプのSNSだ。
香澄はあまり本名でSNSをしたくないので、もっぱら匿名性のあるジャフォットや、モノローグを使っている。
だがChief EveryもFTの公式アカウントを持っているし、いわゆるリア充系の人は匿名SNSよりFTを利用している。
しかし世界的に見れば、匿名性のあるSNSより、本名で利用するFTのほうが利用人口が多いのが事実だ。
「リアムはそのFTのCEOだ」
「ヒッ……」
あまりに大物が出てきて、香澄は鋭く息を吸う。
(澪さん……! なんて人に好かれてるの! さすが!)
「う、うまくいってるんですか?」
香澄はつい前のめりになり、アドラーと節子の顔を覗き込む。
すると夫婦は顔を見合わせ、微妙に笑った。
「どうかしらね? 澪はまんざらでもないみたいだけれど、あの子ブラコンなところがあるでしょう? 好みは自分の兄たちなのよ。だからリアムの外国人的な、熱烈な愛情表現をどう受け取ったらいいか分からないでいるのだと思うわ」
「あぁー……」
香澄は大きく頷いた。
澪と初めて会った時、『大好きな佑の彼女? どんな女?』という興味と敵対心が強烈だった。
強気な性格なので恋愛もグイグイいくかと思えば、あまり浮いた話を聞かない。
蓋を開けてみれば割と奥手らしく、リアムに迫られてタジタジになっているのを想像すると、可愛くて堪らない。
「へぇぇ……。頑張ってほしいなぁ……」
香澄はニヤニヤ笑い、水を一口飲む。
すると節子がにっこり笑った。
店内には日本酒の瓶が並んでいて、かなり酒にこだわっているのが分かる。
興味はあったがアドラーと節子の前で失敗してはいけないので、香澄もお茶にしておいた。
「佑は忙しくしているのか?」
アドラーに尋ねられ、香澄は頷く。
「はい。今はモデルさんに実際服を着てもらって、調整しているみたいです。今さらながらなのですが、ハイブランドに関わっているんだなと思うと、私まで緊張してしまって。今まではショーの舞台に来る事はなくて今回が初めてなので、街中を歩いていてもモデルさんらしき人を見かけるとドキドキしています」
「ファッションショーと聞いたら、ワクワクするわよね。色んなブランドのショーを見て、香澄さんの好みを固めていくといいわ」
「そ、そんな、好みだなんて……」
プレタポルテで一着何十万、オートクチュールとなれば何百万、それ以上になる服に対し、好みと言われても困ってしまう。
「結婚式に何を着るのか決めているの? もし着物を着るなら私に協力させてほしいけれど……」
「も、勿論です! その時は宜しくお願いいたします! ……でもまだ詳細は決まっていません。……けど、佑さんがウエディングドレスを作ってくれているみたいなので、式ではそれを着たいなと思っています」
「あの子が手ずから作っているなら、着ない訳にいかないわね。……じゃあ、お色直しで着物を着ましょう」
「は、はい」
にこやかに、けれどしっかりと押しが強いのが節子だ。
「白無垢か、色打ち掛けか迷うわねぇ……。角隠しか綿帽子か……」
節子は出されたお茶を飲み、うっとりとした顔で呟く。
「幾つになっても結婚式はいいわね。自分が花嫁になる事はもうないけれど、下の世代の子たちを飾る楽しみがあるもの。陽菜さんの時も楽しかったわ」
「澪さんも、アメリカ人の彼氏とうまくいっているんでしたっけ」
香澄はさりげなく話題を自分から澪に逸らす。
「あぁ……、リアムね……」
節子も件のアメリカ人については聞いているらしく、苦笑いする。
「リアムさんって言うんですか?」
以前にアフターヌーンティーをした時、澪は恥ずかしがって相手の名前を教えてくれなかったので、香澄は思わず食いついた。
「本名はウィリアム・ジョーダン・カルヴァート。FTを知っているだろう? フェイスツール」
「は、はい!」
フェイスツールとは、四大SNSと言われているなかの一つで、実名登録をするタイプのSNSだ。
香澄はあまり本名でSNSをしたくないので、もっぱら匿名性のあるジャフォットや、モノローグを使っている。
だがChief EveryもFTの公式アカウントを持っているし、いわゆるリア充系の人は匿名SNSよりFTを利用している。
しかし世界的に見れば、匿名性のあるSNSより、本名で利用するFTのほうが利用人口が多いのが事実だ。
「リアムはそのFTのCEOだ」
「ヒッ……」
あまりに大物が出てきて、香澄は鋭く息を吸う。
(澪さん……! なんて人に好かれてるの! さすが!)
「う、うまくいってるんですか?」
香澄はつい前のめりになり、アドラーと節子の顔を覗き込む。
すると夫婦は顔を見合わせ、微妙に笑った。
「どうかしらね? 澪はまんざらでもないみたいだけれど、あの子ブラコンなところがあるでしょう? 好みは自分の兄たちなのよ。だからリアムの外国人的な、熱烈な愛情表現をどう受け取ったらいいか分からないでいるのだと思うわ」
「あぁー……」
香澄は大きく頷いた。
澪と初めて会った時、『大好きな佑の彼女? どんな女?』という興味と敵対心が強烈だった。
強気な性格なので恋愛もグイグイいくかと思えば、あまり浮いた話を聞かない。
蓋を開けてみれば割と奥手らしく、リアムに迫られてタジタジになっているのを想像すると、可愛くて堪らない。
「へぇぇ……。頑張ってほしいなぁ……」
香澄はニヤニヤ笑い、水を一口飲む。
すると節子がにっこり笑った。
12
お気に入りに追加
2,546
あなたにおすすめの小説
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる